島へ・・

「ロッド。あのストームと言う男な――あの男、この世界の人間ではないと思うぞ」
「ああ。本人もそう言ってた」
 ロッドはマーカーに頷きかける。
「あの人は天空の島から来たんだと」
「納得できるのか? そんな戯言を」
「――まぁな」
「どうして?」
「あんな綺麗な男がこの世界にいる訳ないじゃん」
 そう言ってロッドはハートマークを飛ばす。マーカーは少し引いていた。
「そうか――わかっているならいい。ただ、お前には悲恋が待っているかもしれんぞ。人間でない者に恋した男は不幸になる――と相場が決まっている」
「マーカーちゃん……俺にとっての不幸はストームに会えないことよん」
 ロッドがわざとおどけていた。
 本当はわかっている。自分は多分、叶わぬ恋をしていると。強力なライバルもいっぱいいることも。
 Gがエプロンで手を拭いていた。
「Gもそう思うだろ?」
「――うむ」
 ロッドの問いかけにGも同意した。
「天空の島か――ファンタジーの世界だな」
「だって、ストームの美しさって人間離れしてるもん」
「ちょっと黙っててくれないか? ロッド」
 マーカーは思案顔だ。Gは厨房へと戻って行った。
「マーカーちゃん、アンタもストームのこと好きだろ?」
「まぁ、嫌いではない。時々傍迷惑だがな」
「ああ、それね――でも、そんなところも嫌いではないよ」
「お前と似ているからかもな」
 マーカーが薄く笑った。切れ長の目のマーカーがそんな風に笑うと、なかなか凄みが出る。
「そうだなぁ、他人て感じがしねぇんだよな」
「他の者だったら傍観しているところだが――」
 マーカーが言った。
「あの男は止めた方がいい」
「なして」
「だから――理由はさっき言っただろ」
「じゃあ、俺も理由はさっき言った。ストームと別れることが――俺にとっての不幸さ」
 ロッドが夜の窓の外を見ながら呟く。
「――本気みたいだな」
「んー? 俺はいつだって本気だよん」
「そうは見えんがな」
「酷いじゃん。マーカーちゃん」
「俺に手を出そうとしたこと、今でもまだ覚えているぞ」
「わーかった。悪かったって。マーカーちゃん」
「俺はあくまでお前の友人として心配してるんだからな」
「俺、マーカーちゃんの友達なの?」
「悪友とか、腐れ縁とか言った方が正しいかな」
「俺みたいないい男に会ったのよん。マーカーちゃんは幸せなんじゃね?」
「言ってろ」
 マーカーも窓の外を見る。月が綺麗だ。
「ウィスキーあるけど飲む?」
「ああ。だが、紹興酒の方がいいな」
「マーカーは中国人だもんな」
 ロッドは二つのグラスにウィスキーを注ぐ。
「遅いな、Gのヤツ」
「まだ皿でも洗ってるんだろう。お前も見習え」
「Gは好きでやってんだもん。おお、そうだ! 手伝いとか言ってストームの部屋に夜這いに行ってんのかも」
「そう考えるのはお前だけだ」
「待ってな! ストーム! 俺がGの魔の手から救ってやるからな~!」
 ロッドがドドド……と駆け出した。マーカーは勝手に飲んでいるだろう。

「ストーム!」
 ドンドンドンとロッドがノックする。
「入れ。ドアは開いてる」
「あは、何だ」
 ロッドがストームの部屋に入る。相変わらずストーム独特の感性に従って家具などの置いてある部屋だ。
「何しに来た」
「夜這い」
「帰れ」
「わぁ、うそうそ!」
 ロッドが慌てる。
 ライオンの鬣のような豪奢な金髪。異様に澄んだ青い瞳――ロッドはストームに見惚れた。
「座れ」
 命令することに慣れた者の傲岸さでストームは言った。
「あ……うん」
 ロッドはつい従った。
「お前らに頼みがある」
 お前ら? お前じゃなくてお前ら?
「あのー、お前らと言うのは……」
「お前、マーカー、G。それからその他のヤツら」
「その他って……」
 まぁ、その他に入れられなくて良かったとロッドは思った。
「頼みって何? 俺らに出来ることなら何だってやるよ」
 その時、マーカーの嫌味ったらしい表情が頭に浮かんだ。そう言うマーカーもロッドは好きなのだが、マーカーにはロッドと恋を語るつもりはないらしい。
 ロッドにもストームがいるから――。
「舟を一隻作って欲しい」
「何だ。そんなこと――」
「ただの舟じゃない。これを見ろ」
 ――それは、飛行船のような物であった。
「ストーム……」
 ロッドは息を飲んだ。
「アンタ、こんな設計図も描けるんすね。これは……今の地球の科学力でも作れないことはないけど……」
「俺だって飛行船の設計図など描き慣れている訳ではない。――どうだ? 力を貸してくれるか?」
「やるっす」
 ロッドは即答した。
 愛しい存在からの依頼だ。もっと無理な注文だって、ロッドは引き受けただろう。――引き受けるだけならタダなのだが。
「そうか、良かった」
「んじゃ、マーカーちゃんのところに戻るっす。Gも呼んで」
「俺も行く――」
 その日、ロッドの部屋の灯りが消えることはなかった。ストーム、ロッド、マーカー、Gの四人は角付き合わせてああした方がいい、こうした方がいい、と議論を叩かわせていた。

 そして――。船も無事出来て、彼らは天空のパプワ島に来た。
「よぉ、おめぇら。帰って来たぜ」
 窓から覗いた景色にどこか懐かしさを秘めたような独り言を言ったストーム。その一言をロッドは聞き逃さなかった。

後書き
『南の島の歌』シリーズです。ストームが主人公……のつもりでしたが、ロッドに食われてますね。
ストームはハーレムの先祖ですので、ロッド(の先祖)がベタ惚れなのも仕方ないでしょう。私がロドハレ大好きなもので。マーカーもGも好きよ。
うちのパプワ小説はもはや原作から離れて行った部分もありますね(笑)。
2017.1.25

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