阿部誕パーティー2011 中編 

「みんな。そろそろ練習よ。何やってるの?」
「あ、モモカン……」
「なぁに? 三橋くん」
「あのね、パーティーが……阿部君が……」
 ああもう! それじゃ伝わらねぇだろ!
「オレの誕生日とクリスマスパーティー、合同で三橋の家でやるんです。それで、モモカン、一緒に来ませんか?」
「面白そうね。でも残念。その日バイトが入ってるのよ」
 モモカンはバイト代を野球部の為につぎ込んでいる。
「でも、新しいキャッチャーミット、贈るわね」
「え。いいんすか?」
「でも慣らすのに大変か」
「いいです。それ、ください」
 今使っているキャッチャーミットは正直ぼろくなっている。新しいのがあればありがたい。
「じゃ、誕生日に贈るわね」
「ああ、そうか。誕生日プレゼント買わなきゃいけないんだ」
 水谷は今さっき気付いたようだった。
「常識だろ。それは」
 巣山が言う。
「巣山の彼女は来ねぇの?」
 田島が尋ねる。
「パーティーって十一日だろ? その日はいとこが来るんで大変なんだってさ」
「僕の……彼女も家庭教師のアルバイトがあるみたい」
 西広も口を挟む。
 西広にも彼女ができた。頭が良くて眼鏡がとてもよく似合ってた子である。
 篠岡が来た。
「おー、篠岡ー」
「なぁに? 阿部君」
「え? いきなり名指し?」
「だって呼んだでしょ? 私のこと」
「ああ、そうか。おまえも十一日、来る? 三橋ん家。つまりその……オレの誕生日と一緒だけど」
「阿部君の誕生日?!」
 篠岡がぱっと目を輝かせた。何がそんなに嬉しいんだろう。
「うん、まぁ……」
「おめでとう! 阿部君」
「おめでとう、というにはまだ少し早いけどな」
「あははっ、そうだね」
 水谷がじっと篠岡を見ている。三橋も何となくこっちに視線を送っているようだ。
「じゃ、プレゼント贈るね」
「気ぃ使わなくていいよ」
「そんなわけにはいかないよー」
「水谷なんてどうせ手ぶらだろうし」
「阿部ー。何かオレに偏見持ってないか?」
「持ってるぞ。きっちりと」
「あはは。水谷君と阿部君て仲いいね」
 ああ。仲いいとも。この手で湖に沈めてやろうかと思うぐらいにな。
 もちろんそれは冗談だが。
「というわけだ。水谷も何か持ってこいよ」
「わかった。何がいい?」
「そうだな……」
 オレには特に物欲はない。欲しいものと言ったら野球関係のものばかりだ。立派な野球馬鹿だな、オレも。
 それを言っちゃあ、ここにいる皆がそうなのだが。
「あ、阿部にちょうどいいプレゼントがあった」
「何だよ」
「テレビゲーム。プロ野球の」
「いいな、それ」
「阿部、機種何使ってる?」
「プレステだけど。でも弟がプレステ3欲しがってるからお袋がそれ買うかもしれない」
「じゃ、プレステ3でいいね」
 オレは、おう、と答えておいた。
 ゲームだったら、三橋や弟のシュンとも遊べるしな。
 水谷にしちゃ気のきいたチョイスじゃねぇの。
 オレは少し水谷を見直した。もっとも、水谷がゲームオタクってこともあるんだろうけど。
 しかし、オレもゲンキンだな。
 三橋は……まぁ期待するだけ無駄か。その場に立ち尽くしている。
 栄口や沖が「プレゼント何にする?」と相談してるそばで呆然としている。
 オレは三橋がくれるものだったら、何でもいいんだけどな。
 オレは三橋自身が欲しいが、藤倉や岬がちょっと怖い。
「三橋……パーティーが終わったらキャッチボールやろうぜ。それが贈り物だ」
 オレは三橋に助け舟を出してやった。思った通り、三橋は助かったとばかりにこくこくと頷いた。
「浜田も呼ぼうぜ―」
 田島の提案にオレも賛成した。

 そして、誕生日当日――
 三橋家の大きなクリスマスツリーの下にはたくさんのプレゼントの箱が置かれてあった。
 むさ苦しい野郎がオレも入れて十一人と、女子が五人。おばさんも入れたら、女は六人か。
「ユウーーーーー! 会いたかったーーーーーー!」
 ルーシーが田島を追い掛けている。ちなみに言うと、ルーシーは田島を『ユウ』と呼ぶ。
 田島が女から逃げている。これは珍しい光景だった。
「俺も三橋に会いたかったぜ」
 むっ! 藤倉のヤツ、早速三橋を口説きにかかってるな。
「おい、藤壺」
「藤倉だ」
「オレ達はこれからキャッチボールするんだ」
「え、でも、阿部君、パーティーの、後で、いいって……」
 ちっ、三橋のヤツ、こんな時だけ記憶力いいんだからな。
「おー、キャッチボール、やろうぜやろうぜ。オレもちょっとしたもんだからさ。女子プロ野球があったら、スカウトもんだぜ」
「ちょっと藤倉さん。少しは手伝ってよ」
 岬あかねだ。助かった。
 でも、こいつも三橋を狙っているんだよなぁ……。
「わぁったよ」
 こいつも一応女子なんだな。周りがてんてこ舞いだと、何かしたくなる。特に、頼まれた時には。男子はそういう注意なんて聞きゃしない。
 男と女って、こういうところでも違いが出て来るんだよなぁ……。
 モモカンといい、篠岡といい、女子は働き者だ。
 まぁ、藤倉は男に近いけど。
 それに、やっぱ個性も出るしな。花井も働き者だし、浜田だって。
 そういや花井や浜田はさっきから女子連の手伝いをしているな。
「あ、私やるから、理奈ちゃんは遊んでていいよ」
 篠岡だ。まぁ、本人に悪気はないんだろうが、それが藤倉の怒りに火をつけたらしい。
「誰が遊ぶだって?! いいよ、手伝ってやるぜ! ほんとにもう」
 藤倉はぷりぷりしながら台所へ消えて行った。邪魔者は去った。

2011.12.10
後編→

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