Minto! 26

「高野が私立行くと、俺達もうめったに会えなくなるかもな」
 高野くんはにこっと笑った。
「大丈夫。まだ決まったわけではないから。それに、僕は君達と同じ学校に行きたいなぁと思ってたんだ。だって退屈しないから」
「退屈しないってどういう意味だよ」
 岡村くんが高野くんの頬をぎゅうっとつねった。
「そうよ。どういう意味よ」
 と、明。
 岡村くんはてきとうなところで高野くんを離した。
「ほら。こうやってじゃれあうこととかさ」
「ん……まぁ、確かに」
「明と岡村は同じ中学行くだろ?」
「ん、まぁな」
「でも高校は別かもしれない」
「俺、そんな先のこと、考えたことねぇよ」
「でも、いつかは離れるかもしれない――同じ高校に行っても別々の大学に進むかもしれない。僕達が別れるのも、早いか遅いかの違いだけだと思うよ」
 確かに……そうだ。出会いは別れの始まりっていうけれど。明達と会えてよかった。本当によかった。
 これからどうなるのかな、という不安があるけれど。
 あたしはずっと明達と一緒にいたい。乱造さんとも。失恋したけどね。
「あ……高野」
 明が言う。
「何?」
「あたし達、ずっとずっと友達だよね。離れても友達だよね」
 高野くんの顔にふっとかげがさした。だけど、それはすぐ消えた。そして言った。
「そう。それに僕は君のこと諦めたわけではないからね」
「全く。しつこいヤツだよ。おまえは」
 岡村くんが呆れたようにツッコんだ。
「君だって人のこと言えないだろ? 僕と似たようなもんじゃないか」
「まぁな」
 岡村くんが肩をすくめた。
「ま、受験は一応するけど、受かるかどうかわからないしね」
「そうだな。でもがんばれよ」
「ありがとう」
 岡村くんと高野くんは……以前よりもっと仲良くなったみたい。それとも、あたしが知らないだけで、二人はこんなにいい友達同士だったんだろうか。
 明が……明の存在が岡村くんと高野くんの距離を近付けさせたのだろうか。
 だとしたら、明は大したものだ。
「なぁ、今日、僕の家で勉強会しないかい?」
「本当? 行く行く!」
 岡村くんが張り切って手を上げた。
「君はお菓子とゲームが目的じゃないのかい?」
「だって、俺の親、ゲームなんて買ってくれないんもんな」
「あ、あたしと同じ環境」
 そういえば、明の家でゲームなんて見かけたことないな。みんな持ってるのに。特に気にしたことなかったけど。
「そうなんだよな。あー、明と俺、仲間だ」
「ゲームは『ケンゼンな子供の成長をソガイする』と言って買ってくれないんだよー」
「俺んとこもそう! パソコンならあるけど、俺、パソコンには興味ねぇし」
「えー。パソコンでもゲームできるよ」
「ウソ! マジ?!」
「いまどきそんなことも知らなかったの?」
「うーん。でもどうやるかわかんねぇなぁ。姉貴と親父はパソコン持ってるけど。俺は中学生になったら買ってもいいって言ってくれてるけど、やっぱいいや」
「ええっ?! あたしの親、そんなこともゆるしてくれないよぉ。岡村羨ましい!」
「明とおそろいなら、俺、パソコン持ってなくてもいいや」
「だーめ、買ってもらいなさい!」
 明が岡村くんにびしっと人差し指を突き出した。
「――なして?」
「だってあたしも使いたいもん。それにじょーほーかしゃかいに乗り遅れるよ。パソコンぐらいないと」
「じゃあ、買ってもらう」
「そうそう。せっかく買ってくれると言うんだから、それを利用しなきゃソンだよ」
 あたし達はあははと笑った。
「うるさいぞ! 西澤! 岡村! 高野! 水無月!」
 ――あたし達は先生に大目玉を食らってしまった。
「すみませーん」
「ったく」
 先生は教室の窓を閉めて授業に戻って行った。
「ミントもすっかり学校に慣れたよね」
 高野くんは優しい。あたしのことも気にかけてくれてたんだね。
「うん。あのね、訊きたいことがあるんだけど――小学校って大抵一人の先生が授業を受け持つのよね」
「うん、それが?」
「ここではそうではないの?」
「基本的にはそうだよ。ただ、例外というのがあってね。たとえば、今の算数の先生は浜口先生だろ?」
「うん」
「歴史の先生は斉藤先生。でも、他の授業はみんな笹峰先生が受け持ってるだろ?」
「うん」
「――ええと、まぁ、そういうこと」
 高野くんは話を打ち切った。
「ちなみに他のクラスはみんな担任の先生が担当してるよ」
 と、明が説明してくれた。
「そうなんだ」
 あたしはうなずいた。
「中学では先生はみんな担当する科目が違うから、それを先取りしてると考えてるのよ、あたしは」
「へぇー」
 明はそう思ってるわけだ。なかなかユニークな考えだ。
「でさー、今、ゆとり教育でしょ? 先生もなかなか大変なんだと思うんだ」
「どうして?」
 ゆとり教育なら、教えること少なくて便利じゃない、とか思ったことあるけど。
「あまりにもとんでもない答案が出てきて、先生は頭を抱えてるんだって」
「おまえが言えるのかよ、明」
「何よ、岡村」
「まぁまぁ」
 一触即発の空気が流れた二人の間に高野くんが割って入る。
「確かに先生は大変そうだけどね」
 と、フォローも忘れない。気づかいの人だね、高野くん。
 明も岡村くんも一筋縄ではいかないけれど、高野くんはさすがだわ。 
「話は変わるけどさ、ここ、田舎のくせに授業のレベル高くない? 他の学校の友達から聞いたけど、『まだそこまで習ってないよー』という子がほとんどだよ」
 明の台詞に、
「確かに高いと思うね。これでも今はゆとりだから、昔はもっと高かったって先輩から聞いたけど。それに、今のうちに勉強に慣れていた方が、後々有利になると思うよ」
 と、高野くんが答えた。あたし、初めは見くびってたけどだんだんここも決してレベル低い方ではない、と思うようになってきた。特に算数には力を入れている。それでも、全体的に見たらあたしが前通っていたところよりは……うーん、これ以上は言いにくいんだけど。
「ねぇ、ミントはどう思う?」
「どう思うって言われても……こんなものじゃない?」
「そっかー。やっぱり都会の小学校はレベル高いんだー」
 明は一人で、うんうんと納得していた。あたしはこの学校は顔の良さ、レベルが高いと思う……。と言うとミ―ハ―扱いされるかもしれないから黙ってたけど。

2013.7.9

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