ロッドとの出会い

 漁師達に助けられたストームは、ロッドというお金持ちが住む家にひきとられた。
 ストームは勢いよくばくばくと昼食を胃袋の中に納めている。それを癖っ毛の金髪のロッドが笑顔で見守っている。
「あの男をいつまで置く気だ」
 マーカーが多少不愉快そうに眉を顰めた。しかし、彼はもともとあまり表情が変わらない。黒い髪に吊り上がった黒い目の男だ。
「いいでねぇの。俺、この人気に入っちゃった☆」
 ルーザーが見ていたら注意するだろうテーブルマナーでストームは昼食を終えた。
「美味しかったか? ストーム」
「ああ。ここの料理はいつでも旨いな」
「それは良かった」
 賄い係のGが言った。
 ここはとても居心地がいいところだ。だが――と、ストームは考える。
 いずれライもここに連れて行きたい。それには、パプワ島へと戻らなければと考えた。
 ジャンが憎い。
 ジャンはライが好きだ。なんだかんだと口説いて言いくるめてしまうのではあるまいか。ストームはそれが気がかりだった。
 ロッド、マーカー、G――。
 この世界で得た仲間達。
 とりわけロッドはストームと気が合った。
「どこがいいんだ? あんな男」
 マーカーが話していたことがある。すると、ロッドは答えた。
「みんなあいつの態度しか見てないからわかんねんだよ。確かにあいつは態度そのものは粗野に見えるけど、ほんとは多分いいとこの坊ちゃんだぜ」
「坊ちゃんね――」
 マーカーがふん、と笑った。
 ストームもボンボンと言われるのは嫌だった。本当は海賊とかになりたかった。
「それに――えれえ美人じゃん」
 ストームは物陰でびくっとした。ロッドにまでそんな目で見られているとは――。
 経験がなかったとは言わない。ストームは兄のルーザーとも寝た。ライにも口説かれたことがあった。だけど、俺は――。
 俺は、男らしい男になりたかった。
 酒に強く、女を侍らせ、力では誰にも敵わない、そんな男に。
 だが――恋をしたのは男相手であった。
 リキッド。確かそう言ったような気がする。夢の中の人物なのに、名前まで覚えている。
 黒と金を染め分けた髪。太陽のような笑顔。己を魅了せずにはおかない。
 何で、あんなに恋焦がれているのだろう。俺はひまわりだ――と、ストームは思った。
 ――ストームは物陰から離れた。その後、ロッドとマーカーがどんな話をしていたかは知らない。きっと、知っても仕様のないことだ。勝手なことを言い合っているのだろう。
 ロッドは自分に好意を寄せている。自分もロッドは嫌いじゃない。おおらかにスケベなところも、ちょっとぞろっぺえなところも。多分似た者同士なのであろう。
 マーカーは冷ややかな目で眺めている。だが、それを隠そうとしないところが気に入った。自分はちょっと変なのかもしれないな、とストームは考える。
 そしてG――。
 彼が何を考えているのか、ストームは知らない。だが、熱い目でこちらを見ているような時がある。そして、ストームはGも嫌いではなかった。
(野郎にばかりモテるな。俺――)
 同性愛に偏見を持っているわけではない。夢の中の恋人だって男だ。欲情されるのにも慣れっこだ。自分でさえそうなんだから、美しい双子の弟ライなんかはもっとそうであろう。
「ロッド。話がある」
「何すか?」
 ロッドは人を惹きつけずにはおかない笑顔を見せる。男にも女にも好かれるヤツだ。
「俺の出身――聞かないんだな」
 ここに来て半月になる。
「――教えてくれるんすか?」
「…………」
 話そうと心に決めたのに、舌が張り付いてしまった。
「俺はね、ストーム。アンタのことは天使みたいだと思ってたよ」
 悪魔の方が近いんじゃないか、とストームは密かに思う。
