Tomokoの迷作劇場 シンデレラ……とは似て非なる話 昔々、ハーレムと言う娘(?)がおりました。毎日毎日継母達に扱き使われて、ぼろぼろの服を着せられ――あれ? 「綺麗だね、ハーレム」 「うーん、まさか、これほど似合うとはな。私の見立てが良かったんだな」 「まぁ、馬子にも衣装と言うからな」 「冗談抜かすなッ!! なんで俺がこんなもの着なければならないんだっ!!」 ポンパドゥール夫人も真っ青の豪華なドレスを着せられておかんむりの、はねた金髪の美少年がハーレム。 「だって、今日はお城で舞踏会があるんだから、着飾らないといけないんだよ」 「そうそう」 「じゃあ、なんでサービスはちゃんと男の格好してるんだ!」 ハーレムはびっとサービスを指差す。 「そりゃあ、僕はそのままで美しいから」 「理由になってねぇっ!! だいたいなんで俺が女装しなきゃならんのだ! 責任者出てこーい!!」 「はーい。呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」 などとふっるいフレーズと共に現れたのは、この話の製作者、Tomoko。 「おまえが責任者か」 「そうでーす♪」 「なんで俺は女装しなきゃならないんだ?」 「それはー、ただ単に私が見たかったからっ。ハーレム女装似合うだろうなーと思って」 「ふざけんなっ!!」 ハーレムが繰り出したパンチをTomokoはひらりと避け煙と共に消えてしまった。 「ほほほほほ、バッハハ~イン」 「んなろうっ」 だが、あの逃げ足の速さはちょっと研究に値するな――と、ハーレムは思った。 ハーレムは武道大好き少年なのである。 「ぐぁーっ!! ドレスがきついーっ!! 思いっきり暴れてぇ~っ!!」 「まぁまぁ、ハーレム、舞踏会には山海の珍味がたくさん出てくるよ」 ルーザーがなだめにかかる。 「山海の珍味……」 ハーレムがごっくんと生唾を飲む。それに呼応するように、お腹がぐ~っ。 「さ、早く行こうじゃないか」 「そうだなー……いやいや、こんな格好で行けるか!」 「兄さん、舞踏会でおまえと踊るのを楽しみにしてたんだけどなぁ」 「ぜーったい行かねぇーっ!!」 「ルーザー、今時の若者はダンスパーティーと言うんだよ」 マジックがズレた発言をする。 「年寄りは黙っててくださいよ。さ、ハーレム、行こうね」 ルーザーはニッコリエンジェルスマイル。こういうときの次兄に逆らうと怖いことになることを、ハーレムは知っています。もう、もんのすごく怖いのです。恐ろしいことが待っているのです。 「…………はい」 ――三十分後。ハーレムは舞踏会会場にいた。だいぶむくれていたが。 (もう、こうなったら、会場にある料理全部食い尽くしてやる!) 情熱の向けどころが違うぞ、ハーレム。 「ハーレム、僕と踊らない?」 「絶対踊らねぇっ!!」 「ルーザー様、一緒に踊ってくださいませんか」 「あ、じゃあ、また後でね」 女性と一緒に人ごみに紛れていくルーザー。 「……フン」 そして、前に倍した勢いで食べ始めるハーレム。 「なぁ。あれって」 「ほっとけ。あいつは僕とは関係ない」 「止めた方がいいんじゃないか? あの調子だと、あいつ会場内の料理全部食い尽しちまうぜ」 「おまえも食べてくればいいじゃないか」 「いや……あのままだとあいつ食べ過ぎんじゃないかな」 さっきからひそひそと話しているサービスと黒髪の青年。 「んー、なんだよ。おまえら。さっきからなぁにコソコソ喋ってんだよ」 「別に」 「わぁ、すげぇドレス。似合っているんだかそうでないんだかわからねぇな」 ひたすら目を丸くしている田舎者然とした青年に、 「んだとぉ?! なんだてめぇは!」 