阿部誕パーティー2011 前編 トゥルルルルルルル、トゥルルルルルルルル―― 電話が鳴った。 「はい、阿部ですが」 「あ、阿部―? 俺だよ、俺」 がっちゃん。 トゥルルルルルル……また鳴った。 「おい、阿部ー。いきなり切るこたないだろー?」 「何の用だ? 藤倉」 俺の家に電話をかけてきたのは藤倉理奈。一人称は『俺』だし、普段から男言葉だがれっきとした女である。 ……そのはずだよな。すまん。俺にも自信がねぇ。 「俺さー、クリスマス休暇で日本に帰ってくんだよ。そんときパーティーしたいから、ついでにおまえの誕生日も祝ってやろうと思ってな」 「その必要はねぇ」 ただでさえ家族で過ごすのが鬱陶しいのに、藤倉相手じゃ鬱陶しさが倍だ。 「いいのかなー。三橋も参加すんだけど」 「何ッ?!」 三橋が絡んでくるとなりゃ話は別だ。 「どうすっかなー。三橋の家に、『阿部は来れないです』って言ってやろうかなー」 「すぐ行く、今行く」 「慌てんなって。どうせ後十日だ。友達にも声かけてくださいって、三橋母に言われたぞ。いい母ちゃんだよな」 「三橋ん家に電話したのか?」 「あたぼうよ。三橋に連絡取らないで、どうしておまえに電話するよ、このアホ」 アホと言われたが、オレはあまり気にしなかった。藤倉の口の悪いところは嫌いではない。 でも、俺と藤倉は三橋を巡ってライバルである。男という点ではオレは不利なわけなのだが。 「あかねや篠岡も呼ぼうと思ってんだけど」 「あかねって……岬か」 岬はともかく、篠岡はマネジでいつも世話になっている。夏合宿のメニューも三日間の朝食、考えてくれた。 篠岡はよく自分のお袋のこと手伝ってるんだろうな。それに有能なマネージャーだ。 「パーティーは三橋ん家だってー。楽しみだなー」 うん。楽しみだ。 それ以上に、不安でもある。 藤倉が本気で迫ったら、三橋はどうすんだ? 藤倉は認めたかないけど、結構美人だし、スタイルだっていい。三橋がいなかったら、オレも惚れてたかもしれない。 男言葉も魅力のひとつだ。オレは気に入っている。 でも! 俺には三橋がいる! 「んでさー、ルーシーも来たがってんだよ」 「ルーシーって、あの騒がしいヤツか?」 「そ、田島のガールフレンド」 オレ、あいつら見て、類友ってほんとにあるんだなと思ったよ。 「でも、何でルーシーの名前が出てくんだ?」 「ほんとに偶然なんだよー。俺、アメリカの寄宿学校でルーシーと友達になったからさ」 ルーシーか。田島がうるせぇだろうな。いや、うるせぇのはルーシーか。田島は嫌がってたからな。照れ隠しもあるんだろうが。 「んじゃ、十日後にね。ちゃんとらーぜ全員に伝えとくんだぞ!」 「何故オレ?」 「三橋がそんなことできると思うか?」 「……ま、できねぇだろうな」 俺達二人とも、そんな三橋が大好きなわけであるが。 「じゃあ、頼んだぞ。あ、モモカンも呼んどいてよ」 「わかった」 電話は切れた。 まさかコレクトコールじゃねぇだろうな。 コレクトコールがどんなもんか詳しくはしんねぇけど。 相手はあの藤倉だ。油断はできない。 とりあえず部員に連絡しとくか……。 俺は今、部活に専念している。これでも将来有望なキャッチャーだ。 休憩時間、オレは三橋に訊く。 「なぁ、三橋。藤倉から電話来たか?」 「あ、藤倉、さん。連絡、きた、よ」 「おまえん家でパーティーやるんだって?」 「うん。今から、楽しみ」 そうか。三橋が楽しみで良かったな。 それにしても……。 「えー? なになに? 三橋ん家でパーティーやるの? クリスマスパーティー?」 水谷だ。こいつはうざい。 「うん。阿部君の、パーティー、と一緒に」 「オレも行っていい?」 三橋は水谷の言葉にふひ、と笑った。 「大歓迎、だよー」 「良かったー。オレ、三橋ん家にまた行きたかったから」 うるせぇんだよ、クソレ。おまえだけ出入り禁止にしてやろうか。 でも、こいつは篠岡のことが好きだ。多分、好きなんだと思う。だから、許してやることにした。 「らーぜは全員集合。そう言っとけ」 オレは水谷をパシリに使うことにした。 「オッケー。楽しみだなぁ」 水谷は単純でいいよなぁ……。 話を聞いた部員達は、みんなその話題で大盛り上がりだった。 「クリスマスパーティー? 阿部の誕生日と合同でやるの?」 「ご馳走出るんかな」 「オレ、ケンタがいいよ、ケンタ」 田島がはしゃいでいる。 その時、女の人影がひとつ。 「あーずさっ。何話してんの?」 「わぁっ! 商子!」 花井が慌てた。 遠藤商子。花井が多分お袋の次に苦手としている女子。けれど、結構可愛い。 「あ、遠藤もクリスマスパーティー来いよ」 と、田島。 「あら、いいわね」 と遠藤が笑う。 「遠藤だったら来てもいいよ。な? 花井」 いつの間にか田島が仕切っている。仕切っているという自覚もないんだろうな。田島は天然だから。 花井が恨めしそうに田島を睨んでいる。けれど、特に強い反対はしなかった。 それにしても、花井のヤツ、前は遠藤のこと苗字で呼んでたはず……お互いに距離が近くなったんだろうか。遠藤は相変わらずだけど。 「あかねも来るってよ」 「わ、いいじゃんそれ。いいなぁ、阿部。ハーレムじゃん」 「お目当ては三橋だろ?」 「三橋がハーレムかぁ……やるじゃん」 「う、お、オレ……」 三橋がまたきょどっている。どついてやろうか。ほんとに。それともうめぼしやってやるか。 そんなだから俺や藤倉につけこまれんだよ。……いかん。自分で言って落ち込んだ。 2011.12.9 中編→ |