Minto! 10

 あたしは、庭のブランコに座っていた。夜気に当たりながら。
 ここの人達、いい人達だな……。一筋縄ではいかなさそうだけど。
 お父さんとお母さんと離れるのは寂しいけど。
 美都はここでも上手くやっていけそうです。
 ほどいた髪が風に靡く。初夏の風。暖かさを運んでくれる。
 この環境もいいもんだな……。
 あたしが浸っていると。
「ミント」
 小声で呼んだのは――
「明!」
「ちょっと眠れなかったんで」
 明は向かい合わせに座った。このブランコは四人乗りなのだ。
「どう? ミント。ここでやっていける?」
 あ、あたしが今思ったこと。
「大丈夫。やっていけるわ」
「そっか」
 明はじっとこちらを見ている。
「な……何?」
「いや、ミントって強いな、って思って」
「全然強くないよー。だって、明の方が……」
「あたしだったら、家族と離れ離れになったら泣いちゃうかも。ゆうとも――あんなこと言っても、別れると寂しいし」
 その気持ちは……わかる気がする。
「あたしだって……明がいなかったら、不安で不安でしようがなかったわよ」
「ん……ありがと」
 明は泣いていたみたいだった。すん、と鼻を啜る音が聞こえた。
 明は――やっぱり優しい。
 あたしだって、明や明の家族やクラスメートがいたからやってこられたようなもんだし。
 本当は甘ちゃんなのよ、あたし。
「過ごしやすい季節になってきたね。あ、庭のチューリップが綺麗だよ」
 あたしは話題を変えようとする。
 明は言った。
「うん……ごめんね、ミント。泣いたりして」
「構わないよ。泣きたい時に泣けばいいんじゃない?」
 あれ? これって、明が言いそうな台詞でなかった?
 やっぱり血が繋がってんのかなぁ……あたし達。
 家族と離れ離れって、やっぱり嫌だよねぇ……。
 やだ……明が泣いたわけ考えてたら、あたしも泣きたくなってきた。
「ミント……ミントは辛くない?」
「ちょっと……でも、明達がいるから平気!」
 あたしは力こぶを作る真似をした。
「ミント、ほんとにありがとう! あたしもミントにパワーもらったよ!」
 明が嬉しそうに言う。
 じゃあ、あたしも、誰かを元気にすることができるんだ。あたしはほっこりしながらそう思った。
 涙なんて吹き飛ばそう!
「それから、ゆうのことだけどさ」
「ゆうくんのことが……何?」
「イヤだったら正直に言っていいからね」
 ゆうくんに嫌なところは特にない。むしろ、いい子だと思っている。
「あたし、ゆうくんは好きよ」
「そういう好きじゃなくてさぁ……ああ、もう! あのバカ弟! お姉様をこんなに悩ませて……」
 明はがりがりと頭を掻いた。
 明もいいお姉さんなんだな。なんだかんだ言っても、ゆうくんのこと心配してるんだ……してるのかな?
「ゆうくん、いい子じゃない」
「……あのねぇ、ミント。アンタちょっとニブ過ぎ!」
 そうかなぁ……。
 確かに、前にも友達から、
「美都! アンタって天然!」
 と言われたことあるけれど。
 ちょっと心外かもな。
「まぁ……ゆうの肩を持つ必要もあたしにはないわけだし。ミントはミントの自由意思があるわけだけれど」
 明はブランコから降りた。
「ま、ミントに好きな人ができたら、あたし精一杯応援したげるから。ゆうのことは気にしないで」
 そう言うと、明は家の中に引っ込んで行った。
 あたしの好きな人……。
 咄嗟に岡村くんの顔が思い浮かんだ。
 わーっ! わーっ! 何で岡村くんの顔が思い浮かぶのよ!
 そりゃ、確かに優しいし、見た目も中身もいい人だけど、あの人シスコンよ。それに、明のことも好きなのよ。
 あたし……頬が熱い。
 岡村くんは……ただの友達よ。
 あたしは熱を冷まそうとした。
 うわぁぁ、明が帰っててよかった……。
 あたしは……まだ恋なんて知らなくていい。
 お父さんだって言ってたもん。
「美都は、いつまでも僕の美都であればいい」
 って。
 数年前の話だけどさ。
 今は、いつになったら恋するのかな、美都は、と、ちょっと気にしてるようだけど。
 思えば、あたしも思春期って年頃に入ったんだもんねぇ。
 お父さんはさり気なく、あたしの恋について探りを入れる。そして必ずがっくり肩を落としながら溜息吐くんだ。
 あたしってそんなに異常?!
 数年前は『僕の美都』でも、今はそうじゃないってわけ?
 お父さんの裏切り者。
 あたしは深呼吸をした。岡村くんなら、ちょっといいかな、と思うけど。高野くんもいい男だけど。
 でも、あたしは……恋なんて蹴散らしてやるんだッ!
 まだ小学生だもん。六年生だけど。
 明だって、初恋はまだだろうし……だから、大丈夫なんだッ!
 大丈夫の基盤はゆるいけど、大丈夫なんだッ!
 まだ生理にもなってないもんね。保健体育で習ったけど、かなり大変そう。
 大人の女性は大変なんだ。
 はぁ……このまま子供でいたいなぁ。
 あたしは、きぃーきぃーと、ブランコをこいでいた。
「ミントちゃん。もう寝なさい」
 明ママの優しい声が聞こえる。
 あたしは、「はあい」と返事をして、庭を後にした。
 そして寝室に向かう。昨日明ママが案内してくれたところだ。
 うーん、やっぱりいいところ!
 ベッドもふかふかしてるし、窓からの眺めはいいし。カーテン開けたら星も見えるわ。
 それに憧れのピンクのじゅうたん! わざわざあたしの為に用意してくれたんだとか。
 明ママには、「ありがとうございます!」とお礼を言っておいたんだっけ。
 でも、何度でも言っちゃう。この部屋最高!

2011.11.4

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