幸せをあなたに

 トントントン――ノックの音がする。
 どうぞー、とシンタローは気のない返事をする。
「よっ、シンタロー」
「ハーレム叔父さん!」
 シンタローは椅子から立ち上がった。
 シンタローはタイムマシンで過去に行き、若い頃のハーレムに会ったことがある。――初恋だった。それほど、過去のハーレムは美少年だった。
 今ではもうおじさんになってしまったけどそんなことは関係ない。
 キンタローと仲良くなって欲しいと望んだこともあったが、初恋の相手だと思った途端、渡したくなくなった。昔はサービスに心惹かれていたが、人のものだしなぁ……とつらつら考える。
「シンタロー、今年はプレゼントはねぇぞ。万馬券はリキッドにやっちまったからな」
 ちっ、リキッドめ。別に万馬券が欲しいわけではないが、ハーレム叔父さんから何かもらえるなんて役得じゃねぇの。
(後できっちりシメてやる)
 でも、それはそれとして――。
「叔父さん、オレ、何にもいらないよ」
「え、でも、子供の頃は――」
「子供の頃なんて忘れたよ。今は叔父さんがいれば、それでいい」
 そう言ってシンタローはハーレムに抱き着いた。
「おいおい…」
 ハーレムが困ったように笑った。彼もシンタローの背中に腕を回す。その時だった。
「きゃああ!」
 女の悲鳴が聞こえた。東北ミヤギの姉、イワテである。押しの強さで半ば強引にガンマ団に居着いてしまった。
「あ……イワテ……」
「駄目ですよシンタローさん! さっさとハーレムさんから離れてくださいな! オヤジ臭いのが移ったらどうします?」
 イワテがハーレムをシンタローから引き剥がした。
「何でぇ。別に臭くねぇっての」
「イワテ。ハーレム叔父さんはサービス叔父さんと同じ匂いがするんだ」
「どうしてわかりますの? あ、もしかしてシンタローさんはサービスさんとも道ならぬ恋を……ムキー!」
 イワテはハンカチを取り出してぎりぎりと噛んだ。ハーレムはそれを無視して、
「シンタロー。サービスは薔薇の香りがするが」
「ハーレム叔父さんからもします」
「うわー。ちょっと引いたわ……」
「イワテ、お前もか。俺もちょっと引いたぜ……」
「な……何だよ。オヤジ臭いよりいいじゃねぇか。――ところでイワテ。お前何しに来た」
「うふ。シンタローさんの誕生祝いのプレゼントを持ってきましたの」
「俺の?」
「だって、シンタローさんの誕生日って、今日でしょ?」
 今日は五月二十四日である。
「あ、そうだな。ありがと」
「包み、開けてみていいわよ」
 イワテの言う通りにラッピングを解いたら中から腕時計が出てきた。
「シンタローさん。この間腕時計壊れたって言ってたでしょ? だから」
「覚えていてくれてたのか――ありがとうイワテ」
「どういたしまして」
「おい、もう用は済んだろ? 帰れ」
「あら、ハーレム隊長。男の嫉妬はみっともないですわよ」
 イワテとハーレム。二人ともお互いに睨み合う。ひと騒動起きそうだと直感したシンタローは早々に執務室から退散した。触らぬ神に祟りなし。腕時計は腕につけてっと。
 シンタローが廊下を歩いているとリキッドに出くわした。
「よう、リキッド」
「あ、シンタローさん」
「誕生日おめでとう」
「シンタローさんこそ――俺のはとっくに過ぎましたし」
 リキッドは五月二十一日生まれ。シンタローとは誕生日が三日違いだ。そして、従兄弟のキンタローもシンタローと同じ二十四日生まれだ。
「お前……ハーレム叔父さんから万馬券もらったんだってな」
「ああ、はい、そうなんすよ」
 リキッドが面映ゆそうな笑顔を浮かべる。一瞬嫉妬の感情を覚えたがこいつもハーレムには面倒をかけさせられたのだと思ったらすぐ腹が癒えた。まぁいい。せっかくのめでたい日だ。こいつをシメるのはまた今度にしよう。
「お前も今日のパーティーには参加するだろ?」
「ええ。俺の誕生日にも島の皆がパーティーを開いてくれましたが」
 リキッドが嬉しそうに言う。
「シンタローさんの誕生日も祝いたいと皆残念がってましたよ」
「だったら、こっちに連れてくるといい。俺も島の連中の方が大事だが、親父が煩くてな……政治的にも重要なセレモニーだし」