とつっかかるハーレム。 「あ、俺? 俺はジャン。サービスの恋人――」 途端にサービスとハーレムから鉄拳が飛ぶ。 「――もとい、親友です」 「よし」 何が良しなんですか、サービス様。 「おまえ、なにこんなところふらふらしてんだよ」 ジャンを無視してハーレムはサービスに話しかける。 「おまえは少し、人にどう見られているか、気に留めるべきだ。気付かんのか。さっきからおまえを見る人の目を」 サービスの声に、ハーレムは周りを見回してみる。彼を囲むジト目の群れ。 「他人のことなんてどうだっていい! なぁ、それより……」 ハーレムはコホンと咳払いした。 「あー、ちょっとここらへんで腹ごなししたいなぁー。誰か踊ってくれるヤツはいないかなぁー」 ルーザーには絶対踊らない、と言ったのに、調子のいいハーレムである。 「なら俺が!」 「俺が俺が!」 「いや、それがしが!」 「やかましいっ!」 殺到する物好きな男達を、ハーレムは一蹴する。 「じゃあ、こいつと踊ってくるといい。」 「え? なんで俺?」 「なんで俺がこいつと踊ってこなきゃなんねぇんだよっ!!」 ジャンとハーレムが同時に叫ぶ。 「あのなぁ、こういうときは、『じゃあ一緒に踊ろうか』つって手を差し出すのが常識というもんだろぉっ!!」 「おまえの常識押しつけられてもな……」 だが、まぁ、とにかく、ハーレムはサービス狙いだということはわかった。 「おい、サービスは俺と踊る予定――」 「うるせぇっ!」 異議を申し立てようとしたジャンに、ハーレムは肘鉄を食らわす。 「まぁ、今回は譲ってやるか」 ダメージを受けたジャンだが、えらそうに呟く。 「ところでおまえ、ダンスなんかできるのか?」 サービスが言った。当然の疑問である。 「ふっ。取っ組み合いなら任せとけ!」 「それ、ダンスじゃないだろうが。ったく」 音楽が鳴ったので、サービスはハーレムの手を取った。 傍目には美形同士の優雅なダンスである。周りの人々も羨望の溜め息なぞついて、すっかりギャラリーと化している。 だが、実際は―― (あ、こいつまたステップ踏み間違えたな) (危ない危ない。足踏まれるところだった) (足元が気になって、ダンスどころじゃないな) 以上、サービスの心の声でした。 曲が終わり、二人は拍手で迎えられる。 「見たか。俺様のダンスの実力」 ハーレムはナイスファイトの後のようにいい汗をかいている。 「というか、半分以上は僕の実力だろう」 サービスはすっかり嫌気がさしていた。 (誰でもいい。こいつをのしつけて贈ってやりたい。ん?) 通りかかった、身なりも体格も良い、ちょっと老け顔の男性が目に入った。 「ああ。ちょっとそこのあなた。この兄の相手よろしくお願いします」 サービスは男にハーレムを押しつけると、あっという間に姿を消した。ついでにジャンも――。 「あ、あの……」 男の声は、サービスには届かなかった。 ハーレムは首を傾げて男を見上げている。男も困ったように相手を見つめた。 実はこの男、Gと言って、この国の王子だった。おっそろしくスローハンドだったので、今まで彼女もできないのだった。 見かねた父王が言った。 「いいか。G。おまえの花嫁候補を探す為に舞踏会を開く。誰でもいい。そこでいいと思った女性をダンスに誘うんじゃぞ。いいな」 「――誰でもいいんですか?」 「ああ。誰でもだ。この際、女性でなくとも――生物でも構わん」 父王がなりふり構わないのには訳があった。 この父王、家族以外にはあまり口をきかない息子をほとほと扱いかねていた。 (友達ができたら、無口は直るに違いない。人間関係の決め手はコミュニケーションだからな) 間もなく、Gに友達ができた。