Minto! 13

「あ……あたし、急には決められないわ」
 そんなこと言って逃げようとする。
「そうね。ミントに考える時間を与えなきゃね。でも、そんなに時間ないよ」
「わかったわ。明」
「僕としては行って欲しくないんだけどな。ま、ミントの自由意思に任せるよ」
 明と高野くんがあっさり引っ込んでくれたので、あたしはかなりほっとした。
「でもさ、見学くらいには来ない?」
 明が誘ってくれた。
「うん。そうだね。見学ならね……」
「あそこの部長さんには気をつけた方がいいよ。かなりアクの強い人だから」
「わかったわ。高野くん」
「もうー。高野ったら、ゆりちゃんそんなに怖い人じゃないよ」
「ん、でも、あの人あれだから」
「あれって?」
 と、私が訊く。
「かなり……ね」
「部長の金谷ゆりちゃんは腐女子なのよ」
 ……ああ、なるほど。
 その後、岡村くんとも合流して学校に行った。
「イラストクラブぅ?」
 岡村くんもいい顔を見せなかった。
「ミント、アンタが行きたいって言うのなら止めないけど、俺はお勧めしないね。部長がすげぇからな」
 あら、高野くんと似たようなこと言うのね。
「もっとも俺は――金谷の悪口は言えないけどな」
「ゆりちゃんはちーちゃんの弟子なのよ」
 ふーん。そうなんだ。
「ゆりちゃんはね、ちーちゃんのこと『師匠、師匠』って慕っているから」
 ……岡村くんが悪く言えない訳だわ。
「ああ、姉貴も腐女子とやらの世界から早く足を洗えばいいのに」
「それはムリみたいよ。ああいう世界って、ハマったら抜け出せないみたいだもの」
「わからん、んー、わからん」
 岡村くんが頭を掻きむしった。
「俺も何回か姉貴につき合ってコミケ行ったことあるけど、立ち読みして『うわぁ』と思ったもん」
「あら。岡村。立ち読みなんて失礼よ。手に取った本はちゃんと買わなきゃ」
「知ったこっちゃねぇよ……明は染まってねぇよな」
「どうだと思う?」
 明が人の悪い笑みをにま~っと浮かべる。
「そうだな……特に変わったとこはねぇな」
「あたしがやってるのはただマンガの絵を描くことだけだもん。下手だけど」
「明の絵は下手じゃないよ」
 高野くんが口を挟んだ。
「少なくとも、味があって僕は好きだな」
「ありがと」
 明が笑顔で言ったので、高野くんは照れたように俯く。
「でもねー、ゆうのヤツは、あたしの絵を下手だー、下手だー、って。頭に来ない?」
「そう言われても……」
「だいたいゆうなんて、人のこと言えるレベルじゃないっつの」
「それはまだ小さいから仕方ないんじゃないかな」
 明はふん、と鼻を鳴らした。
「ちょっと、あなた達。朝勉強の時間よ。真面目にやりなさい。まぁ、岡村くんと明には今更無駄かもしれないけど」
 真美だった。
「真美、昨日と言ってること言ってることちがーう。それに、一言多い!」
 明が唇を尖らす。
 そういえば、昨日は朝勉強なんてしなくてもいいんじゃないみたいなこと言ってたような……真美ってば。
「昨日は昨日、今日は今日。一言多いのはご愛嬌でしょ。はい、岡村くんも自分の席に戻る!」
「ちっ、おせっかいめ」
 岡村くんが舌打ち。
「何か言った?」
「いいえー、別にー?」
「さ、川崎さんの言う通りだよ。僕達も勉強しなきゃね」
「後で高野の答案写すよ」
「それじゃ意味ないだろ」
「残念ね。今日の朝学習は漢字の書き取りよ」
「げー」
 それじゃ、写したって意味ないわね――あたし、思わず吹き出してしまった。
「何がおかしいんだよ。ミント」
 岡村くんが訊いてきた。
「いいえー。別にー?」
 さっきの岡村くんの台詞を真似てみた。周りの人達がどっと笑った。
「何よ、そこ! うるさいわね!」
 苦情が来た。
 でも、真美まで笑っている。――上品に口元押さえてだけど。
「ミントっておっかしー」
 明もあっけらかんと笑っている。
「負けたわね。岡村」
「ちぇっ」
 岡村くんはそっぽを向いた。
「川崎も笑うのやめろよ」
「あ……あ……ごめんなさいね」
「でも、今の笑いのツボに入っちゃったんだよね。真美もでしょ?」
「うんうん。何でこんなにおかしいのかしら。わからないんだけど」
 明と真美がまた笑い合う。箸が転がってもおかしい年頃とはこのことかしら。
「うるさいって言ってるでしょう!」
 と、また声が飛ぶ。えーと、あれは誰だっけ……?
 早く全員の名前と顔を覚えなきゃ。
「ごめんなさい。では、またね」
 真美が思い出し笑いをしながら自分の席に向かって行った。
「何しに来たんだ? あいつ……」
 岡村くんが首を傾げていた。
「僕達も席に戻ろうよ」
 高野くんが促した。
「ん。ああ、そうだな。じゃ、ミント、明、また後でな」
「うん」
 あたしは手を振る。
 でも、岡村くんと高野くんが漢字練習始めると、あたしは、
(寂しいな)
 と思った。でも、小学生だって学生だもん。それに六年と言ったら一番上の年齢だ。あたしもちゃんとやらなきゃ。
 国語得意で良かった。
 家庭科だって得意よ。このエプロンドレスは自分で縫ったものだもの。でも、体育はだめなんだー。体動かすのは好きだけど。
 イラストクラブへは放課後、行くことになった。

2012.1.28

14へ→
BACK/HOME