Minto! 34 ああ。西澤家のお風呂って、広くって気持ちいいな。 しかも牛乳風呂。美容にいいのよね。 「あー、いいお湯だった」 ドライヤーで髪の毛を乾かしたあたしがやってくると――。 ゆうくんと明パパがポーカーをやっていた。 「おお、美都ちゃん。さ、ゆうくんも入ろうね」 「オレ、たまにはパパと入りたいな」 「でも、パパはもう入ったから」 「じゃあ、ママと入る?」 「う……え……や……」 ゆうくんは赤くなっている。ソファに座っていた明が言った。 「ゆうってば、イヤラシイこと考えてんじゃないの?」 「まぁ、なんてこと!」 明ママは瞬間的に怒りに沸いた。 「ゆうくんは天使なのよ! そんなこと考えるわけないじゃない!」 「えーん、ママー」 「よしよし、ゆうくん」 明ママがゆうくんの頭を撫でる。 「ゆう! そうやって猫かぶるのやめな!」 明がゆうくん達に近づく。ゆうくんはこっそりあかんべえをした。 うーん。ゆうくんはやっぱりしたたか者だわ。 あたしはやっぱりもっと可愛げのある弟が欲しいかなぁ。 あたしのパパとママも若いんだし、弟が授かる可能性もあるっちゃあるのよねぇ……。 …………。 やだ! あたしったら何考えてんのかしら! そりゃ、きょうだいは欲しいけど……。 「ママ、オレ、もう大人になったから一人で入るよ」 「まぁ……小学生ならまだ子供じゃない。ゆうくんはいつまでもいつまでもママのゆうくんでいるのよ」 そんな風に言われても……ゆうくんだって困るんじゃないかなぁ。ゆうくんもいつかは大人になるわけだし。パパと入るなら男同士の話もできていいだろうけど。 「じゃあ、玲子。俺、別の日におまえと入るか?」 「やだ。洋平さんたら……」 明ママは両頬を押さえる。照れている若妻って感じ。ちなみに、洋平さんというのは、明パパの名前ね。 「もう……こんなとこでラブラブしないでよ。見てるこっちが恥ずかしい」 明が手を腰に当てたまま、歯切れよく言った。あたしもちょっと同感……かな。 あたしはここの家族じゃないんだし。同じ血が少しは流れているとは言っても、転校してこの家にお世話になるまで赤の他人のようなもんだったんだし。 最初、明ママに、 「自分の家だと思っていいのよ」 と言われたけど、思えるわけないじゃん。 ママ……。 あたしはちょっと落ち込んだ。でも、そんな顔見せられるわけないじゃない。 でも……どうして西澤家の人はこういう時鋭くあたしの様子の変化に勘づくのだろう。 「どうしたの? ミント」 「明。おまえが怖いからミントが怯えるんだぞ」 「そんなわけないよ! ミントに怒ってるわけじゃないんだから! アンタに怒ってるのよ、ゆう。いつもいつもママに取り入って……」 「あーん。ママー、明がひどいー!」 「明、いい加減にしなさい!」 ああ、一触即発……。あたしが悪いんだ……。 「俺は明もゆうも悪くないと思うぞ」 明パパがこの場を収めた。 「どうした? 美都ちゃん。ん?」 あたしは……泣いていた。 「だって……お父さんも、お母さんも、あたしのこと置いてったんだもの。そんなことを思い出して……うっ、うっ」 うわぁーん! あたしは盛大に泣き叫んだ。 会いたいよ、お父さん、お母さん。 ……時々思い出すんだ。お父さんやお母さんのこと。 お父さん達があたしを捨てたわけじゃないことはわかってる。けれど、遠いんだよ。お母さん……ううん。ママ。 明のように、家族でケンカもしてみたい。あたしは……我儘かな。 「美都ちゃん」 明パパはあたしの頭をくしゃりと撫でた。 「あ……」 西澤家の面々は心配そうにこっちをうかがっている。明、明パパ、明ママ、ゆうくん――。 どんなに親切にされても、この人達はあたしの家族じゃない。あたしは涙を拭いながら言った。 「ごめんね、みんな……」 「気、使わなくていいよ。ミント。何か泣きたいことがあったんだね」 明が優しい声を出す。あたしは認めた。 「――お母さんのこと、思い出したの」 「うん。そうだよね。ミントは一人であたし達の家にいるんだもんね。心細くもなるわよね」 「大丈夫だよぉ、ミント。そりゃ、母親がいなくて寂しいかもしれないけど――」 ゆうくんも優しいんだ……。家族がいいからかな。 あたしも……パパやママのところへ行きたい……。そんな感情があるけど、やっぱり今はここがあたしの家……なのかな。 「うん。わかった……ごめんね……ちょっと泣きたくなった」 「でも、俺達の前で泣けるようになったのは、心を開いた証拠だよ、な」 「本当は美都ちゃんにはいつも笑っていて欲しいんだけどねぇ」 明パパと明ママが言った。 「へ……平気。さっきまで元気だったんだから」 というか、幸せだったんだから。 確かに西澤家はあたしの本当の家ではないけれど――あたしによくしてくれる。 あたし、情緒不安定なのかしら。 もしかして――初潮?! お月様の日は心が落ち着かなくなるって聞いたことあるもん。 あたしはトイレに駆け込んだ。まだなってないみたい。ほっ。 でも……いつかはあたしもなるのよね。あそこから血がどばっと。えーん。想像するだけで怖いよぉ。 しかも、友達の話だとナプキンの処理とかいろいろ面倒だって言うし。 でも、取り敢えず、ほっ。 「ミント……」 「明……」 あたしはトイレについてきていた明にぼそっと耳打ちされた。 「もしかしてあの日?」 あたしはぶんぶんと首を振った。 「そう……あたしはなったよ。二週間前」 「ええっ?!」 「しーっ。ゆうに聞かれたらどうすんの」 「ん……そうだね」 「困った時にはあたしかママに言って。気が楽になると思う」 「うん……ありがと。あのね、明」 「ん?」 「ごめんね」 「やぁだ。謝らなくていいわよぉ。それより、明日のイベント大丈夫? 体調が良くないなら伸ばしてもいいけど」 「大丈夫!」 だって、熊井さんや千春さんやゆりさん、それに何より、乱造さんに会いたいもの! 今度はもっと役に立てるといいな。あたしはリビングに戻って、騒いでしまったことをみんなに改めて謝った。 2014.8.27 35へ→ |