マーカーという名だ。 しかし、マーカーが遊びに来たとき、Gは一言も口をきかなかった。同席した父王がやきもきするくらいに。ついに、マーカーが帰るまでの二時間、二人は黙ったままだった。 後にGは一言、 「楽しかった」 と言った。 無口だが嘘をつくGではない。 これには父王も頭を抱えてしまった。 (友達がダメなら、彼女だ) なんでそういう方向に思考が展開するのか謎だが、とにかく父王も必死なのである。 結婚も、子孫を残すことも二の次である。子供ができなかったら養子でももらえばいいと思う。 もちろん、女性と真っ当に恋愛し、王子を残してくれたら、こんないいことはないのだけれど。 (あいつ相手には過ぎた望みというものじゃろうか) 「セバスチャン、あいつを見張っていてくれ」 「はい」 セバスチャンとは、Gのじいやの名前であった。 さて、本題に戻る。 Gは相変わらずハーレムを見つめている。 気の強そうな、だが、きりっとした美しい顔立ちに凛とした雰囲気。長い髪は高く結い上げてある。 この少年に、Gは一目で参ってしまった。頬にほんのり赤みが差す。 その様子をオペラグラスで見ていたセバスチャン。 (ああ、もしや王子様は一目惚れしたのではないだろうか) 相手はGとは正反対のタイプだ。今までの様子から見ていても、無口と言うことはあり得ない。 (良かった。これで王様も喜んでくださる。王子様の初恋に万歳) 一方、ハーレムも、何か話したそうにしているGを右から見たり、左から見たりしている。 「どっかで見たことあるんだよなぁ。おまえ」 そして、じろじろ眺めた後、思い出した、というように、ぱんと手を叩いた。 「あーっ! おまえあれだろ! K-1選手のグラウ選手! こんなへなちょこな舞踏会に出てんのかよ!」 へなちょこな舞踏会と聞いて、Gは微笑した。 「なぁ、アンタもダンスしに来たのか?」 「――ああ」 Gが重い口を開く。 「俺はハーレムってんだ。よろしくな」 ハーレムが自己紹介する。 Gの心臓はドキドキ高鳴っていた。ハーレム、という名を、心の中に刻み込む。 Gは今、生まれて初めて、心の底から喋りたい、何か言葉を口にしたい、と思った。人と本気でコミュニケーションを取りたい、と思った。しかし、皮肉なことにそうしようと思えば思うほど、舌が凍りついて動かなくなるのだ。それに、そもそもこういうとき何と言ったらいいのかすらわからない。自分の特質というものは、思わぬところで災いしてくるのだ。 がんばれ、G! ここで勇気を出せば、バラ色の未来が待ってるぞ! ――いや、血みどろ色の未来かもしれないが、赤ならば、バラ色に少しは近いだろう。 そして、拳を握り締めながら王子の動向を見守っている人間がここにも一人。 (王子様、じいはここで、見守っていますぞ。勇気をお出しください。――さぁ、あの子が貴方に興味を失わないうちに!) ――とその時。 「カワイイね。キミ」 突然、ハーレムは声をかけられた。癖っ毛の亜麻色の髪の、垂れ気味のラベンダー色の瞳を持つ、いかにも男も女も食ってますみたいな顔をした男だった。 「ねぇ、カワイコちゃん、オレと踊らない?」 「後でな」 面倒くさいと思ったハーレムは、にべもなく言った。 「そんなこと言わないでさぁ」 「うるせぇな。俺、今グラウとは話してるんだ」 「グラウ? へぇ、こいつが」 青年は無遠慮に見遣る。 「違うね。似てるけどグラウじゃない」 「えぇっ?! じゃあ誰なんだこいつは!」 「この人はこの国の王……いや、ただの王子の格好した男だよ。さぁ、行こうぜ、仔猫チャン」 ナンパ男はなおも強引に引っ張って行こうとする。 「おい。こら離せ」 「オレはロッド。