その男、芹沢貴志

 ここはガンマ団本部の中にある特戦部隊専用の部屋。
 シュン、とドアが開いて、人が入ってきた。
 長い茶髪、緑の目。黒いチョーカーと袖なしのぴったりした黒い服を纏っている。童顔で、一見女の子のようだ。胸がないので、「あ、もしかして男かな?」と思わせる程度で。
 その人物を見た途端、ハーレムは顔面蒼白になった。
「ハーレム隊長~! やっと会えましたね!」
 声も高い。ハーレムの方に走って来ると、いきなり抱きつこうとする。
 ハーレムはそれをかわした。
「なっ……貴様! せっかくアラスカに飛ばしたと思ったのに!」
「そうです! ひどいですよォ。あんな僻地に飛ばすなんて」
「あははっ。隊長も隅に置けませんねぇ。こんなカワイコちゃんに言い寄られるなんて。オレ、ロッド。キミは名前なんて言うの?」
 ロッドが笑いながらナンパ口調で尋ねる。
「芹沢貴志」
 相手は露骨に素っ気なく言う。
「年は?」
「35」
「へぇー、15歳か」
「耳でもおかしくなったか? ロッド。セリザワは35って言ったんだぞ」
 ハーレムが話に入り込む。
「15でも35でも……って、ええっ?!」
「そう。おまえ達とそう変わらん」
「それにしては、変ですねぇ……私にも、ロッドと同じように、十代そこそこにしか見えませんが」
 マーカーが疑問を投げかける。
「ああ。それはな、こいつはN国で『いつまでも若くいられるにはどうしたらいいか』と言う研究の被験者にされてたんだ」
「そこを、ハーレム隊長に助けてもらったワケ」
「……助けるんじゃなかった」
「何で? 俺、強いよ。実験の副産物で特殊能力も身に着いたし」
「あ、それ、オレ見てみたい。こんな華奢なヤツがさ、どんな力持ってるか、知りたいじゃん」
 ロッドが挙手した。
「ロッドとやら。さっきからなんなんだ、アンタは」
 セリザワはロッドに対しては不機嫌そうだ。
「え? オレ達が何者かって? オレ達、ハーレム隊長の部下ね。ついでに言うと、こっちがマーカーちゃん。あっちにいるのがG」
「ふん。興味ないし」
「そんなこと言わないでさぁ……オレへの興味はかき立ててあげる。どぉ? 一緒に食事でも」
 ロッドがセリザワの腰に手を回す。
「天の雷!」
 ロッドの脳天に雷が落ちた。
「ほぉ……それがおまえの技か。――面白い」
 マーカーが満足そうに微笑む。Gはいつもと変わらない。
「すごいねー、キミ」
 ロッドはダメージを受けながらも、明るく振る舞うのを忘れない。
「オレは風が使えるんだよ」
 そう言って、ロッドは自分の周りに微風を起こす。
「私は炎が使えます」
 マーカーが炎の蝶を出す。
「そして、Gが大地の力を引き起こす。『地爆波』は迫力満点だよ。ここで見せることができないのが残念だけど」
 無口な同僚の代わりに、ロッドが説明する。
「ふぅん。なかなかやるじゃん。でもきっと、本気の俺には敵わないよ。隊長以外は」
「言うねぇ」
「おまえがどんなに強くても、俺はおまえを採用せんからな」
「どうしてですかハーレム隊長! 俺、こんなに隊長のこと想ってるのに」
「そう言うところが嫌なんだ!」
「隊長にも苦手があったってワケか」
「言い寄られるのが嫌だなんて、隊長も案外贅沢ですね」
 ロッドとマーカーが囁き合う。
「それに、同じような技を持つ男が隊員にいたからな」
 二人の話をよそに、ハーレムが続ける。
「あーっ! それ、聞いたことある! ここを辞めたんでしょ? そんなヤツ、どうせ大したモンじゃないよね?」
「たとえ戦力にならなくても、おまえよりはマシだ。家事も上手いしな」
「……俺が苦手としていることを……俺だって、掃除ぐらいなら……」
「料理はてんで駄目だろうが」
「う~」
 セリザワは悔しそうに唸っている。
「――その隊員って、もしかしてリキッドって言うんじゃない?」
「よく知ってるな」
「特戦から逃げ出したって聞いたもん。ヘタレだよ」
「――リキッドの悪口は言うな」
「わかったよ。ハーレム隊長。ちぇっちぇっちぇーだ」
「おまえも35なら、年相応にしろ。取り敢えず、おまえはアラスカに送り返す」
「ハーレム隊長には、そんなことできないんでーす。だって俺……」
 セリザワは、少し間を置いてから、バーンと一枚の紙を広げた。
「マジック総帥から、直々に辞令をもらったんですから! 今日から俺も特戦でーす!」
「な……嫌がらせか? 兄貴のヤツ……」
「さあ、一緒に世界征服しましょう!」
「さんせーい!」
 ロッドが嬉しそうに両手を上げる。
「まぁ、退屈はしなさそうだしな」
 マーカーが片頬笑みをする。
「…………ん」
 Gにも異存はないようだ。
「ああ……誰か助けてくれ……」
 悩んでいるのは、ハーレムただ一人のようで。

後書き
小説にセリザワ初登場です。
口調がその時々によって変わるのは、作者がいい加減だから……と言うのもありますが、セリザワのキャラクターには合っていると思って。
結構設定とかはあったんですけどねぇ。前々から。
暗い過去と一途な性格。どこか突き抜けているところがあると思います。
ところで、ガンマ団にはアラスカ支部もあるんでしょうかね。
2009.8.26

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