Sun light yellow


―――私は 私の太陽を 殺しました―――


 眩しいほどに降り注ぐ陽光の下、瞳を閉じる。
 目蓋を閉じてすら存在を主張する太陽の光は、鬱陶しくもあるが暖かい。
 ……私は、そんな太陽のような男を知っている。

 彼は私の親友だった。
 ガンマ団という組織の中、総帥の血族と言う事から少々特別な存在だった私に、なんの先入観も持たずに接してきた。
 私は、当時から人と本気で接する事が無かった。
 誰もが私を知る前に、『私』という人間を己の中で創りあげている。
 そんな相手に対し自分を理解してもらおうとする程、私は他人に興味を持っていなかった。
 自分で言うのもなんだが、周囲から見れば傲慢で鼻持ちならない人間だったと思う。
 ……その中で、彼は異例な存在であった。

 私はあまり笑う事が無い。
 気持ちを言葉にするのは苦手で、表情に出すのは更に苦手だ。
 けれど、彼はそんな私にさえ笑いかけてきた。
 ……そのままでいい、と。

 はじめは彼の存在に戸惑ったが、次第にそんな感情も失せた。
 共に居て安らげる。
 兄弟以外の親しい存在に、私は柄にも無くはしゃいでいた。
 ……思えば、この頃が私の思い出の中でも、最も純粋に輝かしい時代だったろう。

 二十五年前の、あの日までは。


体が引き裂かれそうな衝撃。
視界が真っ白に染まる。
己の内から爆発的に湧き上がる、抑えがたい力。
これが『力』の暴走なのだと他人事のように理解し、私は意識を手放した。

   全身を襲う倦怠感と吐き気の中、目にした光景に私は息を呑んだ。
   岩を背にし、凭れ掛かる友の姿。
   血に染まった彼は、私に対する見せしめであるかのように物言わず座していた。
   その、すでに光を映すことのない瞳に、私に対する憎悪と蔑みを見た気がした。

   私は、友を死に至らしめた己の未熟さを悔いた。
   私は自分の能力を過信していた。
   秘石眼の力を使いこなす二人の兄と、双子の兄弟。
   彼らと同じに力を行使する事ができると、私は思い込んでいた。
   ……その結果が、コレだった。

   敵を殲滅する事には成功したものの、傷付けるつもりのなかった者まで手にかけていた。
   どれほど謝っても、どれほど涙しても、償いきれはしない。
   私は愚かで力無い自分自身への戒めとして、秘石眼である右目を抉った。
   ……二度と、大切な人を傷付けることが無いように。


そして、この日から、私は泣く事も笑う事もやめたのだ。


 『大切なものは、無くした後でその本当の価値を知る』
 先人の遺した言葉は偉大である。まさに、その通り。
 彼の存在は、私が自覚していた以上に大きなものだった。
 心にぽっかりと穴が開いたような喪失感。もう、いないという事が信じられなかった。


 それから年月は流れ、全てが露呈する。
 私の過ちは真実を覆い隠すための虚言であり、信じていた優しかった兄が罪人であった。
 二人の兄は私のために冷徹を装い、私の間違った矛先の憎悪をあえて受け止めてくれていた。
 そして、私の仕出かした愚かしい過ちは、ただ私の兄弟達にいらぬ迷惑をかけたに過ぎず。
 極めつけは死んだと思っていた親友は普通の人間ではなく、本当の意味で死んではいなかった。
 ……劇的過ぎて喜んだり怒りを露にする以前に、呆然としてしまった。

 思い出すと苦笑を禁じえない。
 私達のしてきた事のなんと愚かしい事か。
 兄弟で争い、たかが石に踊らされていた。
 『青の一族』『赤の一族』という言葉で括れるほど、人の繋がりとは簡単なものではない。
 現に、私と私の友は正反対の立場でありながら、親友となり得たのだ。


 そんな事をぼんやりと考えていると、背後に人の気配を感じた。
「こんな日差しの強い所で昼寝なんかしてると、あなた様の白い肌が日に焼けてしまいますよv」
 そろそろ来る頃だと思っていたが、なんとも律儀に私の予想を裏切らない男だ。
「……確かに、日焼け後の肌の手入れは面倒だ」
 ビルの屋上にわざわざ運んだリクライニングチェアから身を起こし、短い休憩を終える。
「それじゃ、あなた様の美貌のために、強力かつ肌にやさしい日焼け止めを開発しましょう!」
 冗談なのか本気なのか悩む所だが、男は朗らかに笑いながら言う。
 私の使っていたイスを担ぎ、扉へと向かう。

「それにしても、なーんでワザワザこんな所で休憩なんかするのさ? 眩しくないか?」
 ってゆーか重いんだけど、と荷物持ちに徹する男は呟く。
「……ここが好きなんだよ」
 私は背を向けている男に、静かに告げる。
「ふ~ん」
 男はあまり感心無さげに相づちを打つと、ゆったりと先を歩む。
 その背をしばし見つめた後、私は上空を振り仰ぎ目を細めた。
 ……眩しいほどの陽光に、私は小さく微笑む。


 泣きそうなほどに暖かく
 包み込むように優しい
 この太陽の日差しに焦がされるのならば、それも悪くない。


 ――過去、私は 私の太陽を失いました

    過去、私は 私自身を殺しました

       今、私は また巡り会えた太陽の下で 笑えています

Tomokoのコメント
ささかずさんから、また小説が送られてきました!
『ピジョン・ブラッド』、『Sky Blue』に続く、カラーシリーズ第三弾です!
ジャンサビなのが嬉しい~。犬なジャンがかわいいです。
サービスも、暗い過去を背負って、大変でしたね。でも、ハッピーエンドで良かったです。
C5の彼らを見ていると、一抹の不安を覚えざるをえませんが……。
ささかずさん、素敵な小説をありがとう!

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