優しくリードしてあげるよ。仔猫チャンはハーレム、だよね。さっきの話、ちょこっと聞いてたよ」 「それよりいい加減に――」 「――待て」 Gは、ハーレムを引っ張って行こうとするロッドの手の上に、手を置いた。 「――離してやれ」 Gはやっと口を開くことができた。 「なんすか? もしかしてこのお姫様に惚れてるんですか? 王子様」 「…………ああ」 (王様、ついに、ついに王子様が告白なさいましたぞ) あれが告白と言えればね。 セバスチャンは感激の涙をハンカチで拭いた。 「困ったね。オレも引き下がる気ないし。それじゃ、どっちがいいかお姫様に決めてもらいましょうか。さ、お姫様、当然このオレを選びますよね」 「…………」 「なんか話が変な方向に行ってるようだな。あのなぁ、俺は――」 「兄さんを選ぶんだよね」 「――え?」 振り向くと、ルーザーが立っていた。 「げっ! ルーザー!」 「今度は君と踊ろうと思って。さっきのサービスとのダンスは見事だったね」 「サービス! そうだ、あいつはどこへ消えたんだ!」 「サービスは、外へ行ったようだよ」 「よし、今から文句言いに行ってくる」 なんだか厄介なことになったようだけど、それもこれもみんなあいつのせいだ――そう勝手に決めて、ハーレムはいきり立つ。 「それより、ハーレム。ハーレムは将来僕と結婚するんだよね」 「知るか。おまえなんか木の股と結婚してろ」 「小さい頃、『おまえが大人になったら、兄さんと結婚するんだよ』と言ったら、嬉しそうに『うん』と答えたじゃないか」 「何年前の話だ」 「お兄さん。兄弟同士は結婚できないっすよ。同性同士の結婚が許されているところはあるけどね」 口を挟んだのはニヤニヤ笑いのロッド。 「ま、確かに世間では近親相姦はタブーとされているけれど」 「とにかく俺はごめんなんだ!」 ハーレムはまだ言い合っている二人(Gはあまり加わっていない)を残して屋外に出た。 「サービスー。サービスー」 ハーレムは口元に手をあてがい、メガホンのようにして呼ばわる。 深い緑の茂み、凝った彫刻が施された噴水。水の流れる音がする。 (あいつはいつだって神出鬼没だからな) いくら理解しようとしても、理解できなかったあいつ。でも、理解しようとはしたのだ。いや、したかったのだ。 (今、あいつに会ったら、俺はあいつに何と言うだろうか) と、一瞬ハーレムは思ってしまった。まぁ、いつもの如く喧嘩しかしないのだろうけど。 「お嬢様。お嬢様」 七十がらみの老人の声がした。自分のことではないだろう、と思っていたハーレムは、思わず立ち止まってキョロキョロ辺りを見回してしまった。 「あっ、お嬢様」 ハーレムの前に現れたのは、セバスチャンであった。 「なんだよ。お嬢様って、俺のことか?」 「はい」 「俺、男なんだけど」 「そうですか。私は年ですから、そういう格好をした人間は、みんな女性に見えるんですよ」 「オカマが聞いたら喜びそうなセリフだな。これは兄貴達に無理矢理着せられだけだ。俺はもっとスポーティーな格好が好みだ。――何か用か?」 「ええ」 そこに座りませんか、とセバスチャンは言った。お誂え向きに椅子があったからである。 「話と言うのは、王子様のことなんです」 「王子様?」 「ええ。先程貴方と話しておられた」 「話というほど大した会話はしてねぇよ。なるほど。あのグラウに似た男が王子ねぇ……」 「あまり自己主張をされないお方ですが、小さい頃から見てきた私にはわかります。王子様は貴方に恋していらっしゃる」 「そうか。でも、俺は――」 「……いきなりそんなことを言われても、困ってしまうだけでしょうね。貴方をいたずらに戸惑わせるのが目的ではありません。