おっとどっこい生きている
59
「みどり、携帯チェックしたか?」
「え? ううん、まだ」
「友達とメアド交換したんだろ。誰からか来てるかもしれないじゃないか」
 兄貴の言うことも尤もだ。私は自分の部屋に戻って、メールを確認することにした。
 チェックの仕方は、マニュアルで既に身につけた。
 あ、五通も来てる。
『こんばんは。みどり。と言っても、アンタはもう寝てるかな? 携帯持ったんだって? これからばんばんメールするから、覚悟しといてよ、うふふ。頼子』
 このメールは、昨夜来たものらしい。
 わかったわ、頼子、受けて立つわよ!
 次からは、今日の朝届いたものだ。
『みどり、おはよう! モーニングコールならぬ、モーニングメールです。頼子と美和に、メアド伝えておいたから 今日子』
 今日子もダジャレが好きだったんだなぁ。
『みどりちゃーん♪ ついに携帯デビューだね、おめでとー♪』
 これは美和だ。
『秋野部長、学校でお会いするのを楽しみにしています』
 これは友子。
『みどりちゃん。奈々花です。哲郎サンは元気? P.S.この間、哲郎サンとAしました。きゃっ(/^^*)』
 うん、知ってるよ。哲郎、騒ぎまくっていたもの。
 取り敢えず、昨日の家でのことは、教えない方がいいかな。
 奈々花を徒らに落ち込ませる必要性もないし。
 これ全部に返事するのは、ちょっと大変だなぁ……。
 でも、まぁ、書いてみるか。
 ここで私が何を書いたかは、省略する。
 そしてその後、私はリョウと一緒に学校へ向かったのだった。

「おはよう、メール届いたわよ」
「みどりちゃんからのメール、嬉しかったー」
 頼子と奈々花が私の席に来て言った。珍しい組み合わせだ。
「おはよう」
「あっ、今日子」
「返信ありがとうね。これからは、携帯でもよろしくね」
「うん」
 美和は、もう放送部に行っただろう。
 そうだ。将人にも携帯番号とメールアドレス教えないと。
 でも、今は将人、いろいろ忙しいだろうからなぁ。
 昼休みにしよう。

 それから――
 まだ言ってなかったわね。新聞部のこと。
 麻生が、私達に対してどんなひどいことを書くか、どきどきものだったけれど――予想が外れて、彼らの新聞は貼ってなかった。綿貫達のはあったけど。
 その沈黙が――逆に不気味だ。

 将人のところへ行こうと、教室を出ようとした時だ。
「あ」
 ぶつかりそうになった相手と一緒に、声を出してしまった。
「麻生先輩……」
「ふ……最低限の礼儀は弁えるようになってきたな」
「あの……昨日はすみませんでした。家のこと……」
「もう遅い」
 麻生は一刀両断した。
「だが、まぁ、素直に謝れるだけ、成長したな」
 ふーんだ。何様のつもりよ。
 私は心の中であかんべをした。
「ちょっと来い」
「え、でも、私……」
「いいから来い」
 将人の元へ行くには、もうしばらく時間がかかりそう……。

 部室には、麻生と私の二人きりだった。
「あれ? 冬美は?」
「保健室に帰ってもらっている」
「――呼び出して、どう言うつもりです?」
「おまえなら、俺達の新聞がないこと、疑問に思ったんじゃないか」
「ええ。思いました」
 めいっぱい思いました!
「――実は、しおりがな、『今度みどりさん達のこと、悪く書いたら許さないからね』と言ってたんだ」
「へぇー……」
「あいつ、何でか知らんが、おまえのことを気に入ったらしい。それに、あいつには、白岡の友達がいっぱいいる。恥を忍んで言うが……実は俺は、しおりだけは怖い」
「ふぅん……」
 麻生って、実はシスコンだったのか。
 私の兄貴もシスコンって呼ばれてたから――何となく親近感持ってしまいそう。
 あんなひどいこと記事に載せる麻生にも、意外な弱点があったのね。
「だから――おまえ達が俺の家に来て、余計な説教をしたことは水に流そうと思っている。哲郎のこともな」
「それを言いに私のこと、呼びつけたの?」
「そうだ」
 私だって、予定があったのになぁ。
 とことん勝手な奴め。
「わかったわ。しおりちゃんによろしくね」
「ああ」
 麻生は手をひらひらと振った。
「でも、裏サイトには情報流すからな」
 脅したつもりかも知れないけど、そんなの怖くないもんね。
「しおりちゃんは、裏サイト見ないの?」
「見ない」
「へぇ。兄貴と違って賢明な子ね」
「――秋野、もう失せろ!」
「バイバイ」
 ふぅん。いいこと聞いちゃった。
 麻生はしおりちゃんに弱い。
「しおりちゃんに怒られたくなかったら、もう中傷記事は書かないことね」
「おまえこそ、しおりにあることないこと吹き込むんじゃねぇぞ」
「わかったわ」
 そこで、私達は協定を結んだのだった。

 私は将人のクラスに来た。
「どうしたんだい? 秋野」
「私、携帯持つことになったの。これ、メアドと電話番号」
 そう言って、メモを渡した。
「ここに連絡すればいいんだな? 俺の方のも、今から書くから。待ってて」
 そして、私は将人のメアドと番号を教えてもらった。
 
おっとどっこい生きている 60
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