Minto! 36

 今日のイベントも無事終わった。あたし達は終わるまで何となく乱造さんのスペースに入り浸っていた。
「乱造、話があるんだけど」
 もうすっかり帰り支度の整った千春さんが言った。うーん、やっぱり千春さんは美人だなぁ……。背も高いし。乱造さんよりは低いけど。
「何だ?」
 乱造さんは純粋に「?」を出した。
「ゆりちゃんはもう帰るって。私、乱造に言いたいことあるの」
「……そっか。何だい?」
「ちょっと……来てくれる?」
「ああ」
 乱造さんが答えた。
「じゃあね。クロサワ、ミント」
「あ、うん」
 千春さんが手を振ると、明もそれに応えるように手を振った。
 乱造がいなくなった後、明が言った。
「乱造とちーちゃん……こりゃなんかあるよ」
 明は顔がにやけるのを止められないみたい。
「うん、そうだね」
「ねぇ、私達も行ってみない?」
「いいのかなー」
「明ー。立ち聞きなんてシュミわりーぞー」
 と、ゆうくん。
「あっそ。だったらアンタ先帰ってなさい。どうせ子供にゃ早い話よ」
 少しの間があいた後、ゆうくんがぼそっと言った。
「……行かねぇとは言ってねぇだろ」
「何だ。アンタも行きたいのね」
「ん……まぁ、将来の参考のために」
「なーにが将来の参考よ。ま、ついてきてもいいけど、静かになさいよね」
「わぁってるよ」
 あたし達三人は乱造さん達の姿を探した。二人とももういなかった。
「どこに行ったんだろうな。ちぃ姉と乱造。もうどっか行っちゃったかな」
 ゆうくんが軽くあくびをした。
「あたし、心あたりのとこがあるんだけど」
 明がそう言うので、あたし達は明の後をついて行った。
「ここ、さっきの場所じゃない」
「ちーちゃんはねぇ、あたし達と内緒話をする時、ここ使うんだ」
 ――さすがは明。情報通だ。確かにここなら、誰もいない。
「本当だろうな、明」
「嘘ついて何になるのよ」
「乱造達が他の場所に行ったら、オレら無駄な時間をつぶすことになるんだぞ」
 あたし達は物陰に隠れた。
 ――来た! 千春さんと乱造さん!
 あたし達よりゆっくり来たみたいね。
「話って?」
「あ、あのね――」
 千春さん、がんばれ。思わず手に汗を握った。
「私、乱造が好き!」
 千春さんが叫んだ。
「お、俺のことを……?」
 乱造さんの言葉に、千春さんがこくんとうなずいた。
「……本当にか?」
 千春さん、また、こくんとうなずく。
「あ……俺……こんな時どう振る舞ったらいいかわからないけど……俺も、ずっとちぃが好きだった」
「乱造!」
 千春さんが乱造さんに抱き着いた。
「ちぃ……また一緒に手袋うさぎ、描こうな」
「うーん。私にも他の本の〆切があるんだけど……でも、ゲストとしてならよんでくれる?」
「勿論!」
 ちょっと普通のカップルと違う会話だけど――二人とも好き合っていることに変わりはない。
 千春さんが羨ましいけど、うまくいくといいな……。
「また、俺ん家にも来てくれるか?」
「……うん」
 あーあ、失恋確定だね、あたし達。でも、後悔はないよ。あたしも明も一生懸命やったんだ。この二人が、うまくいくように。
 明は……泣いていた。
「おい、明――失恋して悔しいのはわかるけど……」
 ゆうくんが心配そうに言う。
「違うの、違うの」
 明が首を横に振る。
「あの二人が恋人になってうれしいの。あたし、他の人だったら許さないけど……ちーちゃんなら許す」
「優しいね、明」
 あたしが言う。明が答えた。
「だって――二人とも大好きだもん! 幸せになって欲しいよ……」
 明が止まらない涙をハンカチで拭っている。
「おい。そんな大声出したらバレ――」
「なぁにしてんのかなぁ、アンタ達ぃ……」
 千春さんの声だ。怒ってる?
「あ、ごめん、ちーちゃん、乱造……」
「ま、立ち聞きされてることはさっきからわかってたけどね」
「そうだったのか?」
 乱造さん、意外と鈍かったのね。千春さんが鋭いのかな。
「乱造。明達はあたしが乱造のこと好きなの知ってるから」
「そ、あたし達、乱造の味方よ!」
 明が力を込めて言うと、乱造がちょっと引いたみたいだった。
「乱造。最初にのぞきに行こうって言ったのは明だぞ」
「なっ……ちょっと、アンタだってこうやってのこのこ来たじゃない! あたしにばっかり罪をなすりつけるなんてずるいわよ!」
 ゆうくんと明はケンカを始めた。すぐこれなんだから――。千春さんはくすくす笑う。
「アンタ達、相変わらずねぇ。大丈夫よ。私、怒ってないから」
「――俺も」
「ミントとクロサワには背中を後押ししてもらったしねぇ」
「それってもしかして、ちぃ姉がミントや明と一緒に会場から外へ出たときか? オレも行けばよかったな」
「でも、今回は来たじゃない。ゆうくん」
 千春さんが優しく微笑んだ。
「うーん、エンリョしようかと思ったけど、好奇心が勝った……かな?」
 ゆうくんは正直者だ。
「まぁ、二人とも仲良くやんな。明はどうでもいいけど、オレはミントと付き合うから」
「ムリムリ。ゆう、ミントにも選ぶ権利があるってもんよ」
「明ー。オマエどうしてオレにイジワルばっか言うんだよ!」
「アンタが生意気だからでしょう?!」
 またぎゃあぎゃあ言い合い始めた明とゆうくんの二人をよそに、千春さんがそっと乱造さんに寄り添ったのをあたしは見た。お似合いだね。良かった。あたしには――まだ他の人に恋するチャンスもあるだろうから。
 だけど、やっぱりあたし……初恋が乱造さんで良かった……。

2014.11.25


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