Minto! 7 「ミント、明。今日俺んち来いよ」 岡村くんが言った。 「いいね!」 明が声を上げた。 「ぼくも行くよ」 と、高野くん。 「ああ、はいはい。どうぞどうぞ」 仕方なさそうに岡村くんが答える。ちょっと投げやりっぽい。友達同士なのにねぇ……。 「ミントはどうする?」 高野くんが優しくきいてくる。岡村くんに誘われた時も思ったことなんだけど……。 「あたし、行っていいの?」 「もちろん!」 明、岡村くん、高野くんの声が重なる。 「あの……でも、あたし、ここに越してきたばかりだし……」 「んなの関係ねぇよ。なぁ、高野」 「うん……まぁ、ミントの気持ちもわかるけどね」 「『ミントの気持ち』……うん、詩集のタイトルになりそうだな」 「茶化さないでくれよ」 岡村くんと高野くんが声を揃えて笑う。 何だ。明をめぐって三角関係でも、やっぱり仲いいんじゃん。この二人。 「でも、ぞろぞろ来ちゃ迷惑じゃないかしら」 一応、遠慮がちに訊く。 「ああ。うちの家族、つーか姉貴ね。騒がしいの好きだから」 「君が一番騒がしいからね」 「うっせ」 岡村くんが高野くんの頭にチョップを食らわす。 「だから、ミントも来ていいよ、つーか、来いよ」 岡村くん、強引だなぁ……。 「川崎も来るかぁ?」 「私は後でピアノのおけいこがありますから」 「ピアノのおけいこかぁ。相変わらずお嬢様だな」 「やめてよ」 真美は照れたように笑う。 「なぁ、高野と真美ってお似合いだと思わねぇか? 優等生同士」 「あんた、そういうことしか頭にないわけ?」 岡村くんの言葉に対して、明が呆れたようにツッコむ。 「だってさー、一応恋敵だもんよー」 「ふん。どうせ本命は千春さんのくせに」 「やー、それを言われるとなぁ……」 岡村くんは、明るく笑いながら頭を掻く。 「こいつぅ……全然変だって自覚してないよ……」 「岡村、そろそろ姉離れしたらどうなんだい? 君は異常だよ」 「異常ねぇ……」 岡村くんがあごを撫でている。高野くんの台詞を検討しているみたい。 「千春さんはもう中学生なんだよ。思春期なんだよ。君が束縛しちゃかわいそうじゃないか」 「ちょっと。高野。今の台詞は聞き捨てならねぇな。誰が束縛してるって?」 「君だよ、君」 ちょっと、ちょっと。岡村くん、高野くん。二人とも……。 何とか止めようとしたけれど、明も真美も知らん顔している。 どうにかしてよ! 二人とも! えーい! こうなったらあたしが止めちゃる! 「岡村くん! 高野くん! やめてよ!」 あたしが叫ぶと、 「ああ、こいつらね。このぐらいのやり合いしょっちゅうだから」 何? しょっちゅう相手のことを、異常だの、千春さんという人(岡村くんのお姉さんだよね、確か)を束縛してるだの、言うの? わかんない。あたしわかんない。 岡村くんと高野くんて、どういう関係なの? 「ああ。ミントは慣れてないんだっけ。なんか不安そうだな」 「すれてないんだよね。いい意味で」 「どうせあたしはすれっからしですよーだ」 岡村くん、高野くん、明の順で言う。 「あたし達の言い合い、ちょっと刺激が強かったみたい……ね」 「うーん。惜しいな。まことに惜しい」 「何が惜しいのよ、岡村」 明がじろりとにらむ。 「もうちょっと精神的に強けりゃなぁ。そしたらオレ、考えないでもないんだよなぁ。授業で意見言った時なんか、マジかっけー!と思ったのにさぁ」 「……ミント、今すぐ強くなってくれたまえ」 高野くん……強くなってと言われても……。みなさんタフな人ばっかりで。 ふぇ~ん。元のガッコに帰りたくなるよう……。 「ミントが泣きそうな顔になってるわ。あなた達。その辺にしたらどう?」 「うっ……」 真美がきゅっと眉間にしわを寄せると、岡村くんと高野くんは大人しくなった。 すごい……真美……。 「真美って、本当にすごいのね」 あたしが感心しながら言うと、 「何がすごいのかわからないけど、一発で黙らせることができなければ、この悪童連を手なずけられないし」 と、真美が返事する。あたしの言いたいこと、わかってくれたみたい。 「悪童連って……ぼくも入ってるんですかぁ」 高野くんは大いに異議がありそうだ。 「もちろん」 真美は頷く。 「話は変わるけど、今週私と高野くんは掃除当番よ」 「あ、忘れてた」 「いいっていいって。ゆっくり来いな」 やっぱり、岡村くんと高野くんは仲いいんだな。けんかもするけど。 「うーん。岡村に任せるのは不安だけど仕様がない。なるべく早く行くよ」 「来なくてもいいぞ」 「何だとッ!」 えへん、という咳ばらいが聞こえた。笹峰先生だ。 「高野。掃除は真面目にやるように」 「……はぁ~い」 「俺たちゃ今週は掃除休みだもんねぇ。いいだろ。ミントも転校生だから休みだぜぇ~」 「はいはい。よかったですね」 高野くんも、今はちょっと面倒になっているみたい。 本当に、岡村くんも高野くんもあたし達には優しいのに、どうして二人だとけんかとかするんだろ。それぐらいで関係壊れないほど仲いいってことかしら。 ま、考えてもしようがないよね。それに……ちょっとうらやましいかも。 「じゃ、真美、高野。お先に」 明はにっこりほほえんだ。うーん。そうしていると、かわいいんだけどなぁ……。 ちょっと美少女っていうイメージと程遠いように感じてしまうのはどうしてだろう。 「行ってらっしゃーい」 残念そうに高野くんが手を振る。うん。ちょっとやり取りが過激なだけで、慣れれば平気よね……慣れるかしら……。 2011.7.13 8→ |