Minto! 22 翌朝、あたし達が学校に行くと――。 真美が頬杖をついてこっちを見ている。 高野くんと岡村くんが明と一緒にけたけた笑いこけてるから――真美はどっちかを見ていることになる。これは女の子のカンね。 真美は、恋をしてるんじゃないだろうか。 あたしは席を立つと真美の方へ行った。 「真美」 「……え? あ、何?」 「ぼーっとしちゃって……話だけなら、聞くよ」 「んー」 真美は迷っているらしかった。 そうだよねぇ……あたしだったら相談に乗ってあげるって言われても、きっと、多分言えない。相手が明だったら言えるけど。 しかし、真美、意を決したように。 「あのね……」 真美は私の耳元でささやいた。 「私、高野くんが好きなの」 へぇ、高野くんをねぇ。頭いいし、性格も……ま、仲間内ではいろいろ言ってるけど、いい方だと思うし。 「目が高いじゃない」 「ありがとう。でも、高野くんは明のことが好きなんだよね」 「明は、他の人のことを好きなんだよ」 「そうなの?」 真美の目がこころもち見開かれた。 「てっきり岡村くんか高野くんが好きなんだと思ってたのに……」 「だからさ、アタックするならチャンスはあるよ」 「そっかぁ……こんなこと言うのは何だけど……」 嬉しい。 そうはっきり聴こえた。 自分にもチャンスはあるんだと知って、嬉しかったのだろう、真美は。 「大丈夫。真美も可愛いから」 「ありがとう」 本日二度目のありがとうだ。 がんばれ、真美。 「高野くん」 真美が席を立った。思い立ったら即行動か。見習わなきゃな。 「なんだい? 川崎」 「放課後――体育館の裏に来てくれる?」 「え――?」 高野くんもその意味するところを察したらしかった。 体育館の裏かぁ。あたしだと、 「顔貸せやこらぁ」 のイメージなんだけど。まぁ、茶化しちゃ悪いよね。 もう一度心の中で言う。がんばれ、真美。 「とうとう告白ね! 真美!」 明が勢い込んで言うと、真美は真っ赤になってうつむいてしまった。 「おめでとう!」 岡村くんが手を叩いた。 「まだ告白って決まったわけじゃないだろ?」 高野くんがたしなめる。 「あ、そうだ。ミント、川崎と話してたよな。何て言ったんだ?」 あたしは答えず、黙ってほほえんだ――ほほえんだつもりだけど、上手くそう見えたかな? 「ちっ。だんまりかよ。まぁ、放課後が来ればわかるわな」 キーンコーンカーンコーン。 ついに放課後の時間がやってきた。決戦の時だ。 「あたし達もついて行かなきゃ、嘘よね」 そう言った明と岡村くん、事情を知ってるあたしとは、真美の健闘を見守るべく、茂みに飛び込んだ。 真美ちゃんは待っている。高野くんを待っている。 「真美ー。あたし達、見守っているからねー」 真美はこっちを向いて微笑んだ。 彼女は美人だし優しいから、きっと高野くんとお似合いだ。明もあたしも祝福する。 「川崎ー」 高野くんが走って来た。 「高野くん……」 真美が返事をした。 見ているこっちも手に汗握る。なまじなメロドラマよりよっぽど面白い。他人の恋を面白がっちゃいけないんだろうけどさ、本当は。 でも、あたし達だって大いに恋したい年頃なのだ。あたしも明も乱造さんが好きだし。 だから、恋バナと聞くと平静ではいられない。 だけれど、あたしってこんな性格だったっけ? 確か、恋は中学までおあずけにしようと思ってたのに。 乱造さんのせいだ。乱造さんが恋の楽しさを教えてくれたのだ。乱造さんのおかげで、あたしは、変われた。 今はもう、少しは話のわかる女の子になったんじゃないだろうか。 あっと、それどころではないわね。 高野くんと真美の二人は見つめ合う。 「高野くん……私、ずっと前から高野くんのことが好きでした!」 よしっ! 言った! 「悪いけど、僕……」 高野くんの反応も計算の内だったのだろう。 「わかってる。明が好きなんでしょう?」 「わかってるなら……」 「待ってる!」 真美が叫んだ。 「ずっとずっと待ってる。第二志望でもいい。待ってるから」 それはちょっと重いんじゃないかな。 「僕は……明のことが好きだから。ずっと前から、明のことが好きだったから」 高野くんも負けず劣らず一途な質らしい。 「俺もそうだー!」 がさっと茂みから岡村くんが顔を出す。 「バカッ!」 と明の叱る声が飛ぶ。 「高野、おまえなんかに明を渡してたまるもんか!」 「岡村、俺も明のことに関しては譲る気ないね」 バチバチッと火花が飛んだような気がした。 きゃー! 一度言われてみたいかも。そんな台詞ッ! しかも高野くんや岡村くんみたいな男子から。 少女マンガの定番だよね。ああ、憧れる。自分がその場に立ってみるのはしんどいかもしれないけど。 ……でも、あたしは当事者じゃないし。それにあたしは乱造さんが好きなんだ。ほんとだってば。 「ちょっと、あたしの存在無視して話進めないでよ」 明は不満顔だ。無理もない。彼女こそ当事者なのだから。 「あたしには好きな人がいるんだからね」 「え? 誰?」 「誰だよ、そいつ」 明は胸を張った。 「もうミントには話したから今更隠すのやめるわ。――六年三組の華流院乱造よ」 2013.1.15 23へ→ |