おっとどっこい生きている 今度は哲郎との約束通り、教会に行った。渡辺夫妻と赤ちゃんも連れて。 確かに、こじんまりとしているが、家庭的な雰囲気の教会だった。 説教壇の後ろには、十字架のステンドグラスがあった。 私達はそこで、賛美歌を何曲か歌った。 (いまいちぴんと来ないなー) と言うのが、私の感想だった。 それに、聖書。聖書には、相性のいい人とそうでない人がいて、私は後者の方らしい。 牧師さんの説教の間、私は教会で貸してもらった聖書の上に突っ伏して、眠ってしまった。よだれはかからなかったので、ほっとした。 「みどりぃ、アンタ、説教の間、寝てたでしょ」 と、お茶の時間、えみりが小突いた。 だって、つまらなかったんだもの。 私が皆に聞こえないように、小声で囁くと、えみりは、 「どうしてぇー、あんな血湧き肉踊る話ってないじゃん」 と答えた。 ……えみりは、聖書と相性がいいらしい。 ちなみに、今日は、士師記、というのをやったらしい。 「あ、そうだ。哲郎に聞きたいことがあったんだけど」 「人生相談?」 「うーん……ちょっと、違うかな」 「ふぅん。あっ、哲郎! みどりが訊きたいことがあるんだって?」 「なんだい?」 そう言った哲郎は、いつもと違わないように見えた。 「あのね、神様って、どんな存在かしら」 「この世界をお造りになった方だよ」 「私達を操ってる?」 「んー、まぁねぇ。神様も操っているし、悪魔も操ることがあるし、自分自身の霊だって、操っているよ」 「つまり、皆、何かを操っているわけ?」 「と思うんだけどな」 「それから、もうひとつ。神様のお導きって、あるのかしら」 「あるよ」 哲郎が、今度は真顔になって断言した。そういう表情をすると、この人の顔は引き締まる。 「僕が、秋野くんや渡辺くんや、みどりくんに会えたのも、神様のおかげだと思ってる」 「そうなの」 「この出会いに、感謝しなくては、ね」 牧師さんは、雄也達が連れてきた純也と遊んでいる。聖書はあまり好きじゃないけど、牧師さんはいい人そうだな……。子供好きに悪い人なんていないもの。良からぬ企みを持って近づく人は別として。 「聖書の話聞いてたら、眠くなっちゃったわ」 私が正直に言うと、 「実は僕もなんだ」 と、哲郎が笑った。 「牧師先生に紹介するよ。岩野牧師ー」 「はいはい」 牧師さんは純也をえみりに渡すと、こっちにやってきた。 「初めまして。岩野です」 「秋野みどりです。よろしくお願いします」 「佐藤くんに連れてきてもらったんだって?」 「はい」 「みどりくんは、聖書を読むと眠くなるそうだよ」 あっ、哲郎のバカッ! 余計なことをッ! 「ははは。いいんだよ。教会に来ることに意義があるんだから」 「どんな意義ですか?」 「『二人でも三人でも、わたしの名において集まる所には私もその中にいる』――マタイ伝18章20節だよ」 「へぇ……」 「だから、眠っていても、祝福は染み渡るよ。その場にいるだけで、祈りに参加していることになるからね」 岩野牧師はウィンクした。 あっ、やっぱり見られてたんだ。寝てるとこ。 私は急に恥ずかしくなった。 「また来てくれるかい?」 「は、はい」 「神様が連れてきてくれますよ」 と、哲郎。 この教会に私を連れてきたのは、哲郎、アンタなんだけどな……。 教会には、外国人もたくさん来ていた。リスニングが苦手な私は、少し閉口したが、皆いい人そうだった。 えみり達が気に入ったのも、わかる気がする。 これが、私の初めての教会体験である。 おっとどっこい生きている 21 BACK/HOME |