Minto! 38 「真美ー!」 明が川崎真美のところへ駆けていく。 「はーい。明。ミント」 「おいおい、明。僕のことは無視かい?」 高野くんが喋る。そんなわけじゃないんだろうけど……。 「高野。すねないで」 明が言う。高野くんが笑った。 「すねてないよ。今のは冗談」 「だよねー。真美、一緒に行こ。高野も」 真美と高野くんは同時に頷いた。 「へぇー。千春さんと乱造さん、恋人同士になったんだ」 今までのあらましを聞いた高野くんが感慨深げに呟いた。 「うん。ミントのおかげ」 明ったら……あたしのおかげなんて……あたし、何にもしてないのに。 「ミントったら、ちーちゃんにタンカ切ったんだよ。もう、すごいかっこよかった!」 「よしてよ……」 「ふうん。ミントがねぇ……」 岡村くんが口を出す。岡村くんも一緒に来ていたのだった。 「ま、いいんじゃねぇの。終わりよければ全て良しだ」 「終わりよければ全て良し……岡村、君がそんな言葉を知っているとは思わなかったよ」 「馬鹿にすんない。高野。姉貴から聞いたんだよ。おまえとタメ張るくらいの読書家なんだからな。姉貴は」 「はいはい」 高野くんが苦笑していた。そして言った。 「それにしても明。ミント。二人とも、素敵なペンダントしているね」 「ふふーん。ちーちゃんに買ってもらったの」 「似合うぜ」 「ありがと」 岡村くんの台詞に明がふふ、と笑った。岡村くんが明の頭を軽く小突いた。 「高野は女の子とデートだったのかよ」 と、ゆうくんが訊く。 「まさか。――そりゃ、そうだったら嬉しいけど……」 真美が照れくさそうに下を向きながら歩いた。 「へぇー。あんた……えーと」 「真美よ。川崎真美」 「オレ、西澤ゆう。宜しく」 ゆうくんがえへへ、と笑った。 「もう。ゆうってば、お姉様以外の女の子にはいい顔するんだから」 明が文句を言う。明の気持ち、わからなくも、ない。 「誰がお姉様だよ。明は明だろ」 「む……どういう意味よ。それ」 「オレにとって明は明でそれ以上でもそれ以下でもないっていう意味」 そう言うと、ゆうくんは駆け出した。 「全くもう……」 明は仕方なさそうに溜息を吐いた。 「つまずいて転べばいいのに」 「まぁまぁ。ゆうくんだっていい弟じゃないか」 高野くんがフォローする。 「どこが」 「明に甘えてんだよ。あいつ。どんなことを明に言っても大丈夫、だとね――」 フォローその2、岡村くん。 「そっか……そうかな……」 明は満更でもない様子だった。さすが高野くんに岡村くん。明の説得の仕方、わかってるわね。長い付き合いだからかしら。 と、その時。 「ふぎゃ!」 ゆうくんが派手に転んだ。真美が走って行く。浴衣姿の真美は走るのも難しそうだ。カラコロと下駄が鳴る。 「ゆうくん!」 真美がゆうくんを抱き起こす。 「いってぇー」 「大丈夫? あ、膝、すりむいてる」 「大丈夫だよー。こんぐらい」 さすが男の子ね。……じゃなくって。 私は絆創膏を持っていたので、ぺたっとゆうくんの傷口に貼った。 「へへ、ありがと。ミント」 ちなみにあたしは明とゆうくんの荷物はもう既に本人達に返していた。 「どういたしまして」 「やっぱりミントは頼りになるなぁ。川崎さんも優しいし。――見習えよ。明」 「アンタ以外の子相手なら、優しくしてあげます」 「ふふっ」 明とゆうくんのケンカに真美が笑った。 「仲がいいのね。明達姉弟って」 「川崎さんは弟いないの?」 「真美でいいわ。――残念ながらひとりっ子」 「じゃあ、オレ、真美さんの弟になってやってもいいぜ」 「無理に決まってるでしょ。そんなの」 明はゆうくんの頭をぺちっと叩いた。 「えー。明よりはマシだぜ」 真美はまたくっくっと笑っていた。 「いいなぁ。こんな子が弟だったら」 「ほんと?! じゃあ、オレ、ほんとに真美さんの弟になる!」 「ミントはどうしたのよー」 明は脇から口を挟む。 「ミントはオレの嫁さん!」 「だってよ。――どうする、ミント」 明がにやにやしている。どうするって言われても――。確かに失恋したばかりだけど、ゆうくんは年が下過ぎる……。 というか、ゆうくんのこと異性とは見ることできないし。当たり前だけど。ゆうくんはやっぱり可愛い弟分だし。そういえば、ゆうくんはあたしの親戚なんだっけ。 「ゆうくんはあたしと血が繋がってるし」 「血がつながってると結婚しちゃだめなのか? ミントと結婚できないのか?」 ゆうくんがぽかんとしている。説明、難しいな。ゆうくんもまだ小学二年生なんだから。ま、多分、そんなに濃い血縁関係じゃないと思うけど。 「いとことかだと結婚できるみたいだけど」 「じゃあ、オレ、ミントのいとこになる!」 「はいはい。わかったわよ。ゆう。これ以上変なこと言ってミントを困らせないの」 「ぶー」 明の言葉にゆうくんは不服そうに頬をふくらませた。 「ところで真美、今日は高野とおデートだったの?」 明が訊く。真美の横顔がさびしそうにかげった。 「うん、そのつもりだったんだけどね……友達も呼んでいいなら行くっていうから」 「じゃ、あたし達お邪魔虫だったね。――高野。真美を悲しませるなんて許せないわ!」 「ああ、それはいいの。だって、みんながいたから楽しめたし」 「なら良かったけど……ほんとは二人っきりになりたかったんじゃないの?」 2015.2.8 39へ→ |