Minto! 21

 おやつを食べた後、あたしは部屋に入って、コミケで買った本を読んでいた。
 熊井さんの本を読んだ後、あたしは何となくぼわーっとしてしまった。
 すごいなぁ……こういう話描けるって。
 乱造さんもすごいけど。
 あ……。
 あたしの手が一冊の本に触れた。ゆりさんにもらった本……。
 表紙にはイケメン二人が描かれている。ちょっと美形過ぎでない?と思うほど。でも、綺麗な絵だった。絵の上手さでは乱造さんにひけを取らないかもしれない。
 でも、乱造さんのマンガはあたしにとって特別なんだ! ゆりさんも上手だけど。
 この二人が……恋をするのか……。
 あたしは怖いもの見たさで本を取った。ちょっとめくってみる。ある箇所で目が止まった。
「き……」

 きゃああああああああああ!

 あたしは家中に響くくらいの大声を出してしまった。
「なんだなんだ!」
「どうしたの?」
「美都ちゃん!」
 ――ゆうくん、明、明ママの順で部屋に飛び込んで来た。
「き……キス……」
「え?」
 明がいぶかしげな顔をした。
「お……男同士で……き……キス……」
「ああ、なあんだ」
 明はほっとしたようだった。
「ミントもすぐに慣れるよ」
 な、慣れてたまるもんですか!
「明ってば、ミントまで変態の道に引きずり込むなよ」
「変態って何よ! ミントは乱造のファンなのよ!」
「ふぅん。乱造のマンガってそんなにおもしろいのか」
「うん。貸してあげてもいいわよ」
 ちょっと気を取り直したあたしが言った。
「いい。いらね」
 ゆうくんがそっぽを向いた。あれ? 怒ってる?
「それ、Hシーンは出てないから大丈夫だと思ったんだけど……やっぱりだめかぁ……」
 当たり前でしょ! 男同士がキスなんて、普通じゃ考えられないもの!
 ――と思ったけど、明には内緒にしておいた。気を悪くされると困るからだ。
「あーきー。私も大目に見てたけど、美都ちゃんまで巻き込むのは許せないわ」
「――……はぁい」
 明ママの低い声に、明は仕方なさそうに返事した。
「それに、あなたにはやることいっぱいあるでしょ」
「ああ。勉強のこと? 別にいいもん。公立の中学入るからさ」
「そういう意味じゃなくて……」
「明は岡村や高野と同じ学校に入るんだよな」
 ゆうくんが言った。
 ああ、岡村くん、高野くん。彼らがまともに思える……。
 明日になれば会えるわよね。明と私の優しい友達。
「とりあえず勉強はしなさい。でないとマンガとりあげるわよ!」
「ママ! それはやめて!」
「美都ちゃん、明の勉強見てやってくれない? あなたのママが自慢してたわよ。娘は頭がいいって」
 成績が良いだけで、本当に頭がいいかどうかわかんないけど……。
 明の方が考えが鋭いし、頭もいいと思うんだけど……。
「じゃ、今、ちょっと見てくれる?」
 明が頼んできた。
「美都ちゃん、宜しくね」
 明ママもほほえむ。
「いくら勉強したって、頭悪いのは変わりねぇだろうけどさ」
 ゆうくんが憎まれ口を叩く。
「ゆうってば……ちょっと成績いいからって」
 ゆうくんは要領はいい方だと思ってたけど、成績までいいんだなぁ。
「小学校二年生の授業なんてやさし過ぎるよ。もっと大きくなって、もっと難しいこと勉強したいよ」
「ああ、ゆう。なんてあなたはいい子なの? でも、小二のお勉強もしっかりなさいね」
 明ママがゆうくんに抱き着いた。ゆうくんはにやりと笑った。
 うーん……ゆうくんてば、本当に明ママの喜びそうなことをわかっているんだなぁ。
「さぁさぁ。ゆうも出て行った。――ママもだよ」
「はいはい」
「またな。ミント」
 明ママとゆうくんが手を振る。
「ばいびー」
 明も手を振る。ばいびーは古いと思うんだけどな。
 さ、教科書開きましょ。
「――何してんの? ミント」
「何って――勉強するんでしょ?」
「あのねぇ、ミント。嘘も方便と言うコトワザ、知らないの?」
 うっ、そりゃ知ってるけど……。
 はかられた。
 あたしは悟ったが手遅れだった。
「ねぇ、ミントはキスしたことある?」
「――ない」
「やっぱりね。だから男同士のキスであんなに大騒ぎしたんだ」
 ほっといてよ。
「そういう明は?」
 ドキドキ。
「ない!」
「岡村くんや高野くんとも?」
「ない。っつーか、なんであんな連中とキスしなきゃなんないのよ」
 ――可哀想な岡村くんに高野くん。
「やっぱ憧れだよねー。キスってさ」
 うん。あたしもそれはよくわかる。あたしも乱造さんと……。想像するだけで胸がきゅうっとなった。
「ねぇ、ミント。あたしもさ、土曜日乱造んちについてってもいいかな?」
 ええっ?! 明ってモテるのに? 岡村くんは? 高野くんは? どうするのよ。
 でも、確かに乱造さんちに一人で行くのは勇気がいるかなぁ……。
「あ、勘違いしないでよ。乱造がミントに変なことしないか見張りに行くだけだからね」
 ふぅん。まぁいいけど。
「そうそう、それからちーちゃんなんだけど……」
「千春さんがどうかしたの?」
「岡村と高野のやおい本描いたそうよ」
 あたしは頭を机に突っ伏してしまった。
 千春さんてば、実の弟をホモ本のモデルに使うなんて……。岡村くん達も気の毒に。ますます可哀想になってきたわ……。
 結局、勉強ははかどらなかった。というか、全然しなかった。

2012.12.8

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