猫獣人たかお 29

 猫に戻れる――?
 オレの背筋が戦慄いた。人間になりたいとはあまり考えなかったけど、猫に戻れるというのは魅惑的な提案だった。
 真ちゃんは猫のオレも獣人のオレも愛してくれた。でも、猫に戻ったら、真ちゃんと交尾できない……。
「オレ、このままでいいです。真ちゃんと添い遂げることができるなら」
「そうですか――」
 神様は微笑んだ。
「獣人は人間と同じくらいの寿命があります。キミはもしかすると、緑間君よりも長生きするかもしれませんね」
「にゃあ。真ちゃんがオレより先に死ぬのやだ……」
「例えばの話です。でも、今はまだ獣人は迫害の対象ですよ」
「それでもいい! オレ、みんなと一緒に戦うよ!」
「覚悟は決めている、ということですね」
 オレは頷いた。
「では、ボクはこれで。たかお君。これからも緑間君と仲良くしてくださいね――それから、キミは立派な獣人になるでしょうね。さぁ、起きなさい……」
 神様達の姿がぼやけた。
 真ちゃんがオレの名前を呼びながら揺すってくれる。
「ん……んんん……」
「さぁ、帰るぞ」
「うん……」
 オレは眠い目をこすった。
「ねぇ、真ちゃん」
「ん?」
「獣人のオレは好き?」
「当たり前だろう。かずなりだったら、どんな姿でも大好きだ」
 真ちゃん、嬉しい――!
「真ちゃん、真ちゃん!」
「離れろ、暑苦しい!」
 こういうのってツンデレって言うんだよね。真ちゃんはツンデレだー!
「真太郎。ヘリの用意ができたぞ」
 と赤司。
「ああ、そうか。スチュアートさん、リチャード、世話になった」
「いやいや」
「今吉さん、花宮さん、かずなりを助けてくれてありがとう」
「ワシら、何もしてへんて」
「ま、退屈はしなかったな」
 オレ達はみんなに手を振った。今吉サンと花宮サンは、もう少しこの島にいるらしい。
「リチャードと一緒に、イギリスに渡るのも手かもなぁ」
 今吉サンはそんなことを言っている。リチャードはとても喜んでいた。
 さよなら、今吉サン、花宮サン。
 結局オレはみんなに護られてばかりだったにゃあ。――オレ達は赤司のヘリで故郷へと帰って行った。