でも、心には止めておいてくださいな」 「あ、ああ――」 俺、人探してるからまたな、と言いつつ、ハーレムは駆けて行った。 (王子様。じいが余計なことをしているのはわかります。けれど、じいは本当に嬉しかったのですよ。あの少年に、何か一言お礼が言いたかったのです。あの少年なら大丈夫です。きっと、王子様を幸せに――) セバスチャンは走っていくハーレムの姿を見送った。 「くっそー。どこ行きやがった。サービスの奴」 もしかしたら見当違いのところを探しているのかもしれないな。そう思って向きを変えたときだった。 目の前に大きな光が現れた。 「な……なんだっ?! うわっ!!」 「やぁっと私の出番ですね」 とんがり帽子に、先の方に星のついた杖を持って宙に浮いている、垂れ目で黒髪の、魔法使いの格好をした人間がいた。口元にはほくろがある。 「ふふふ、Tomokoが嘆いてましたよ。『私の書く話は計画通りに進んだ試しがない』って。私の出番も危うくなくなるところでしたが、こうやって出てこれてよかったです」 「あ……あ……」 しばらく絶句していたハーレムだったが――。 「疲れてんだな、俺。やっぱり早く帰ろう。待ってりゃそのうちあいつも帰ることだろう」 「現実逃避しないでください」 「なんだよ。何者だよ。おまえ」 「私ですか? 私は魔法使いの高松です」 「ふぅん。その魔法使いが俺に何の用だよ」 「あなたの願いを叶えてあげましょう」 「俺の願い~?」 「ええ。あなたは意地の悪い継母にいじめられているでせんか?」 「いじめられてなんかいねぇよ。あっちが何かしかけてきたら、こっちだって戦うだけだけどな。幸か不幸かぬるま湯的環境でよ」 「では、舞踏会に行かせてもらえないとか」 「げんに来てるじゃねぇか。無理に連れてこられたんだよ」 「Tomokoが大胆な改作を行いましたからねぇ。もうシンデレラとは無関係の話ですよ。彼女も開き直っているようです」 「Tomoko。あのふざけた女か」 「女」 その台詞を聞いて、魔法使いの高松はにやりと笑みを浮かべた。 「そうですねぇ。このまま帰るのもなんですから、あなたをもっと綺麗にしてあげましょう」 「綺麗に?」 強さの方が欲しいなーなんて思っていると、きらきらした光がハーレムの周りを取り巻く。 「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」 ハーレムは女になっていた。 「おまけに、ドレスもサイズを合わせてあげましたよ。それでは」 魔法使いはもうどこにもいなくなっていた。 「ふざけやがって! あのイカサマ魔法使いの野郎! 今度見かけたら、必ずぶっ飛ばしてやる」 今はサービスを探すより先に、仕切り直しの方が先だった。 (こんな姿でサービスの前に出るわけにはいかねぇ。マジック兄貴に相談してみようか……。ルーザーはダメだな。うん、絶対ダメだ) ハーレムがマジックを探そうと、城に戻りかけると、サービスと出くわしてしまった。 「サービスッ?!」 「あれ?」 気が動転しているハーレムに、サービスは目を丸くした。 「僕の名前、知ってるの?」 「だってそりゃ……」 「君、僕の兄に似ているな」 サービスは終わりまで聞かずに、ずい、とハーレムに近づいた。 「そんなことねぇ……いや、ないです」 「そうか……そうだな。第一君は女性のようだし」 「そうそう」 ここでハーレムに、ちょっとしたいたずら心が湧き起こった。 「ねぇ……俺、じゃなかった。ワタシとアナタのお兄さんて、そんなに似ているの?」 ここぞとばかり、ハーレムはブリブリの甘えた声を出す。 「ああー……いや、そんなに似てないかも。