 それに、ハーレムに誕生日を祝って欲しかったし。
 でも、それは言葉に出すことはできない。一体何だっていつの間に俺はハーレム叔父さんのことを好きになったんだろうか。ハーレム叔父さんならどこでパーティーやったって必ず来てくれるだろうが。タダ酒が飲めれば。
「おめーは永遠の二十歳だろ? まぁ、それがいいかどうかはわからんが」
「何?」
 リキッドが首を傾げる。不老不死の存在になったらどうなるか。親しい者の死を想像できないのは馬鹿だからか? 馬鹿なのか?
「――まぁ、ただの独り言だ。忘れろ」
 そう言ってリキッドの肩を軽く叩いた。
「シンタローさん。明日、島でも一日遅れのシンタローさん達の誕生会します。来てくださいね」
「わかった」
 それにしても、五月はパーティー三昧だな。俺達。確か、十二日にも従兄弟のグンマの誕生日パーティーをやった。リキッドがついてきた。
「あ、俺と――島の皆からもささやかなプレゼントがあるので明日を楽しみにしてください」
「おう。世話になるぜ。明日だな。期待しないで待ってる」
「もう、シンタローさんたら。そこは期待して待ってるというところでしょうが」
 不満そうに言い返すリキッドにシンタローは、ハハハ、と手を振りながら笑った。リキッドとの冗談半分のやり取りのおかげで気分はすっかり治った。――シンタローはリキッドと分かれてその場を後にした。
「シンタロー」
 次に廊下で偶然出会ったのはサービスだった。
「お誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。サービス叔父さん」
 サービスは美形だが、もう既に恋人がいる。ジャンという、シンタローと瓜二つの男だ。けれど、シンタローは外見も中身もジャンよりは上だと思っている。
(サービス叔父さんも何であんな男が好きかねぇ。悪趣味だよ。はっきり言って)
「シンタロー。これは私からだ。メレダイヤをあしらったハンカチだよ」
「ええっ! そんな高級な物でなくても良かったのに」
「私があげたいのだよ。受け取ってくれるね」
 サービスの微笑みが美しい。例え右半分の顔が髪に覆われていても――いや、だからこそ。
「あ……ありがとうございます。サービス叔父さん」
「いやいや」
 サービスが通り過ぎる時、ふわっと薔薇の香りが香った。
(やっぱサービス叔父さんもいい匂いだなぁ……)
 ジャンが羨ましくなってきたが、己にはハーレムがいる。
 今日はコタローも祝ってくれるだろうし、マジックも張り切って手製の料理を部下達と準備しているだろう。それに今日は従兄弟のキンタローの誕生日でもあるのだ。
 俺は――幸せだ。
 コタローも誕生会に参加してくれるなんて、ガンマ団から逃亡した昔には考えられないこと。コタローも今はもう自由の身だ。シンタローにはパプワ達もいる。パプワは親友だ。生物達は遠慮したいけれど。
 今はこんなに幸福に包まれている。ちょっと恵まれ過ぎて怖いくらいに。歌の文句じゃないけれど、分けてあげたい。この幸せを。
「シンタローは~ん」
 アラシヤマだ。何かやな予感がする……。
「誕生日おめでとうどす~。これ、わてが縫ったパンツ……」
「眼魔砲!」
 皆まで言わせず、シンタローはアラシヤマを消し炭にした。
「シンタロー、誕生日おめでとう!」
 ミヤギ、トットリ、コージがやってきた。こいつらなら、アラシヤマのような馬鹿な贈り物は持ってこないだろう。何もなくても祝福の言葉だけで充分嬉しい。
「ありがとよ。お前ら!」

後書き
シンハレちょっとあります。シンタローの言うハーレムの薔薇の香りは私のドリームです(笑)。サービスもいい匂いがしそう。
キンちゃんの出番がないのがちょっと心残りだなぁ。ごめんね、キンちゃん。
オリキャラのイワテさんも出させてもらいました。そして伊達衆。どんなの持ってきたんでしょうねぇ。
シンちゃん、キンちゃん、そして彼らの生みの親の柴田亜美先生、お誕生日おめでとうございます。
2015.5.24

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