Minto! 39

「うん。ほんとはね」
 真美の顔が憂いを帯びる。うーん、やっぱり美人だなぁ。それに、気持ちはよくわかる。好きな人と一緒にいたい気持ちは。
「あ、オレたち、いない方がいいかな」
「ああ。気にしないで。ゆうくん」
 そして、真美がにこっと笑った。
「明と全然違うー!」
「何ですって!」
「明より大人だもん! 真美さんは! ねぇ、高野、明なんかやめて真美さんにしときなよ。お似合いだよ」
 ゆうくん……。
「そうだな。じゃ、明は俺のもの、と」
 岡村くんが明の方に頭を乗せた。
「ちょっとー」
「いこっか。ミント」
「……そうだね」
 ゆうくんがあたしの服のすそを引っ張る。高野くんと真美さんが上手くいったら、岡村くんは明とくっつくのかな。
 ――あたし一人だけあぶれちゃうね。まぁいいけど。
 ゆうくんが、何か言いたそうな目でこっちを見ている。
「どうしたの? ゆうくん」
「別に――」
「おててつなごっか」
「うん……」
 ゆうくんはうつむいたままあたしの手をぎゅっと握った。
「なぁ、ミント。オレのこと、どう思う?」
「はい?」
「オレ、ミントの弟なんだよな。たちばてきに」
「うん。かわいい弟よ。どうして」
「それが、オレはいやなんだ……」
 ゆうくん、すねてる。ちょっとかわいい……。
「オレ、もっと大人だったら良かったな。乱造くらいの」
「何言ってるの? ゆうくんはいいコよ。もっと自分に自信を持って」
「だって――ミントに振り向いてもらえないんじゃ、何の意味もないよ……」
 ゆうくんは――あれでも結構一途にあたしのことを思ってくれてるらしい。けれど、あたしはゆうくんを弟としか見てなくて、フラれたけど好きな人もいて――。
 おまけに四歳違い。小学生の間の四年、というのはすごく大きい。
 その年の差に、今からゆうくんは悩んでいるのだ。
 かわいそうだけど、仕方がない。
「あたしね――ゆうくんのことは弟としてしかみれないの」
 こういうことははっきりしておかないとね。かえってかわいそうだし。
「うん。わかってる」
 ゆうくんは頷いた。ゆうくんはゆうくんなりに納得したようだった。
「でも、いいのか? ミント。あぶれても」
 ――どうやらゆうくんも同じ結論に達したらしい。
「うん、いいの」
 それに、また出会いはあるだろうしね。
「じゃ、オレもミント応援する! ミントがオレのみりょくに気付くまで待ってる!」
 魅力かぁ……。あたしは吹き出した。
「な……なんだよー」
「いや、ごめんね。ゆうくんて大人びたこと言うもんだから」
「これぐらい言えないと明とのくちげんかに負けちまうだろ」
 ゆうくんは早熟らしい。あたしはくすっと笑った。
「まぁいいか。オレ、いい男に育つからな」
「うん。ゆうくんならなれるよ」
「じゃあ、お嫁さんになってくれるか?!」
 ゆうくんの目がきらきら。子供の目って、こんなに澄んでんだなー……。
「ゆうくんだったら、もっといいコと結婚できるよ」
「あ、そか。オレフラれたんだっけ。それなのに、みっともねーよな」
「ゆうくん……」
「でもオレ、ミントもいい女だと思う」
「――ありがと」
「ミントー……!」
 明の声が聞こえた。振り向くと、明と岡村くんがあたし達の後ろに立っている。探してくれていたのかな。
「おい、明、ちっとはマジメに話聞いてくれよ。……オレ、マジでおまえのこと好きなんだぜ」
 岡村くんが真剣な声で言う。悲痛な響きすら帯びてきているみたい。岡村くんは本当に明に本気なんだな……。
「な……! 離れてよ! ――アンタの『好き』は、十年……いや、九年? 八年? それぐらい聞かされたような記憶があるけど?」
「そ。つまりずっと昔から好きだったってわけ。でもさ、おまえオレ以外のヤツばっか好きになってさ――オレの従姉の婚約者とか」
「あの時は祝福して諦めたじゃない」
 その後も明と岡村くんはあーだこーだ言ってる。
 明達の方も事情は似てるみたいね。両想いのようで片想い。
 上手く行かない恋模様。いつかみんな幸せになるといいのにね。上手く行ったのは千春さんと乱造さんだけか。
 ま、いいや。明日があるんだから。『明日があるさ』って、これママがよく歌ってた曲なんだけどね。それに、新たに素敵な恋も見つかるかもしれないんだから……ね。
「明に岡村くん。あたし達には明日があるじゃない」
「え? 何? ミント」
 あたしが突然話に割り込んだので、明はびっくりしたようだった。
「聞いたわよ。岡村くん、ほんとに明のこと好きなんだねー」
「そうだよ。何だ。聞き耳立ててたのか」
「嫌でも聞こえるでしょうに。全く……」
 明が溜息を吐いた。――高野くんと真美さんの姿は見えない。
「ところで、岡村くん。高野くんは? 真美さんは?」
「いい感じだったから置いてきた」
「そっか……良かった」
 あたしは胸をなでおろした。
「だな。高野には真美さんの方がお似合いだよな」
「ゆう……さっきも同じようなこと言ってなかった?」
「大事なことだから二度言った」
 ゆうくんはしれっと明に答える。
「明……岡村だったら、オレ、いいよ」
「何が」
「岡村なら、明の恋人になっても」
「なっ……ななななっ!」
 明はゆでだこみたいに真っ赤になった。――マンガ的表現でいえばこうなる。
「おお……おとうとよ」
「兄さんっ!」
 岡村くんとゆうくんが、がっし、と抱き合った。
「肝心のあたしの意見はどうなるのよー!」
 明が叫んだ。そうよねぇ……明に明の意見があるんだし。でも、岡村くんだっていい男だと思うのになぁ。――ま、明も失恋して間もないからね。あたしもそうだけど。
「行きましょ、ミント。あいつらほっといても大丈夫よ」
「う……うん」
 あたし達はその場を後にした。どうしたんだろう。明。なんかとても――とても……あわてているみたいに見える。
「どうしたの? 明」
「わかんない」
 そう言いながら、明、目元をこする。わかんない、だって?
「さっき、急にかーっと血が沸騰したの。こんなこと今までになかった――」
 明は泣き出した。感情のコントロールもきかないのだろう。
「とにかく、岡村くんのところへ戻ろ? ね?」
 あたしは明をなだめて岡村くんのところへ連れて行った。明は――岡村くんを意識し始めている。それだけはわかった。
 赤茶色の髪に大きな赤いリボンの明と、金髪の美少年、岡村くんはさぞかし素敵なカップルになるだろう。
 ――明も、乱造さんに失恋したことで、本当は誰が自分の心の中にいたのかわかったのかもしれないね……。
 あたし達が家に帰ると、玲子ママや洋平パパ(明達のパパね。玲子さんを玲子ママと呼ぶことにしたから、洋平さんも『洋平パパ』と呼ばないと不公平に思うの)、ピーコやぴよちゃんやちびちゃん、ひーちゃん達が出迎えてくれた――。