第一、あいつは、ガサツで、野蛮で、大飯食らいの格闘バカだからな」 (……こんにゃろ。覚えてろよ) 「そうかなぁ。ワタシに似てるんだったら、きっとカッコイイんだろうなぁ」 「いや……やっぱり全然似てないよ」 「そう?」 (俺が俺に似ていなかったら、いったい誰に似ていると言うんだ? こいつは) そう疑問に思いながら、ハーレムがサービスを凝視したのは、決して故意ではない。 前にも言ったように、ハーレムはもともと美少年である。美少年が女になったのだから、美少女だ。ところで、あまり意識したことはなかったが、サービスも男なのであった。 「ああ! 全然似てないとも! 似てるなんて言ったら、きっと君の方が気を悪くするよ。あいつはトラブルメーカーだし」 (こいつ、言いたい放題言いやがって) 「でも、お兄さんのことそんな風に言ったら悪いんじゃないか?」 「いや、君もあいつに会えば絶対わかるよ」 (本人だっつーの!) 二人とも、それきり黙ってしまった。 聴こえてくるのは、噴水の水の音だけ。 「――帰らないの?」 沈黙を破ったのは、サービスだった。 「え? あ、いや――」 マジックに話を聞いてもらうんだっけ。そして、何とかしてもらう予定だったことを、ハーレムは思い出した。 「……僕は、帰りたくなくなったかもな」 サービスは手を差し出した。 「一緒に踊らないかい?」 そう言ってほほ笑む。 (なんだ。可愛く笑うじゃねぇか。こいつ。でも、さっきは嫌そうだったのに、どういう風の吹き回しだ?) 変なところでニブいハーレムだった。 (でも、まぁ、いっか) 「オーケイ」 ハーレムは弟の手を取った。 遠くから音楽が流れてくる。二人はそれに合わせて踊り始めた。 しかし――ハーレムはやはりダンスが下手だった。 「とうっ!」 一度など、変なかけ声つきで、相手の向う脛を思い切り蹴り上げてしまった。 「○△×☆~~~~!」 サービスはその場にうずくまる。 「だ、大丈夫か?」 さすがに、「ちょっと失敗したな」と思ったハーレムが声をかけた。 「だ、大丈夫……」 (しかし、この踊り方はどこかで……) 警戒を怠っていたのがいけなかったらしい。痛さで涙目のサービスが顔を上げると、目の前にはハーレムの胸の谷間があった。サービスは慌てて目を逸らす。 (まさか、な――) 容姿や踊り方が似てたからとて、あのハーレムが女に変わることはあり得ない。人間がそう簡単に性転換してたまるものか。牡蠣やきつねだいじゃあるまいし(きつねだいは雌から雄だが)。この半時間でモロッコに行ったわけでもないだろうし、そのくらいなら、ハーレムはどこぞの山寺で秘伝の格闘術でも修得しに旅立つだろう。 (気のせいだ、気のせい) サービスはぶんぶんと手を振った。 「どうした?」 「なんでもない、なんでも――」 「どうしたんだよ、いったい。元気ねーぞ。ん?」 ハーレムは相手の顔を覗き込んだ。 ![]() 「いや……名乗るのが遅れたね、僕はサービス」 何故、今更名前を言い合うなんて、間の抜けたことをしなければならないんだ? と思いつつ、ハーレムは頭を巡らした。 変な魔法使いに、女に変えられたなんて言ったら、サービスは馬鹿にするだろう。 それだけは絶対避けたい。 何か適当な名前は―― 「――シンデレラ。シンデレラって言うの」 「シンデレラ……いい名前だね」 サービスの頬は赤くなった。 「君のこと、もっとよく知りたい」 「充分知ってると思うけど?」 「いや――あの……ちょっと目をつぶってくれてもいいかな」 「なんで?」 「なんでって……」 サービスは、ハーレム、いや、シンデレラにキスしたかった。 (会ったばかりだけど――それ以上はしないから、いいよね) 「わかったよ。