猫獣人たかお 14

「あれー? その帽子どうしたの?」
 真ちゃんが猫耳つきの帽子をかぶっている。
「これはキャスケットなのだよ。今日のラッキーアイテムなのだよ」
 ふーん。帽子もキャスケット?も同じようなもんじゃん……ん?
 オレは耳をぴくぴくさせた。
「真ちゃん、オレとおそろいー」
 真ちゃんはつんと鼻を聳やかしたが、オレは気にしない。照れくさいだけなんだって、知ってるもんね☆
「出かけるぞ。かずなり」
「はーい」
 オレ達、今日はデートなんだ。
 真ちゃんのとオレは腕を組む。オレは獣人たかおかずなり。黒い尻尾だって嬉しそうにゆらゆら。
「もう少し離れて歩かんか?」
「にゃだ!」
「――お前がそんなに甘えたがりだったとは知らなかったのだよ……」
 確かに人目が気になるにゃあ……。んじゃ、もっと見せつけちゃおうっと。真ちゃんだって振り払いはしないのだから悪い気はしていないのだろう。していないんじゃないかな。――きっと。
「あっれー、お前ら……」
 むっ、聞き覚えのある声。耳がぴくんとなった。
「タイガ! てっちゃん!」
「――こんにちは」
 てっちゃんが挨拶した。タイガは短く、
「よぉ」
 とだけ言った。
「緑間君、高尾君……お揃いですか?」
 と、てっちゃん。
「違うのだよ!」
「ねー、おそろいに見えるよねー、真ちゃん」
「ふ……ふん」
 真ちゃんは鼻を鳴らしたが、オレは知っている。真ちゃんが心から嫌がってるわけではないということを。
「テツくーん」
「うわっ!」
 桃井サンがてっちゃんに抱き着いた。
「街を歩いてたらテツ君に会えるなんて、何これ運命?!」
 てっちゃん……モテるんだよねぇ……。
「あ、あの……離してもらえますか? 桃井さん」
 普通、桃井サンほどの美人に好かれたら男の人は喜ぶらしい。
 でも、てっちゃんにはタイガがいる。オレに真ちゃんがいるように。
「おい、桃井――」
「あっ、火神君……ごめん。いたんだね」
「さっきからいたよ! おめー、青峰はどうした?」
「何でそこで青峰君が出てくるの?」
「恋人じゃねーのかよ」
「全然。ただの幼馴染っていつも言ってるでしょ」
「おーい、さつきー」
「あ、青峰君。ごめん。テツ君。今度デートしようね。それじゃ」
 桃井さんは服の裾を翻して青峰と一緒に行ってしまった。
「やっぱりいたんだな。青峰のヤツ。桃井もあれで青峰の恋人でないっていうのがわからねぇ……これだから女ってヤツは……」
「どこからどう見ても立派な恋人なのだよ」
 タイガと真ちゃんは独り言ち、顔を見合わせてうんうん頷いた。
「お腹空いてきましたね」
 てっちゃんがお腹を押さえる。
「あ、オレ、いいとこ知ってる!」
 と、タイガが言った。
「え? いいとこって……?」
 期待を込めてオレが訊く。てっちゃんは浮かない顔して、
「何だか嫌な予感がします……」
 とだけ呟いた。

 その予感は当たった。
『スーパー盛盛ステーキ 4kg 30分以内に食べきれたら無料 失敗したら全額自腹一万円』
 タイガを除くオレ達全員がびしっと固まってしまった。
「さ、行こうぜ」
 タイガだけがやたら張り切っている。だが――。
「出てけ。この野獣」
 店の人に入店拒否されてしまった。
「何で?」
 タイガが首を傾げる。
「お前さんみたいな化け物がいると商売あがったりなんだよ」
「何だって?! 獣人を化け物扱いするなんて……!」
「しっ!」
 激昂しかけたオレを真ちゃんが止める。
「お前、昔、うちの特盛ステーキを全部食ったじゃねぇか。しかも十人前――いや、もっとだったか?! 頼むから帰ってくれー!」
 ああ、なるほど……。店員さんが涙を流している。こりゃ相当本気だな……。
「だ、ダメっすか?」
「ダメに決まってるだろう。この……」
 ポイッ。
 オレ達は歩道に捨てられてしまった。
「あーあ。誰かさんのおかげでとんだ迷惑なのだよ」
「でも、ここ超うまかったし……」
「入れなきゃ意味ないのだよ。こんなところまで連れ出しておいて……」
「緑間ぁ。あんま怒ると血管切れるぜ」
「火神! おまえに言われたくはないのだよ!」
「火神君、緑間君。喧嘩はやめてください」
 ああ、てっちゃん。お前も苦労するにゃあ……。
「あ、あそこにマジバがありますから入りましょう」
「火神、お前のおごりなんだろうな」
「緑間、ケチくさいこと言ってんなっつーの」
「構いません。どうせ火神君の家から仕送りがありますから。火神君は大食漢なのでいっぱいお金頂いているんですよ」
 ああ、そういえば何かそんなこと聞いたことがあるなぁ。
「てっちゃん、バニラシェイク、バニラシェイク♪」
「たかお君も舌が肥えてますね。バニラシェイク僕も好きですからねぇ。美味しいですよねぇ」
「ねー」
 オレ達はすっかり意気投合してしまった。真ちゃんが寂しそうにオレを見ていたけど、何でだろう。
「緑間、たかおも一人前の獣人だ。気持ちはわかるが少しはたかお離れしろ」
「何を言ってるのだよ――」
「にゃっ?!」
 タイガが何を言ってるのかオレにもわからない。オレは真ちゃんに抱き付いた。
「真ちゃん、マジバ行こ行こーっ!」
 真ちゃんが火神に向かって――
「かずなり離れしようにも、かずなりが離してくれないのだよ」
 と得意そうに言った。タイガがちっと舌打ちした。

2017.4.19

次へ→

BACK/HOME