猫獣人たかお 16

「――どりまくん、みどりまくん……」
「オレを呼ぶ声がするが誰なのだよ」
「ボクはあなたを一日だけ猫獣人にします」
「誰だ。貴様」
「ボクは神様です」
「――随分カゲの薄い神様だな」
「心外ですね。これでも理力はちゃあんとありますよ。ポイントが余ったので、キミを一日だけたかお君と同じにします」
「かずなりと――?」
「そうです。えいっ」

 ――――――。
「しんちゃん、しんちゃん」
「かずなり!」
「目覚まし鳴っても真ちゃんなかなか起きないから……おは朝見逃すと大変なんでしょ? それから……どうしたのそれ」
「どうしたのって?」
「耳がオレと同じになってるー」
「耳が?」
 真ちゃんは鏡の中に自分の姿を映す。
 ぴこぴこ。
 真ちゃんの頭の上には、黒い猫耳が。長いふさふさした尻尾もあるよ。オレは嬉しくなった。
「オレとおんなじー♪」
「ば、馬鹿な……猫にだけはなりたくないと思っていたのに……」
 真ちゃんはショックを受けているようだった。そんなにオレと一緒はイヤ? 昨日はオレと同じ猫耳のキャスケットかぶってくれたのに。
「真ちゃん、猫になるのイヤ?」
「当たり前だ。猫は苦手なのだよ」
「でも、オレといるのは平気じゃん」
「それはかずなりだからなのだよ。――この姿で大学行かなければならないなんて……」
「真ちゃん学校行くの?」
「当たり前だ。猫になっても人事は尽くす!」
「揺るがないね。あ、そろそろおは朝の時間だよ」
「何っ?! 見ねば」
『今日の蟹座は12位。ラッキーアイテムは毛糸玉だよ』
「毛糸玉……」
「わーい! 真ちゃん、毛糸玉で遊んでいーい?」
「いい訳ないのだよ!」
 ……怒られちゃった。冗談なのに。オレはてへぺろってヤツをした。
 真ちゃんの体が揺れた。
「どうしたの? 真ちゃん!」
「てへぺろ……てへぺろにこんな破壊力があるとは……」
 オレは首を傾げた。取り敢えずオレも一緒に学校へ行こう。

「真ちゃーん。みんなオレ達を見てるぜ」
「無視して行くのだよ」
「あっれー。緑間じゃねぇか」
「――ヤなヤツが来たのだよ!」
「青峰、おっはよー」
「ああ、カズか。緑間――それ、ペアルックか?」
「黒子そっくりの神様に呪いをかけられたのだよ」
「呪い?」
 そういえば、何で真ちゃんが猫獣人になったのか訊かなかったっけ。一日で戻るとは聞いたけど。
「はいはい。お前らの仲いいことはわかったからさ」
「……ちっともわかってないのだよ」
「ようっす」
「――おはようございます」
「火神に黒子――黒子、お前よくも……」
「どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもない。オレをこんな姿にして――」
「緑間君も猫獣人になったのですか」
「ぷっ、似合ってるぜ、それも。昨日の帽子といい、緑間、おまえほんとはたかおと同じになりたかったんじゃね?」
「うるさいのだよ、火神! おかげで注目の的だ。とんだ災難なのだよ」
「たかおと一緒なのにか?」
「かずなりはかずなりでいいのだよ。だが、オレを巻き込むな」
「オレが巻き込んだわけじゃねぇし」
「まぁいい。お前らと話してても埒が開かん。行くぞ。かずなり」
「うん」
 オレは、ごめんね、の代わりに軽く会釈をした。
「――可愛いですね、あの二人」
「そーかぁ?」
 てっちゃんと青峰の話す声が聴こえた。

 教室に入ると――桃井サンが駆け寄ってきた。
「きゃーん。ミドリンも猫耳に猫しっぽだー! 噂は本当だったのね! 萌えー! ……あ、でも、テツ君命だからね、私。テツ君が猫耳になったら……」
 桃井サンは自分の妄想で倒れてしまった。
「全く、何なのだよ、これは……」
 真ちゃんは不服そうだ。後から来たてっちゃん達が桃井サンを介抱している。青峰が桃井サンの名前を呼んでいる。必死で「さつき、さつき」と……。青峰は本当はタイガだけでなく、桃井サンも好きなんだろうか……。
「ハンパねぇ破壊力だな」
 うう……タイガ。それ、今回はオレ達のせいじゃない。真ちゃんは何も言わないけど、ちょっとすまなそうにしている。――あ、そうだ。
「真ちゃん。これ、ラッキーアイテム。これ見て元気出しなよ」
 そう言って鞄から取り出したのは毛糸玉。ころころと転がると糸が解れる。
「――む。これは心が弾んでくるのだよ」
 真ちゃんが毛糸玉にじゃれついて遊んでいる。
「緑間ぁ。お前邪魔だぞ」と、タイガ。
「わかってる。わかってるけど止められんのだよ。――かずなりの気持ちが少しわかったのだよ」
「ねぇー。毛糸玉面白いよねー」
「これがラッキーアイテムの威力か……」
「んー、でもさ、一日で人間に戻るんだよね。オレはもっと真ちゃんと遊びたいけど」
「オレで遊びたいの間違いじゃないのか?」
「えー、一日だけなのぉ、もったいない。動画撮ってあげるー」
 目を爛々と光らせたクラスメートの女の子達が近寄ってくる。
「いらないのだよ!」
 真ちゃんが女の子の一人に飛びかかって手加減したネコパンチ!(ネコパンチ、と言っても手は人間の物だけど)
「あーあ、落としちゃったー。壊れたらどうすんのー」
「お前のせいだぞ、緑間」
 タイガは明らかに面白がっている。真ちゃんの耳がぺたんとへたっている。
「何故オレが責められなければならないのだよ……まぁ、すまなかったのだよ……」
「あ……いいのいいの。無事なようだし」
「真ちゃん、女の子は大切にするんだよ。わかったね。――ほら、マー坊が来たよ」
「誰がマー坊だ。たかお。緑間……すっかり可愛らしくなったなぁ。うちに遊びに来ないかい?」
「――結構です。この格好も一日だけですから」
「そうかぁ、残念だなぁ」と、マー坊は寂しそうに呟いた。

2017.5.11

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