ほら」 シンデレラは瞼を閉じる。 サービスはゆっくり顔を近づける――はずだった。 「サービスー! 見ぃつけたー! あ、なんだ? 俺というものがありながら、他の人間といちゃいちゃして」 「ジャン!」 「いやぁ、いろいろ探検しているうちに迷っちゃってさ。おまえともはぐれちまったし」 ジャンが情けなさそうに頭を掻く。 「探したんだぞ、おまえら」 マジックが姿を現す。 「マジック兄貴! 助かった!」 「え? マジック兄貴って?」 サービスがシンデレラの台詞に呆然と聞き返す。 「ハーレム。どうしたんだ? その胸は。自前か?」 「一応自前だよ。アホなこと訊くなよ。マジック兄貴」 「シンデレラ……シンデレラがハーレム……」 サービスは、ここ十数分のことを記憶から抹消したかった。 (理想の女性だと思ってたのに……さよなら、僕の恋) ルーザー、ロッド、Gが次々にやってきた。 「ハーレム! どうしたんだ! その姿は!」 ルーザーが歓喜を伴った疑問を投げかける。 「変な魔法使いが、俺を女に変えて行きやがったんだよ」 「なんて素晴らしいんだ! これで、君は僕の子供を産めるようになったんだね!」 「しかし、きょうだい同士は血が濃過ぎるなぁ」 「何を言ってるんですか! 兄さん! きょうだい同士の結婚なんて、僕達の一族じゃよくあったことでしょう」 「俺は嫌だね。ルーザー兄貴と結婚するぐらいなら、ミジンコと結婚した方がマシだ」 「今は何と言われようと気にならないよ。どこからどこまで、僕好みじゃないか。今すぐ結婚式を挙げたいくらいだよ」 「ハーレムがルーザー様と結婚ですって?!」 高松が怒髪天をつく勢いで叫んだ。 「いつからいたんだ、おまえ」 ハーレムが呆れ顔で訊いた。 「たった今ですよ。魔法使いにはどんなことでも可能です」 「じゃあ、この魔法解いてくれよ」 「絶対駄目だよ! 高松君!」 「ああ、困りました。ハーレムが女のままだと、ルーザー様のお嫁さんになってしまうし、かと言って、ルーザー様の言うことをきかないわけには……」 高松は、ジレンマに陥り、勝手に苦悩している。 「じゃあ、これならどうだ」 ハーレムは、ルーザーの頭を自分の方に引き寄せた。 「元に戻さんと、今すぐルーザー兄貴にキスするぞ!」 「そ、そんな……私でさえ、ルーザー様の唇に触れたことはないのに……こうなったら、も……も……元に戻れーーーーっ!!」 ハーレムの体が光ったかと思うと、男性の体格に戻っていた。もちろん、服のサイズも。 「さぁ、ハーレム。続きをしよう」 「馬鹿野郎! さっきのは、高松を説得するための嘘に決まってるじゃねぇか!」 「ルーザー様……私は長らく貴方のことをお慕いしておりました……」 「長らくって、おまえらどういう関係だよ」 「僕と高松君は、一緒に魔法薬の研究をしてたんだよね」 「さいで。じゃあ、ルーザー兄貴も魔法使えんの?」 「いや。僕は使えないよ。恋の魔法以外はね」 そう言って、ルーザーはウィンクした。 「それにしちゃ、成功しねぇじゃねぇか」 「私はルーザー様の恋の魔法にかかりました。もうクラクラです」 「仕方ないね。高松君の面倒は、僕が見るしかなさそうだね」 「勝手にやってろ」 高松とルーザーに、ハーレムは悪態をついた。 「オレは君が男でも全然気にしないよん」 ロッドが割り込んできた。 「――俺もだ」 Gも、真顔で言った。尤も、この男性的な貌を持つこの男は、いつでも真剣に見える。 「王子様!」 ああ、また来た。セバスチャンだ。 「王子様、なんですか? この人達は」 「客人だ」 「王子様のご友人方ですか?」 「まさか。オレは王子様の恋敵」 「――どなた様ですか? 