お騒がせ妖精、ジェフィー!

「おーい、酒だぁ! 酒持ってこーい!」
 ボックス席でおだを上げているのは、特戦部隊隊長、ハーレムである。
 ガンマ団を辞めさせられた後、毎日酒を浴びるように飲んでいる。
 ロッドがいることもあるが、この時は一人だった。
「おい、おじさん、飲み過ぎだぜ」
 つと、少年が近付いてきた。
「ふん。なんだ、ガキか」
 ハーレムは一笑に付した。
 少年は、長い髪を一つにまとめ、一房アホ毛を垂らしている。黄色い服の上に、袖なしの赤く長い上着を着ており、腰のところをサッシュで留めている。サービスの少年時代に面影が似てないこともない。
 ハーレムがコップに伸ばそうとするのを制止するように、コップの上に手をかざした。
「それ以上飲むと、毒だぜ」
「うるせぇ、俺は飲む」
 少年をどかすと、ハーレムはコップの中の液体を一口含んだ。
「ん?」
 ハーレムの舌は、すぐに異変に気がついた。
「なんだこりゃ、水じゃねぇか! おい、オヤジ!」
「マスターのせいではないよ。これはオレの力さ」
 少年はにやにや笑っている。
「おまえが……まさかな。少し飲み過ぎたんだろう」
「違う違う。オレがやったんだよ」
「酒を水に変えたのか?」
「そう」
「おい、オヤジ! 変なガキが……」
「ガキって?」
 駆け付けたマスターが訊く。
「ほら、ここにいるだろ。黄色と赤の服で、長い髪をまとめた……」
「いませんよ」
「え?」
「だいたい、うちは子供なんか入れませんよ」
「そんな……」
 ハーレムは愕然となった。
「な? オレの姿は今、アンタにしか見えないんだよ」
 ここまで来れば、ハーレムも認めないわけにはいかなかった。
 この少年が特別であることを。
「おまえ……何者だ」
「ああ。オレ、ジェフリー。ジェフリー・アイアンズ。ジェフィーって呼んでるヤツもいるけどね。オレの創造主がさぁ……アンタがあまりにも酒飲み過ぎるって心配したから、こうして来てみたわけ。うん。確かに、アンタ飲み過ぎだね」
「人の勝手だ」
「オレの作者は、おまえにアル中で死んでほしくないんだってさ」
「……ふん」
 ハーレムは立ち上がった。
「もう帰るとしよう」
「それがいいよ」
「ところで、アンタの作者とは?」
「それは企業秘密」
「そうか。まぁいい。じゃあな」
「もうお帰りで」
 マスターが声をかけた。
「ああ」
「まだ代金払ってませんが」
「ガンマ団にツケを回してくれ」
「いいんでしょうか……」
「どうせ俺の金じゃない」
「そう言う意味ではなく――」
 ハーレムは出入口から去ると、皮靴底の音を響かせ、階段を上がって行った。
 ジェフィーはそれを見て、密かににっこりと笑った。

2009.9.1

BACK/HOME