Minto! 2

「おはようございます」
 あたしは挨拶をした。
 じゅーじゅーと何かを炒める音がする。明のお母さんだ。
「おはよう、美都ちゃん。そこ座ってて。もうじき朝ごはんだから」
「はい」
 明達がやってきた。猫やニワトリ達と一緒に。ゆうくんも。
「ミント! オレ、ミントの隣がいい!」
 ゆうくんが叫んだ。
「ミントの隣はあたしよ!」
 明も負けてはいない。
「まぁ、えらく好かれたものだわねぇ、美都ちゃん」
 えへへ。まぁ、悪い気はしない。
「ジャマだ! 明!」
「ジャマはアンタよ! ゆう!」
 二人の姉弟の間に火花が散った。
「こらこら。明、ゆうくん。仲良くしなきゃ駄目じゃない」
 明ママが朝ごはんを持って来た。
 ベーコンエッグにレタスに味噌汁、ご飯。軽いし美味しそうだ。
「いっただっきまーす」
 あたしは明とゆうの二人に挟まれて、ご飯を食べた。美味しかった。

「ミントはあたしと同じ学校ね、今日から」
 何でそんなことになったのかわからないが、そうなのだ。あたしと明、そしてゆうは、同じ学校に通う。転校手続きもしてあるらしい。あたしは子供だからよくわからないけど。
「なぁ、ミント。オレ、おまえの教室に遊びに行ってもいいか?」
「なによぉ。ミントになれなれしくして。さてはアンタ」
 明がにたーっと笑った。
「ミントが好きなの?」
「ば……馬鹿いうなよ!」
 ゆうくんは真っ赤になった。
「否定しないのね」
「ひていって何だよ」
「んーとね……はっきり『違う』っていうこと」
「んじゃ、違わねぇよ。オレ、ミント好きだよ。かわいいし、明みたいに乱暴じゃないし」
「言ったわね!」
 明が拳を振り上げる。ゆうくんは逃げながら、
「明のばーか! ばーか!」
 と叫んでいた。
「こらー! ゆうー!」
 と、明も追いかける。
 だめだこりゃ……。

 えーと、六年二組は……と。あたし方向音痴だけど、明と一緒ならだいじょうぶか。明も六年二組なのだ。
 教室に入った時、誰かにぶつかった。
「……と、悪い」
 色素の薄い髪にどことなく不良っぽい雰囲気。
「こいつねー、オカムラタカシ。ナインティナインの」
「違う! ……いっつも言われんだよなぁ。この名前のせいで。字は違うけど」
 へぇー。この人も名前で苦労してんだぁ。
「どんな字書くの?」
「岡村はわかるよな。後は、貴族の貴に歴史の史」
「うわー、柄の悪い貴族!」
「うるせぇ!」
 岡村くんは明に怒った。いや、怒ったというより、何というか……じゃれ合い?
「仲がいいのね」
「だーれがこんなヤツと!」
 岡村くんと明が同時に相手を指差した。セリフまで見事にハモったのでおかしかった。
「なんだよー、笑いやがって。んで、アンタは?」
 岡村くんがきく。
「美都。水無月美都。よろしく」
「ミント、こんなヤツにあいさつすることないって」
「あいさつは大事だぞ。美都って言ったな。アンタ、きらわれないように気をつけろよ。きらわれたらおまえ、一年間ずっと『水戸納豆』って呼ばれるぜ」
 う……それはイヤかも。
「いこ。あんなヤツ相手にしない」
「う……うん」
 岡村くんがひらひらと手を振っていた。
「やーほー。高野」
「ああ、明か」
「こちら、水無月美都。転校生。あたしはミントって呼んでるよ。かわいいでしょ」
「み……水無月美都です。よろしく……」
 水戸納豆はイヤ、水戸納豆は……。
「ようこそ。六年二組へ。僕は高野博之。どうぞよろしく」
 高野くんはにこっとほほえんだ。まじめそうな人だな……。失礼だけど、岡村くんと違って。でも、岡村くんもハンサムだったな。高野くんもなかなかだ。
「おい。高野。ちょっとこっちへ来い」
 いつの間にか近くに来ていた岡村くんが廊下を指差す。高野くんが岡村くんについていく。
「行ってみよ」
 明が言う。あたしも明の後をつける。
「どうせ大したこと話してないだろうけど」
 じゃあ立ち聞きしなくてもいいんじゃないかとは思ったけど……正直に言うね。あたしもちょっと興味があった。
「なぁ、高野。あの転校生、どう思う?」
 教室から離れたところで、岡村くんは高野くんと話している。あたし達はかくれている。
「かわいいと思うよ」
「じゃ、明はオレにくれよ」
「イヤだ」
 高野くんは断った。
 明? 岡村くんが言ってるのは、今までケンカしてた明のこと? 岡村くんは明のこと好きなの?
「むっ、あそこに誰かいる! 出て来い!」
 岡村くんが鋭く叫んだ。カンがいいなぁ。あたし達はあきらめて出てきた。
「……また会ったな。ミント、明」
 岡村くんはミントと呼んでくれた。少なくとも嫌われてはいないのだろうが、何か裏に何かかくしてそうな呼び方だ。でも、怒ってはいないようだ。
「さっきの聞いてた?」
「う……うん。ごめん」
 立ち聞きしてたのはいけないことなので、あたしは一応謝った。
「謝ることないよ。こんなヤツらに」
 明がきつい一言を言う。
「オレ達、明のことが好きなの。ケンカばっかしてっけどさぁ。明もそんなにオレ達のこと嫌いじゃないだろ? 男子でおまえのこと『あき』って呼ぶのはクラスでオレと高野しかいないもんな」
「みんなは明のことなんていうの?」
 あたしが横合いから質問する。
「『あきら』だな」
 そういえば、明は『あきら』って呼ばれるの、いやがってた。
「高野もオレも明のこと好きなんだってこと、明はとっくに知ってるだろうけど」

2011.4.25

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