Sky Blue

―――見上げた空は 私の瞳と同じ色で



       でも、作り物のように冷たい この瞳と違って

      

                         とても あたたかかった―――







冬を間近に感じ始めた肌寒い日。私はビルの屋上に出ていた。

地上から見るよりも高い分だけ、空が近く感じられる。

 

昼にはまだ少し早い時間。

この時期この時間の空が、私は好きだ。

       空気が澄んで、空の青がはっきり見える。

       ……まぁ、私がそう感じているだけかもしれないが。



       今、空は美しいスカイブルーの色を湛えている。

       やがて、この青は赤みを帯び、目に眩しい黄金色へと変わると、徐々に藍から紺へと変化してゆく。

       そして、またこの色へと戻ってくる。

       なんとも、表情豊かじゃないか。

生命を持つわけでも意識があるわけでもないのに、私の瞳よりも雄弁に語る。

……この、破壊を生み出す事しかできない瞳よりも。



『秘石眼』

実に相応しい名だ。

        その名の通り、私の瞳は石のように無表情で、冷たい。

        誰だったか、そう言っていたのを覚えている。

        ……自分でもそう思うがね。



        幼い頃だったか。

        あまりにも作り物じみた自分の瞳を疑って、触れてみた事がある。

        ヒリつく痛みがして、涙がにじんだ。

        私の瞳は、石ではなかった。

        ……当然のことだったが。

 

        でも、今思えば、あの時が最初で最後だったかもしれない。

        痛みから生じたものか、もしかしたら涙のせいで見間違えたのか……。

        けど、私の瞳が感情らしいものを浮かべたのは、あれが―――





         「何やってんだよ、親父ッ!! 」

          叫び声と同時に扉が開き、人が屋上に出てきた。

          誰なのかすぐに分かる呼び掛け。

         「どうした? シンタロー」

          振り返りながら問い返した。





           息子と向かい合えば、いつものように不機嫌そうな顔を私に向けている。

           黒髪に、これまた黒い瞳。

           私とは似ていない息子。

           別に悲しいと思ったことなど無い。むしろ、その逆で……。

 

           私は世界を平定するため、武力を使った。

           自分自身、このやり方が正しいとは思っちゃいない。

           だが、やり方を変えるつもりも無い。

           変わるのは、息子の代からでいい。

           私とは似ていない息子。

           きっと、私とは違う道を切り開いてくれる。



           空は、夜が明ける前に最も暗さを増すという。

           ならば。

          一族で唯一の『闇』の前には、夜明けが広がっているのだろう。





          「あのな~。どーしたもこーしたも、総帥が会議すっぽかしてどうするんだよ?」

           呆れ顔で私を見る息子に、つい顔がほころぶ。

           親とは、こんなものだ。

          「おじさんたちが呼んでるぜ」

           そう言って、踵を返す。

           息子の長くなった髪と、広い背中に目を奪われた。

           ……子供の成長とは、早いものだな。

 

           いつの間にか、私に追いつきそうな息子の後姿を見ながら……私は願う。







―――今だけは 私の瞳に

あたたかさがあるように、と―――


Tomokoのコメント
ささかずさんの小説第二弾!
すごいなー。ささかずさんイラスト上手いのに、どうして小説も上手なんだろう。

空は夜が明ける前に、もっとも暗くなるっていうのは、私も考えたことがあります。
よく聞く話なんですが、本当にそうなのかは、私にはよくわかりません
(夜更かしはよくしてるけど、外なんて見ないから)。
そして、このマジック、私にとっては理想のマジックです。
(これと似たようなこと、『ピジョンブラッド』のコメントでも言ってなかったっけ?)
続きも期待して待ってますよ。

追記
みかづきさん経由で、ささかずさんから、挿し絵をもらいました。これが、その絵です。
みかづきさん、ささかずさん、どうもありがとうございます。

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