「俺はこの国の――いや、この星の人間ですらないかもしれない」
 この地球の人間では、多分ない。地球儀を見た時は驚きで目を瞠ったほどだ。
「わかってますよ。アンタ特別だもん」
 ロッドがいつもつけているバンダナを外す。髪をぐしゃぐしゃと掻き乱す。
「アンタがいつここを出ていくかとかさ――そういうの、考えるの、怖いよ」
「俺はいつかここを出て行く。でも、その時はおまえも一緒だ」
「嬉しいねぇ」
 ロッドはストームの頬にリップ音を立ててキスをした。
「ストーム。俺の天使、俺の悪魔」
 ロッドはストームを抱き締める。
「いつかベッドでお相手してくれない?」
「嫌だ。そんな経験がないとは言わんが、俺は抱く方がいい」
「じゃあ、俺のこと、抱いてくれる?」
「抱かん」
「好きな相手が――いるんすね」
「ああ」
「そうだと思いましたよ。アンタには心の中に誰かが住んでいるようで――なかなか手が出せなかったんすよ。マーカーにも冷やかされたよ。会えば一日で相手を陥落させるおまえが――と」
「だと思う。おまえはいい男だ。ロッド」
「嬉しいねぇ。ベッドでお相手してくれたらもっと嬉しいんだけど」
「却下だ」
「やっぱりね――」
 ロッドの青い瞳がストームを映す。
「何でこんなに綺麗かね、アンタ」
「俺はちっとも綺麗ではない。ライの方が綺麗だ」
「ああ。アンタが美人と言っていた」
 ストームは黙ってこくんと頷いた。
「でも、やっぱりアンタは綺麗すよ。何度も言うようだけど、俺にとっては天使みたいな男ですから」
「俺は口は悪いぞ。そして、多分性格も悪い」
「ひねくれ者の天使がいたっておかしくないでしょう。悪魔は、元は天使だったんですよ」
「――くだらん戯言だ。おまえはマーカーが好きなんじゃなかったのか?」
「マーカーちゃんは友達。いっぺん口説いたら死ぬような目に合わされたっす」
「おまえが何か変なことでもしたんじゃないのか?」
「否定はできないね。だから――アンタ口説く時でも慎重になりましたよ。それに、マーカーちゃんも本当はアンタが好きっすよ」
「そうかね――」
 ストームは苦笑いをした。
 マーカーが好きなのは、ロッド、おまえだよ。そう言ってやりたかった。
 尤も、ロッドはそれを知った上でストームに近付いたのだろうか。だとしたら、なかなかのワルだ。
 ――ストームも同類かもしれないが。
 だからこそ、ストームにはロッドがわかる。好意を持っていてくれるのも本当だろう。欲情しているのも。本気とウソ気が混ざり合っている。
 この男と寝てはいけない。そう警告するものが頭の中にある。
「俺は――天空の島から来た」
「空から?」
「ああ」
「ますます天使だね。悪魔かもしれないけど」
「俺はそこから堕ちてきたんだ」
「俺に会うために?」
「違う。おまえのことなんぞ、ここで会うまで存在すら知らなかった」
「まぁ、そうだろうけどさ――夢ぐらい見させてよ」
「夢――か」
 また、リキッドのことを思い出した。リキッドのことは、時が来るまで話すことはないと思っている。夢の中の理想の男。優しそうで、そのくせ芯の強い男。夢の中に時々出てくる。名前を知ったのは最近だ。
 いつか、会うのを楽しみにしている。ストームはリキッドに会えることを疑ったことはなかった。

後書き
久々のパプワ小説更新~。
まだシンハレを考えてなかった頃書きましたから、ストームの恋の相手はリキッドです。リキッド嫌いな方ごめん。
まぁ、謝って終わるのも何なんで最後に一言。ロッド好きだーーーーー!!!!(本当はハーレム好きだー!と叫びたかったけど、ストームとハーレムは別人だから)
2015.7.29

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