貴方は」 「ロッド」 「失礼ですが、ハーレム様から手を引いていただけないでしょうか」 「イヤだね」 「その代わり、美女1ダースと交換しますから」 「王子。ハーレムと仲良くな~」 変わり身の早いロッドであった。 「言われるまでもない」 Gが低い声で言った。 「――結婚しよう。ハーレム」 それを聞いたセバスチャンが、感激の涙を流した。 「ついに! ついに王子様がプロポーズを! 王様がいたらどんなにお喜びになるか……!」 「仕方ないね。僕も君達を祝福するよ」 サービスがパチパチと手を叩いた。 「俺も。これでサービスが俺のものになる」 「僕は高いぞ」 サービスは、ジャンに、片頬笑みをした。 「ちょっと待てよ! 俺の気持ちはどうなるんだ! 勝手に話を進めるんじゃない!」 「ほう。おまえの気持ちねぇ……そういえば、おまえは王子のことをどう思っているのかな」 マジックが長男の威厳を持って尋ねた。 「俺、王子のことよくわからねぇけど、悪い奴じゃなさそうだから……」 顔を上げると、ハーレムは、果たし状でも受け取ったときのように、きっぱり宣言した。 「結婚してやる」 はっとするほど美しい、青い両目が、Gを捉えた。 「おまえ、強いか?」 「ええ。それはもう。武術の類で王子様に敵う人は、この国にも何人いるか……」 セバスチャンが横合いから口を出した。 「戦い甲斐がありそうだな」 そして、ハーレムは、飛びっきりの笑顔で言った。 「一緒に強くなろうぜ」 城での結婚式は、それはもう、盛大なものであった。誰も彼も、二人の結婚を心の底から祝っていた。しかし、一番嬉しさを噛み締めていたのは、なんといっても、息子の結婚で安心した、この国の王様であったろう。 結婚式のあった晩、Gはハーレムの部屋に来た。 「子作りをしよう」 「は? だって、俺は男だぜ」 「男でも、がんばればできるかもしれん」 「んなわけあるか!」 『私が女にしてあげたら、できますよ』 どこからか高松の声が聴こえた。 「やなこった。俺はあくまで男の方がいい」 『それじゃ仕方ありませんね。男同士の行為は、最初は辛いと聞きます。慣れてくるまでがんばってください』 「お、おい、ちょっと待ってくれ……」 高松からの返事はない。 その夜、この世のものとは思えない悲鳴が、長い間、新妻の部屋から聴こえたと言う。 そんな行き違いがありながらも、Gとハーレムの二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。 後書き 異様に長くなってしまいました。はは……。 途中、サビハレもどきもあります。私の考える話は、ハーレム総受です。 リキッドを出せなかったのは、悔やんでも悔やみきれない! まぁ、このハーレムのハーレム状態で、リキッドが出てくると違和感が生じるでしょうが……。 私の中で考えるロッドは、もっと一途ですが、ここでは話を簡単にする為に、美女1ダースと交換する無責任男(?)と化してしまいました。 ずっと昔に書いた作品をベースにして、バレンタインデー記念として、この話を書き上げました。サービスをもっと活躍させてあげたかったです。 近親相姦ネタも入れました。原作の人工授精云々は、この話ではなかったことになってます。原作設定のルーザーの好みももちろんスルー(笑) ルーハレは本命ですが、今回は高松とくっつけちゃいました。ちなみにGハレは私のハレ受の原点とも言っていいでしょう。 Gが、原作と全然違いますがね。 スローハンドのわりには、子供作ろうと、大胆。プロポーズで、度胸つけたか? 2009.2.14 P.S. 挿絵つけました。これだけ見るとサビハレですね。 2009.2.15 |