特戦部隊解散秘話 後編

「ええ、それでは、朝礼を始める」
 赤いブレザーを着たシンタローが、声を張り上げる。おうおう。いっぱしに総帥服なんか身につけちゃって☆
「はい! その前に、発表したいことがあります」
 俺が勢いよく手を上げた。
「後にしろ!」
 と、シンタロー。
「そうはいきません。人ひとりの命がかかっているんすよ」
「何? それは誰のことだ」
 キンタロー様が気色ばむ。あれ? もしかして薄々気付いてた?
「後にしろと言ってるだろう」
 シンタローは重ねて言う。
「ハーレム隊長の命が危ないとしても?」
「それは本当か……?」
 キンタロー様の眉間に皺が寄る。
「――何をつかんだ」
「さあてね」
 シンタローの質問に、俺はとぼけておいた。
「――わかった。よし、喋れ。ただし五分以内だぞ」
 シンタローの許可が下りた。
「えーっとですね……今までガンマ団特戦部隊が殺してきた人数は……クレテリオ十万人、ナボルコス五万人……」
 それは陰惨な記録だった。
「シンタロー総帥が考えた、ガンマ団特戦部隊解散及びガンマ団特戦部隊の隊長ハーレム・ブルーシークレットストーンの処刑は極めて妥当な判断かと思われます」
「そうだそうだー」
「俺達は生まれ変わったんだー」
「人殺しをぶっ潰せー」
 あちこちから野次が飛ぶ。
 特別席のハーレムは渋い顔をしていた。
「おい、どういうつもりだ」
 シンタローが怖い顔で睨んでいた。
「おまえだって特戦の一員だろう。これじゃ、ハーレムを殺せ、と言ってるのと同じだぞ。それに、そのことは直接俺の口から伝えるつもりだったん――」
「待ってください。続きがあるんすよ」
 そこで、俺はようやく肝心の手紙を取り出した。俺は朗々と読みあげた。
「『ハーレムへ
 特戦部隊創立おめでとう。
 ガンマ団の為にそこまで尽くしてくれる気があるのが、私にはとても嬉しい。
 けれど――そう、おまえにはやり過ぎるところがあるからね。私も人のことは言えないが。
 私がこのガンマ団を引き継いだのは、世界から戦争を失くす為。平和を取り戻す為だ。
 おまえには、ダークサイドの仕事をやってもらうことになるだろう。
 けれど、それを踏まえて、おまえは頷いたね。
 亡き父には申し訳ないが、おまえにはしばらく汚れ仕事をやってもらう。
 おまえの手は血にまみれるだろう。
 しかし、その血については、この私、マジック・ブルーシークレットストーンが全ての責任を負う。
 一刻も早く平和な世界が来るように マジック』」
 その手紙をしまった後、しばらくは水を打ったようにしーんとなった。
 が、やがて――
「うおおおおおおおおっ!」
 と、騒擾が湧きおこった。
「どうです? みなさん。世界平和を願う気持ちは、シンタロー総帥も、マジック元総帥も同じではありませんか。もちろん、我が部隊のハーレムもです!」
 騒ぎは一層大きくなった。
「万歳! 万歳!」
「ガンマ団! 万歳!」
「ハーレム隊長! 万歳!」
「マジック様! 万歳!」
「そんな……そんな……」
 シンタローがよろめく。
「シンタロー坊っちゃん」
 俺は普段使わない言葉をあてつけにわざと言ってやった。
「どうせハーレム隊長がジャマだから始末しようと思ったんでしょうけど、ところがどっこい、隊長には、こんなに味方がいるんですよ」
「くっ……」
 シンタローの拳が震えた。
「そうどすぇ」
 アラシヤマの凛とした声が響いた。
「シンタローはんにはわてらがついていますぇ。ハーレムはんがあんさんに何かしようとしたら、このわて、アラシヤマと」
「オラ、ミヤギと」
「僕、トットリと」
「わし、武者のコージが容赦せんからの」
「おまえらが戦力になるかどうかはともかく」
 余計な一言を付け足しながら、シンタローは続けた。
「ハーレムの処刑はなしにする。……だが、ガンマ団特戦部隊は解散だ!」
 一斉にブーイングが起こった。
「仕様もない奴らだ」
 マーカーは切って捨てた。
「あ、G。マーカーちゃん。お疲れ様」
 大騒ぎの朝礼は終わった。俺はへらっ、と笑っていたことだろう。
「全く。協力してくれっていうから何事かと思ったら……私だったら、もっと効率のよい方法を十は考えることができる」
 マーカーは面白くなさそうに言った。
「何はともあれ、めでたしめでたしじゃないか。私も役に立てて嬉しかったぞ」
 Gが久しぶりに笑顔を見せる。
 実は、この死者のデータを集めてきてくれたのは、マーカーちゃんとGだったわけ。
 ほんとは一人前になったとこ見せたくて、一人でがんばってたけど……こいつら鋭いんだよね。
「おまえ、何かひとりでこそこそやってるな。私も混ぜろ」
 これはマーカーちゃんの言。
 Gも来てたんで、俺一人だけでがんばっても仕様がないと思ったから、応援要請したわけ。
 それからの二人の仕事は早かったねぇ――ハーレム隊長に見せたいぐらいだったよ。
「おまえら……」
 隊長が立ち上がって、俺らの方に来た。
「よくやった! 俺が酒に溺れている間に……こんなに……」
 隊長の目から綺麗な涙の粒がつぅ、とこぼれ落ちた。
「いやいや、なになに。みんなのおかげっすよ。隊長が俺達の為に命張ってくれるんだと思うとね」
 俺は照れくさくなってバンダナの上から頭を掻いた。
「全く……そういう話はもっと早くにするもんだぞ」
「ごめんね。マーカーちゃん」
 俺はマーカーに向かってごめんなさいと手を組み合わせた。マーカーちゃんとGを巻き込みたくはなかったのだ。
「シンタロー」
 隊長が言った。
「俺達は新たな地で再出発する。それならいいだろ」
「勝手にしろ!」
 それからシンタローは独り言のように付け足した。
「あのガンマ団のヘリポートにある飛行船は邪魔っけだなぁ……グンマにでも解体してもらうか」
「え? ってことは……」
「えーい! 鈍い奴らだな! あの空飛ぶ鉄くずと一緒にどっかに行っちまえ!」
「了解!」
 そして、俺は敬礼をした。シンタローに対して。
 しばらく会うことはないだろう。もしかしたら、もう二度と。
 隊長と別れの挨拶を交わすキンタローは浮かない顔をしていたけど、これも仕様がない。
 俺ら特戦部隊。ただの特戦部隊。今まで頭についていた『ガンマ団』の名は消えていた。

後書き
本当は特戦部隊解散しないのだから、看板に偽りありですね(汗)。
特戦部隊の隊員達にとっては、特戦部隊は解散していないのでしょう。
捏造設定すみません。原作とはほとんど関係ありません。
シンタローは悪役でしたが、次の話では主人公のつもりです。
2011.6.28


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