 そして、ここからは後日譚。
 どこから話を聞いたのか、獣人研究開発センターというところが真ちゃんとオレに興味を持ったらしい。所長が赤司の父親の知り合いらしいが、赤司はオレ達がそこへ行くのを止めている。尚、赤司によれば、「君達のことを話したのは僕じゃない」らしい。
 そんな赤司は、腕利きの弁護士を雇ってアニマルヒューマン保護機構と戦うつもりらしい。勿論、オレも協力するつもりだ。
 今吉サンと花宮サンからは時々手紙が届く。真ちゃんが住所を教えたのだ。
 数ヶ月後、発情期を迎えたオレは、無事真ちゃんのものになった。だけどそれはまた別の話。
 オレは真ちゃんとたくさん1on1をするようになった。猫だった時代の仲間達とも頻繁に連絡を取り合っている。
 そして――。
「真ちゃーん。早く早くー」
「待つのだよ。かずなり」
 この春、オレは真ちゃんの通っている大学に入学した。入学式の答辞も読んだ。――高認もちゃんと受けたもんね。真ちゃんの勧めで。
「張り切ってるな。かずなり」
「だって、真ちゃんとバスケできるんだもん。毎日が楽しいよ」
「あまり無茶はするのではないのだよ」
「わかってるって」
 ――オレはウィンクした。
 オレは、バスケ部に入部した。真ちゃんといつも一緒だから、宮地サンに、
「お前ら、あまりイチャイチャするな。轢くぞ」
 などと脅されている。もう慣れっこなのでみんなで笑った。
「この、リア充爆発しろ!」
 宮地サンが捨て台詞のように言ったが、リア充って何だろ。
「ねぇ、リコさん。リア充って何?」
「人間関係や趣味や勉強が充実していることを言うのよ」
 なぁんだ。じゃあ、オレ、リア充だ。真ちゃんがいるもん。
「ねぇー、真ちゃんもリア充だよね」
「当たり前なのだよ」
 大学二年生になった真ちゃんは、どことなく雰囲気に貫録が出てきた。後輩達の面倒も良く見ている。
「緑間さん、たかおさん、オレはあなた達が目標です」
 そんな言葉を言ってくれた犬の獣人もいる。真ちゃんと同列……オレは嬉しいと共に少し面映ゆかった。
「たかお君」
「てっちゃん!」
「オレもいるぜ。さぁ、楽しい楽しい部活の始まりだ」
 タイガが言った。オレはすっかりバスケ部に溶け込んでいる。真ちゃんとくっついて歩いていたからかな。
 大学生になるまで、部活には正規に参加することができなくて限られたメニューのみだったけど、これからは、ばんばんバスケするからにゃー!
 それにしてもてっちゃんの技はすごい。試合ではいつも思い知らされる。
 この大学の選手達はすごい人ばかりだからにゃあ……。
 勿論、勉強も楽しい。
 この間は全問正解してイケメンの原澤先生にいい子いい子されてしまった。
 学年は違うけど真ちゃんと一緒の学校で嬉しい。一緒の講義も多いからますます嬉しい。いつだってオレは真ちゃんの隣にいたかったのだ。これは恋だ。真ちゃんはオレの番の相手だ。
 猫の姿のままだったら一生気付くことのなかったこの思い。オレ、たかおかずなりは真ちゃんの恋人であることが誇らしい。
 神様――ありがとう。
 ふわっと風が香った。開きっぱなしになってる窓から心地よい空気が入ってくる。
 大学卒業したら、一緒に世界で活躍しようね。真ちゃん。
 オレがそう言うと、真ちゃんはアンダーリムの眼鏡の奥から溶け入りそうな目をして、
「そうだな」
 と、囁いた。

 まだまだ書きたいことはたくさんある。
 日向サンとリコさんが付き合うことになった。木吉兄ちゃんはちょっと寂しそうだけど、かっこいいからまた恋人できるよ!
 コガはやっぱり水戸部の通訳をしている。それにしても、コガは上達したみたいだ。オレも負けてらんねぇな。
 主将は相変わらず赤司。赤司をサポートする虹村サンもショーゴとそれなりに仲良くやってるみたいだ。
 青峰は普段はともかく、バスケをやっている時はとてもかっこいい。オレにバスケの手ほどきをしてくれる。黄瀬ちゃんが加わる時もある。青峰と黄瀬ちゃんの距離が短くなったと思うのは気のせいだろうか。オレは、黄瀬ちゃんが真ちゃんの技の真似をしても、寛大な心で許せるようになった。
 そう言うオレは、黄瀬ちゃんをしょっちゅうしばいている笠松サンと仲良くなった。オレが正規の部員になる前からだけど。それから、オネエの実渕サンもオレに何かと良くしてくれる。
 氷室サンとムッ君は一緒にいることも多いが、恋人同士というわけではないらしい。氷室サンには別に本命がいるとの噂だ。
 宮地サンは口は悪いがいいところもある。木村サンや大坪サン達がいつもフォローに回っている。三人はドルオタと呼ばれている。
 降旗はまだ赤司と付き合っているが満更でもないようだ。
 桃井サンはいつも明るい。切った髪は最近また伸ばし始めたらしい。リコさんとも前より仲良くなったみたいだ。でも、ポイズンクッキングを二人で作って部員に食べさせるのは勘弁して欲しい……。
 マー坊は厳しいけど優しい。時々オレにお菓子をくれる。うちの子にならないか、と、どうやら本気で言っているようだ。でも、オレには真ちゃんがいるからなぁ。
 2号はいつでもマイペース。
 それにしても、てっちゃんとタイガ。この二人はどうしてあんなに息が合っているのだろう。オレも真ちゃんとそういう関係になってみたい。体の関係ばかりではなく。
 ――毎日疲れて帰ってくるオレ達は、平等に家事を分担している。家事が苦手だった真ちゃんも、いつしか上達していた。真偽の程を知りたい方は、是非ともオレ達の家に遊びに来てね。

2017.8.30

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