 そして、あたしにも新しい出会いが……。
 翌日、学校で先生が言った。

「あー、転校生の神薙剛くんだ。みんな、仲良くすること」

 目が合ったときハートがときめいて――ほら、また恋の予感。

END

後書き
最後は新キャラに丸投げしてしまいました。
ミントの話はまだまだ続きます。
けれど、私はしばらくはミント達とお別れするでしょう。また続きを書くかどうかはわかりませんが。
百話超えるシリーズもありますが、大体三十話あたりでシリーズものは完結させることが多いようです。私の場合は。ご多聞に漏れず、『Minto!』もそうなりました。
因みに、『Minto!』と言うタイトルは、英語ではなくローマ字です。元になる漫画を描いたのが小学校六年生の頃だったので、英語殆どわかりませんでした。ほんとは『mint』なんでしょうね。
当時はオタクなキャラではなかったんですけどね。ミントも明も。
小学生の頃は『きんぎょ注意報』が好きで、そんな話を描きたかったのです。漫画はどこか行ってしまいました。まぁ、話は覚えてますけどね。
作者の私が大人になった分、ミント達も大人になったでしょうか。ミント達は連載が終わっても私と共にいるでしょう。
私にストーリーテラ-を志させた思い出の一作です。そして、今回ミントの小説を書けて、本当に私は幸せ者です。もう、書けただけで幸せです。やはり、話の運び方とか、漫画と小説とじゃ比較になんないけど、小六の頃から見れば随分成長したな、と思います。これも、やはり私のビルドゥングスロマン――というのは大袈裟かな。
そうそう。乱造さんは、小説版の新キャラです。お気に入りのキャラとなりました。彼と千春さんだけは幸せですね(笑)。明や岡村くん、高野くんや真美ちゃんも幸せになるといいな。
それでは、皆さんに感謝を!
2015.3.4


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