Minto! 4 その時―― だんっと大きな音を立てた人がいた。誰かと思って見てみると――。 「お……岡村くん?!」 「アンタらさぁ……うるさいんだよね」 岡村くんが言うと、あたしの周りにいた男子は全員散ってしまった。 「あ、岡村くん……」 ありがと、って言うのも変かなと思っていると。 「アンタもさぁ……もうちょっとしっかりした態度取った方がいいよ。でないとつけこまれるよ」 うっ……。た、確かにあたしもはっきりしてなかったわよ。 でも、あたしはあなたの好きな西澤明ちゃんじゃありませんからねー、だ。 「何だ? 言いたいことありそうだな」 「別に。ただ、あたしは明と違うもん」 「へーえ……」 岡村くんは考えているようだった。そして、言った。 「アンタ、明に妬いてんの?」 図星だったから、あたしは―― パンッ! 岡村くんをついひっぱたいてしまった! 「明みたいでなくてわるかったわね!」 そう言って、バタバタと教室を出て行った。 「は~あ」 あたしは階段に腰かけていた。 何で上手くいかないんだろ、あたし……。 岡村くんには……悪気はなかったはずなのに……。 悪いのはあたしだ……。 もうあの教室帰れない……。 ひっく、ひっく……。涙としゃっくりが止まらない。 あたし……もう自分ち帰る。 お父さんやお母さんがいなくてもいいや。 あ、説明がまだだったね。あたしの両親、今海外なの。 どっかで聞いたような設定だって? 気のせいだよ。うん、ほんと。 あたしは家事も少しはできるから、自分ちでお父さんとお母さんを待とう。 「ここにいたの」 このふわっとしたソプラノの声は―― 「川崎真美さん!」 「真美でいいわよ」 「でも、呼び捨てって、何か悪くて……」 「明のことは何て呼んでんの?」 「あ、そういえば……」 何となく、呼び捨てにしてる。 「明って呼んでいるんでしょ?」 「は……はい」 「もっと普通に話したっていいのよ」 「だって……真美さん大人っぽいから……」 「真美さん……か」 真美さんが寂しそうに笑う。 「みんな、私の外見しか見ないのよね。明だけだったわ。あたしの心の中にスッと入って来たのは」 「そ……そうなんですか?」 確かに、明ならなぁ……。 「でも、あたしは明じゃないんです」 「私、あなたのそういうとこ、好きになったわ」 真美さんはにこっと笑った。 「岡村くんに平手打ちしたって?」 う……できれば、そのことは忘れたい。 「あれ、結構女子にウケたみたいだわよ」 「そうなんですか?」 「岡村くんもねー、あれで結構評価の分かれる人だから。でも、岡村くんが好きな人には、不興を買っちゃったみたいよ」 「不興……?」 「嫌われたってこと」 そりゃそうでしょうねー。 あたしだって、何であんなことしたのかわからないもん。 でも、真美さんて、結構言いたいこと言うよなー。 と思っていると。ばちっと相手と目が合ってしまった。 「あたしのこと、言いたいこと言って、って、思ってる?」 まぁ、隠す必要もないしね。あたしは首を縦に振った。 「ミントって、正直な子ね」 「ええ、まぁ……」 それだけが長所ですから。 「やっぱり、明の親戚だけのことはあるわ」 あたしは目が点になった。 「えええええっ?!」 「あら、やだ。知らなかったの? 有名な話よ」 「じゃ、あたし、明と同じ血が流れてるんだ」 「そうそう。それで噂になったのよね」 「じゃあ、男子は何て言ってる?!」 結構凶暴だよなー、とかって、話してんのかしら。さすがは明の親戚だって。――明には悪いけど。 「私はあまり知らないわ。岡村くんのフォローが上手だったから、みんな何とも思っていないと思うけど」 そっかー。岡村くん、優しいな。 後でおわびとお礼言わなきゃ。 「あー、こんなとこにいたー」 明が現われた。 「真美と一緒にいたんだね」 「ええ。……あのね、ミントっておかしいの。明が親戚だってこと、今まで知らなかったんだって」 「えー? まぁ、あたしも会ったのは昨日が初めてだったんだけどさ。赤の他人に娘預ける親なんているわけないって。どっかつながりがなくっちゃあ」 まぁ、確かに明の言う通りかもしれないけど。 「それにさー、うちのママとミントのママって、親友同士だったんだって。学生時代。前にミントの写真も見せてもらったんだけど、忘れててさー」 あはは、と明は笑う。 あたしは水色の髪をしているが、そんな色の髪の女の子なんて、珍しくないんだ、この話では。 「それに、雰囲気も見た目もだいぶ違ってたしね。あたしは今の方がいいと思うよ」 「あ……ありがとう」 「この子ねぇ、ミントが来るの楽しみにしてたのよ」 くすくすと真美さん――真美も笑う。 うん。真美って呼んでいいよね。今日から。 「真美――改めてこれからよろしくね」 あたしが言うと、真美も、 「よろしく。私達、これからは友達ね」 と、きれいな笑顔のままであくしゅしてくれた。 「じゃ、教室に戻ろ。みんな待ってるよ」 と、明が前を指さした。 2011.5.25 5→ |