Minto! 5

 あたし達は教室に戻って来た。あたし達、というのは、あたしと明と真美のことなんだけど。
「あ、ミントだー」
「よぉ、ミント」
「岡村に一発かますなんて、やるじゃん!」
 あ、そうだ。岡村くん!
「岡村くん……」
「何?」
 岡村くんは優しくほほえむ。
「さっきはその……ごめんなさい」
「いいよいいよ。明にどつかれることもしょっちゅうだもんな。なぁ、高野」
 岡村くんは、そばにいた高野くんに同意を求めた。
「まぁ……そうだね」
「岡村~。アンタまた叩かれたいの~?」
 明がはぁっと拳に息を吹きかける。
「わっ、勘弁!」
「岡村くん……許してくれるの?」
「もちろん」
 あたしは、今度は嬉しくて泣いてしまった。
 岡村くんがあたしを抱きしめた。
「泣くなよ」
 そう言われたような気がした。
 かたくなだった心が溶けて行く……。
 あたし、この学校でやっていける、やっていけそう。
 明だって真美だって、岡村くんだっているもん。
 ありがとう、みんな。
 けれど、何か、まがまがしいオーラが……。
「何、あの女」
「明の親戚だってー」
「ふぅん。どうりでね」
 何か……あたしのことをよく思っていない人もいるみたい。
 岡村くんのこと、はたいたからかな。
 だよね。岡村くん、人気ありそうだもん。
 あたしも、もしはたいたのがあたしでなかったら、そして、ぎゅっと抱きしめられたのがあたしでなかったら、やはりよくは思わないだろうから。
 これからだ。これから……このクラスに馴染んで行こう。
 焦らない方がいい。ゆっくり、じっくりと。
「けどなぁ……ぼく、びっくりしたよ」
 と、高野くん。
「ミントって、芯が強いんだね」
「そ……そんなことありません!」
「でも、はっきりしてるじゃない。今の君はぼくも好きだな」
「ええっ?!」
「何だよ高野。ミントはやらんぞ」
「いや、そうでなくてさ……」
「あらあら。お安くないわね」
 真美が笑った。
「岡村くん。明はどうしたの?」
「明……もちろん好きだよ」
「まぁ、二股かける気?」
「ちょっ! 川崎! なに変なこと言ってんだよぉ!」
「でも、岡村くん、ミントも好きみたいだから」
「そうなんだよなぁ……」
 岡村くんはどさっと自分の席について、困った顔をした。
「オレ、明も好きだけど、ミントもいいなって思ってるんだ」
 ええっ?! あたし、はたいたんだよぉ! 岡村くんのこと。
 真美はまだ笑っている。
「岡村くん、気の強い女性が好きなんだよね」
「そう。オレ、シスコンだから」
 シスコンって……自分で言う?!
「あ、そうだ。ミント。後でオレん家来なよ。姉貴見せてやるよ。世界一の女だぜ」
「え……ええっ?!」
「その時はぼくも行くよ」
「高野もー?!」
「君らだけでは心配なもんでね」
「わぁったよ」
 岡村くんはちっと舌打ちした。
「オレ、姉貴にいっつもはたかれてるから……慣れちゃった」
 岡村くん……優しいし、面白い人だな。
「あたしもまた行っていい?」
 明が言った。
「おお、いいぜ、明なら大歓迎!」
「良かったぁ、千春さん好きなんだよね。あたし。話わかるし、美人だし」
 そっか。岡村くんのお姉さんて、美人なんだ。
 まぁ、岡村くん見ればわかるけど。
 くせっ毛の金髪に整った顔。ちょっと不良っぽいけど。
 昔のマンガに出てきたキャラクターに似てる……。
「まぁ、そんなわけで、これからよろしくな」
 岡村くんが手を差し出す。あたしも握り返した。
 岡村くんの手、あったかいな……。
 今のことで、他の岡村くんファンの人には反感を買ったらしいけど、そちらはなるべく見ないようにした。
 キーンコーンカーンコーン。
 チャイムが鳴った。
「わ、どうしよ。朝勉強全然やってなかった!」
 明が叫ぶ。
「いいんじゃない。それぐらい」
 真美はしれっとしている。
「真美はそう言うけどぉ、あたし、成績悪いから少しでも点数かせいどかないと!」
「今更焦ったって仕方ないんじゃない?」
 うっ、真美って、けっこうキツイんだな……。
 確かにそうなんだけど……成績のことについては、あたしも人のコト言えないもの。
 先生が入って来た。まだ若い、体育会系のような先生だ。
「きりーつ」
 先生が入ると、高野くんが言った。
「礼」
 みんなが礼をする。
「おはよう。みんな。今日は転校生の紹介をする」
「もうみんな知ってるわよ」
 誰かの声に、みんなが一斉に笑った。まぁ、あんなことしちゃったもんねぇ、あたし……。
「水無月美都くん。前に来てくれ」
「はい」
「今日からみんなと勉強する水無月美都くんだ。美都くん。俺はこのクラスの担任の笹峰だ。よろしく頼む」

2011.6.7

6→

BACK/HOME