猫獣人たかお 15

「バニラシェイク♪ バニラシェイク♪」
 オレが歌いながらてっちゃん達についてマジバに入ると――。
「いらっしゃいませー」
 キレイなおねえさん可愛い笑顔で応対してくれた。さっきの店とは大違いだ。
 店内には獣人もたくさんいる。勿論、猫獣人も。あ、あの子可愛い。
「マジバーガー20個」
 タイガが注文する。
「何でそんなに食うのだよ」
「だって腹減ってるから」
「将来メタボになっても知らないのだよ」
「オレ、バスケでカロリー消費してるからな」
 真ちゃんは、はあっと溜息を吐くと、てっちゃんの方に向き直った。
「黒子。これじゃお前も大変だろ。お前ん家のエンゲル係数が心配なのだよ」
「だから、いっぱい仕送りしてもらっているんですよ。さっき言ったように。それに、お金が足りなければ請求上乗せしますし。ですから心配はいりません」
「そうは言ってもなぁ……」
「火神君の食べっぷりは見ててとても清々しいですよ」
「胸焼けがしそうなのだよ――かずなりは普通でよかったよ」
「真ちゃん……」
 何だか知らないけれど、褒められたようで嬉しい。
「おう。かずなりはマジバーガー食わねぇの?」
 そういや、食べたことないな。バニラシェイクしか頼んだことないし。
「ハンバーガーには玉ねぎが入っているのだよ。玉ねぎについては――まぁ、この間は大丈夫そうだったがな」
「――まぁ、獣人は普通の食事も食べられますからね」
「そっか。じゃあ、オレ、食べてみたいにゃあ」
「しかし……」
「ほら、緑間君。玉ねぎ抜きのもありますよ。獣人向けですね」
「――そうか。どうする? かずなり」
「どっちも食べたいにゃあ」
「じゃ、お前はマジバーガー二個な」
 真ちゃんは前より柔らかい視線になっているような気がする。どうしてだろう。
「緑間ー。とろけそうな目してんぞー」
 にゃっ。やっぱりタイガもそう思う?
「そ……そんなことないのだよ!」
 真ちゃんが焦る。焦る必要ないのになあ。
「やっぱ、恋してんのか?」
 タイガがにやにやしながら言う。恋?! 誰に?! 真ちゃんに恋される幸せ者って誰?! ――もしかしてオレ?! だったら嬉しいなぁ……。
「そんなにかずなりが好きか?」
 にゃっ?! やっぱりオレ?!
「――バカなこと言うのではないのだよ」
「オレは真ちゃんのこと好きだけどにゃあ」
「かずなり……」
 オレ達の視線が絡み合った。
「バカップル……ですね」
「ちっ、もっとからかってやろうと思ったのにつまんねぇの」
 てっちゃんとタイガに何言われても平気だもんね。オレ、真ちゃんのこと愛しちゃってるもん。――真ちゃんもそうだといいな。
「さっさと席に座るのだよ」
「そうですね。このままだと皆さんの邪魔ですし」
 てっちゃんがメニューを注文した。――やっぱてっちゃんはしっかりしてるなぁ。真ちゃんは頭はいいけど、ちょっと抜けてるところがあるもんにゃあ。そこも好きなんだけど。
「席は窓際でいいですよね」
「てっちゃん、窓際の席好きなの?」
「ええ、まぁ……人間観察にはうってつけの場所ですよ」
 そう言っててっちゃんは意味ありげな笑みを浮かべた。てっちゃん……本当は結構食わせものなのかもしれない……。人間観察が趣味というのも変わってるし。でも、オレも人間観察は好きだ。獣人を見るのも好きだ。
「あ、ほら、たかお君にそっくりな獣人が通りますよ」
「わぁー、ほんとだ」
 てっちゃんとオレはわいわいと人間や獣人のことについて話し合う。オレとてっちゃんて、気が合うのかにゃあ。
「かずなりに似てる獣人だと?」
「はい――ほら、あそこ」
 てっちゃんが指をさす。真ちゃんはほっとした様子で、
「全然似てないではないか」
 ――と言った。
「はいはい。たかお君の方が可愛いとか言うんでしょ?」
「黒子……」
 真ちゃんはちょっとてっちゃんの方を睨みつけると、口を押えた。
「真ちゃん、照れてんの?」
「て、照れてなどいないのだよ」
「うっそだー。照れてるんだー」
「ボクも、緑間君は照れていると思います。ツンデレですからね」
「黒子までうるさいのだよ」
「素直になっちゃいなよ。しーんちゃん♪」
 タイガがふざけて『真ちゃん』呼びをする。
「火神……真ちゃんと呼ぶのをオレが許しているのはかずなりだけなのだよ」
「そうだよねぇ、真ちゃん」
 真ちゃんて呼んでいいのはオレだけだもんねぇー。
「ラブラブじゃねぇか。お前ら……」
 タイガが呆れたように呟く。
「お前らだってラブラブなのだよ」
 真ちゃんが笑いながら言う。
「やめてくれよ。恥ずかしい……」
「何でですか? ボクは嬉しいですけれど」
「黒子……ああー、もう!」
 タイガが真っ赤になった顔を覆う。
「黒子……互いに成人するまで待とうって言ってたけど……我慢できそうにないぜ……」
「こら、卑猥なことを言うのではないのだよ。公衆の面前で」
「真ちゃん、ヒワイって何?」
「ほら、かずなりの情操教育に悪いのだよ」
「なーにが情操教育だ。自分の好きなようにたかおを教育したいだけのくせして」
 タイガが舌を出した。
「――殺すのだよ。火神」
「やってみろ。もやし」
 何だか殺気立ってるけど、止めなくていいのかな。てっちゃんは涼しい顔してバニラシェイクを啜っているけれど……。
「たかお君、心配しなくても大丈夫ですよ。――火神君、さっさとしないとボクが君のハンバーガーを食べてしまいますよ」
「あっ、いけね。――って、お前はオレの食う量片づけることできねぇだろうが」
「それでも、一個や二個は平気ですよ」
「ムリすんな。お前は少食なんだから」
「火神君はもう少し控えた方がいいと思います」
「ちっ。――緑間。決着をつけるのは後だ。まず食っちまおう」
 そう言ってタイガはハンバーガーを包んでいる紙をガサガサと剥がし始めた。
「真ちゃんバニラシェイク美味しいよ」
 幸せに浸っているオレは言った。はい♪とストローの先を真ちゃんに向ける。真ちゃんは素直にそれを咥えてバニラシェイクを啜る。
 お似合いですね、とてっちゃんが笑った。

2017.4.23

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