おっとどっこい生きている 「え? ううん、まだ」 「友達とメアド交換したんだろ。誰からか来てるかもしれないじゃないか」 兄貴の言うことも尤もだ。私は自分の部屋に戻って、メールを確認することにした。 チェックの仕方は、マニュアルで既に身につけた。 あ、五通も来てる。 『こんばんは。みどり。と言っても、アンタはもう寝てるかな? 携帯持ったんだって? これからばんばんメールするから、覚悟しといてよ、うふふ。頼子』 このメールは、昨夜来たものらしい。 わかったわ、頼子、受けて立つわよ! 次からは、今日の朝届いたものだ。 『みどり、おはよう! モーニングコールならぬ、モーニングメールです。頼子と美和に、メアド伝えておいたから 今日子』 今日子もダジャレが好きだったんだなぁ。 『みどりちゃーん♪ ついに携帯デビューだね、おめでとー♪』 これは美和だ。 『秋野部長、学校でお会いするのを楽しみにしています』 これは友子。 『みどりちゃん。奈々花です。哲郎サンは元気? P.S.この間、哲郎サンとAしました。きゃっ(/^^*)』 うん、知ってるよ。哲郎、騒ぎまくっていたもの。 取り敢えず、昨日の家でのことは、教えない方がいいかな。 奈々花を徒らに落ち込ませる必要性もないし。 これ全部に返事するのは、ちょっと大変だなぁ……。 でも、まぁ、書いてみるか。 ここで私が何を書いたかは、省略する。 そしてその後、私はリョウと一緒に学校へ向かったのだった。 「おはよう、メール届いたわよ」 「みどりちゃんからのメール、嬉しかったー」 頼子と奈々花が私の席に来て言った。珍しい組み合わせだ。 「おはよう」 「あっ、今日子」 「返信ありがとうね。これからは、携帯でもよろしくね」 「うん」 美和は、もう放送部に行っただろう。 そうだ。将人にも携帯番号とメールアドレス教えないと。 でも、今は将人、いろいろ忙しいだろうからなぁ。 昼休みにしよう。 それから―― まだ言ってなかったわね。新聞部のこと。 麻生が、私達に対してどんなひどいことを書くか、どきどきものだったけれど――予想が外れて、彼らの新聞は貼ってなかった。綿貫達のはあったけど。 その沈黙が――逆に不気味だ。 将人のところへ行こうと、教室を出ようとした時だ。 「あ」 ぶつかりそうになった相手と一緒に、声を出してしまった。 「麻生先輩……」 「ふ……最低限の礼儀は弁えるようになってきたな」 「あの……昨日はすみませんでした。家のこと……」 「もう遅い」 麻生は一刀両断した。 「だが、まぁ、素直に謝れるだけ、成長したな」 ふーんだ。何様のつもりよ。 私は心の中であかんべをした。 「ちょっと来い」 「え、でも、私……」 「いいから来い」 将人の元へ行くには、もうしばらく時間がかかりそう……。 部室には、麻生と私の二人きりだった。 「あれ? 冬美は?」 「保健室に帰ってもらっている」 「――呼び出して、どう言うつもりです?」 「おまえなら、俺達の新聞がないこと、疑問に思ったんじゃないか」 「ええ。思いました」 めいっぱい思いました! 「――実は、しおりがな、『今度みどりさん達のこと、悪く書いたら許さないからね』と言ってたんだ」 「へぇー……」 「あいつ、何でか知らんが、おまえのことを気に入ったらしい。それに、あいつには、白岡の友達がいっぱいいる。恥を忍んで言うが……実は俺は、しおりだけは怖い」 「ふぅん……」 麻生って、実はシスコンだったのか。 私の兄貴もシスコンって呼ばれてたから――何となく親近感持ってしまいそう。 あんなひどいこと記事に載せる麻生にも、意外な弱点があったのね。 「だから――おまえ達が俺の家に来て、余計な説教をしたことは水に流そうと思っている。哲郎のこともな」 「それを言いに私のこと、呼びつけたの?」 「そうだ」 私だって、予定があったのになぁ。 とことん勝手な奴め。 「わかったわ。しおりちゃんによろしくね」 「ああ」 麻生は手をひらひらと振った。 「でも、裏サイトには情報流すからな」 脅したつもりかも知れないけど、そんなの怖くないもんね。 「しおりちゃんは、裏サイト見ないの?」 「見ない」 「へぇ。兄貴と違って賢明な子ね」 「――秋野、もう失せろ!」 「バイバイ」 ふぅん。いいこと聞いちゃった。 麻生はしおりちゃんに弱い。 「しおりちゃんに怒られたくなかったら、もう中傷記事は書かないことね」 「おまえこそ、しおりにあることないこと吹き込むんじゃねぇぞ」 「わかったわ」 そこで、私達は協定を結んだのだった。 私は将人のクラスに来た。 「どうしたんだい? 秋野」 「私、携帯持つことになったの。これ、メアドと電話番号」 そう言って、メモを渡した。 「ここに連絡すればいいんだな? 俺の方のも、今から書くから。待ってて」 そして、私は将人のメアドと番号を教えてもらった。 おっとどっこい生きている 60 BACK/HOME |