猫獣人たかお 28

 オレ達は無事島に泳ぎ着いた。でも、体中しょっぱくなっちゃった。砂もついてるし、服は濡れてるし。
 陸に上がって丸くなって眠る。そのうちに朝になった。
 一人の少年がやってきた。目の覚めるような美少年だった。金色の髪、青い大きな瞳。白い肌。
「お兄ちゃん達、獣人さん?」
 その子が訊いた。うわ、声まで綺麗だにゃあ……。それに日本語の発音も完璧。
「そうや。坊ちゃん。ワシは今吉翔一や」
「――花宮真」
「たかおかずなりだよ! 宜しくね!」
「うん! ちょっと待って。パパ呼んでくる。パパー! パパー!」
 男の子のお父さんがやってきた。
「スチュアート・シンプソンだ」
 そう言って、オレ達に握手を求めてきた。因みに美少年の息子の名前はリチャード・シンプソン。
「ここにはリゾートでやってきたんだ。君達も存分に遊んでいくといい。何なら、リチャードの相手をしてくれると助かるんだが」
「にゃあ!」
「バスケしよう、バスケ」
 リチャードがバスケットボールを持っている。今吉サンがリチャードに訊いた。
「自分、それ、マイボールか」
「うん。お兄ちゃん達、バスケできる?」
「オレ達は高校ではバスケ一筋やったんや。花宮もそうやったな」
「ああ。ラフプレーが得意だったんだが、流石にもうしないよ」
「オレの飼い主もバスケが得意なんだ。緑間真太郎って言うんだけど、知ってる?」
「うん!」
 少年は目をきらきらさせた。
 リチャードがバスケットコートに誘う。
「おお、本格的やな」
「お兄ちゃん達、やってみる?」
「そうやな――たかお。手本見せたれや。緑間とやってんやろ?」
「ん……」
 オレは、真ちゃんと同じようにシュートを撃ってみたかった。
 おかしいね。黄瀬ちゃんが真ちゃんのシュートを真似した時は、オレ、あんなに不愉快だったのに。でも、今なら黄瀬ちゃんの気持ちわかる。真似したいほど綺麗なんだよね。真ちゃんのシュートって。尤も、黄瀬ちゃんは他の人の技も見境なく真似してたけど――。
 オレは見様見真似で真ちゃんと同じように構える。撃つ!
 ボールはリングの縁を回って網目に入った。
「すごーい!」
 リチャードはそう言ってくれるけど、オレ、もっと上手く入れるつもりだったんだにゃあ……。
「いや、へたくそだな」
 花宮サンは容赦ない。オレも自分でそう思う……ううう……。
「花宮さん! たかおに意地悪言っちゃダメなの!」
 リチャード……花宮は『さん』づけでオレは呼び捨てか。まぁいいけど。オレも人のことは言えないし。
 2on2をしばらくやって、オレ達は帰ってきた。
 スチュアートさんが紅茶を淹れてくれた。二人はイギリス系だ。イギリスの紅茶は美味しい。ただし、料理はマズイらしい。リコさんや桃井さんのよりもマズイのかな。
 オレ達は今までのことを話して聞かせた。ただ、今吉サンと花宮サンの二人が隠しておきたいことがあるのは、何となくわかった。
「そうか。君は赤司征十郎とも友達なのかい。僕も彼のことは少しだけど知ってるんだ」
 と、スチュアートさんが紅茶の香りを堪能しながら言った。
「赤司は真ちゃんとも友達だよ。オレ、真ちゃんのとこに帰りたい……」
 オレは、自分で言ってちょっと落ち込んだ。ここは楽しいけど、真ちゃんはいないんだ……。
「待っててくれ。ちょっと野暮用があるから」
 スチュアートさんが出て行った。それからしばらくして、彼は戻ってきた。
「赤司と連絡が取れたよ。ヘリだから半日で来るって。君の相棒の真ちゃん――緑間真太郎も一緒に来るってさ」
 スチュアートさんがウィンクした。ああ、スチュアートさん……! 真ちゃんが来るの?! ここに!
「やったー!」
「よかったね。たかお」
 リチャードが拍手をした。
「オレは真ちゃんのところに帰るけど、今吉サンと花宮サンはどうするの?」
「ワシらか。ワシらは旅から旅への渡り鳥や。今回はちょっと失敗したけど、もうドジは踏まへん」
「そっかー……獣人の友達ができたって、学校の友達に自慢したかったのになぁ……」
「リチャード、自分らがこの島にいるうちはここにおってもええで。たかおは帰らなあかんかもしれへんがな」
「ほんと?!」
「ああ。ほんまや」
 今吉サンが穏やかに笑った。
 ヘリは本当に半日で来た。真ちゃんの姿も見える。オレは真ちゃんに抱き着いた。オレ達は固く固く抱きしめ合ってキスをした。リチャードは目を丸くしていた。
「たかおと緑間さんは恋人同士なの?」
「あの……えと……」
 オレは戸惑っていた。でも、心配は無用だった。
「たかおかずなりはオレの恋人なのだよ」
 真ちゃんが宣言してくれた。ああ、もう死んでもいいくらい幸せ……。
 赤司が言った。
「たかお、真太郎は学校があるから、明日は帰らないといけないよ」
「じゃあ、明日までいていいってこと?」
「僕もいていいならね」
 さすが赤司。ちゃっかりしてる。
「僕は疲れたよ……」
 リチャードがあくびをする。そして、部屋に戻って行ってしまった。今吉サンと花宮サンも案内された部屋に早々に引っ込んでしまった。
「どうもありがとうございます。スチュアート・シンプソンさん」
「いやいや。なになに。お役に立てて嬉しいよ」
「真太郎がすごく心配してね」
「余計なことを言うのではないのだよ。赤司」
「真ちゃん。あのね、オレね、リチャードと遊んだの」
「そうか。それは良かったな」
「でも、あったかいからオレも眠くなってきちゃった……」
「ここで寝るといい」
 スチュアートさんがソファを譲ってくれた。
「あんなに素敵なコートが外にあるのに、たかおとバスケができないのは残念だな……真太郎。1on1しようか」
「望むところだ」
「にゃあ……」
「――オレは、ちょっとかずなりとここにいるのだよ。赤司。先に行っててくれ」
「わかったよ、真太郎」
 オレは微睡んでいた。とても、幸せだった。
「愛してるのだよ、かずなり――」
 眠りに落ちる前に、真ちゃんのそんな声が聴こえた。オレも、真ちゃんに会えてよかった――。

「たかお君、たかおかずなり君――」
 呼んだのは、てっちゃんそっくりの神様だった。裏方の赤い髪の男もいる。オレは、「にゃあ」と返事をした。
「よかった。キミが無事で。そして、あやまりたいことがあったんです。――キミを選んでごめんなさい」
「にゃあ?」
「僕は他の神様と賭けをしたんです。獣人嫌いの緑間真太郎君が獣人になったキミを愛するようになるかどうか――賭けはボクの勝ちでしたが、ボク達のせいでキミに迷惑をかけて申し訳ありませんでした」
「ううん。オレ、獣人になってよかったよ。真ちゃんとも言葉を交わせるようになったし。言葉って大事だね」
「良かった――」
 神様が吐息を吐いた。
「それに、真ちゃんはオレが猫だった頃から好きだったらしいから。真ちゃん、猫は嫌いだけど、かずなりだったら平気だって」
「お熱いですね。――ところで、たかお君。キミには三つの選択肢があります。このまま獣人として生きるか、猫に戻るか、それとも――もしかしたら人間になりたいですか?」

2017.8.24

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