リカード

 私の名前はリカード・コンチネンタル。ミツヤに代わる新しいマジック様の護衛として選ばれた。
 マジック様。ガンマ団の次期総帥(注:ここでのマジックの設定は、原作とは違います)。
「リカード・コンチネンタルです。宜しく、マジック様」
「マジック・ブルーシークレットストーンです。宜しく、リカード」
 私達はガンマ団の廊下で挨拶をして握手をした。マジック様の話はよく聞くが、直接会ったのはこれが初めてであった。
「失礼ですがおいくつで?」
「十三だ」
 はぁ、やはり……。
 背は低いがこれから成長期に入る。そのうち伸びるだろう。
 私の目を引きつけたのは、物おじしない毅然とした態度。子供とは思えない。
 私の父は第一線で戦っている。私の仕事は、K国の為に働くことと、この少年とその兄弟を護ること。
「…………」
 うまくできるだろうか。私に。父のように。
 マジック様がにこっと笑った。
「ああ、おまえ達。下がっててくれ。リカードと二人で話がしたい」
 マジック様は部下に命令する。
「はっ」
 同行の者達は出て行った。
「リカード……ガンマ団とK国、おまえならどちらを取る」
 ガンマ団とK国軍部の軋轢は日増しに大きくなってきている。それは私のような者の耳にも入っていた。
 迷うことはなかった。
「K国です」
「はは……そうか」
 何故だかマジック様は満足げだった。
「第一関門はクリアだな」
「は?」
「いや、何でもない。こちらの話だ」
 マジック様はゆっくり首を横に振った。
「では、私が――いや、ガンマ団がK国を裏切ったらどうする?」
 有り得ない――とは言い切れなかった。今のこの情勢では。ガンマ団は日に日に力を増している。敵は増える一方だ。
「これで」
 私は拳銃を取り出した。リボルバーだ。
「S&Wか。いい銃だ」
 当たり前だ。手入れも怠ったことはない。理想の愛銃だった。
「これで、私を撃ち殺そうというのか?」
「――必要とあらば」
 マジック様は光の強い眼でこちらを見上げていた。海の底のような深い青色の瞳だ。
「――合格だ」
 マジック様は密かに言った。
「ガンマ団と――K国の為に尽くせ」
「……わかりました」
 思わず惹きこまれそうになった二つの青の瞳――秘石眼。
 この瞳の恐ろしさを知っている者は、ごく僅かしかいない。私は父に聞かされていた。
 だが、秘石眼だけでは何もできない。
 私は、この人に仕えるのだ、という覚悟を決めた。
 ガンマ団が、K国の傘下にいる限り。
「それから――兄弟達には手を出すな。こちらにも奥の手がある」
 マジック様の奥の手――秘石眼だろうか。
「……はい」
 だが――と私は思っていた。この国に何かがあったら、そしてそれがマジック様の責任だったとしたら、私は彼が慈しんでいる兄弟にだって手をかけよう。
 マジックは兄弟思いで有名だった。血も涙もない男。それが、兄弟に対してはころっと変わる。
 この少年も結局は人間なのだ。私はマジック様の柔らかい心の部分を見るような気さえした。
「明日から、宜しく頼む」
「はっ」
 私は敬礼で応えた。
「そう硬くなるな。私とおまえは――そうだな、言わば友人だ」
 大した友人を持ってしまった、と私は思った。
「裏切ったら即殺すのでしょう? ……友人として」
「まぁな。だが、味方でいる間は護ってやろう」
 私は護衛だ。護るのが仕事だ。反対に護られていれば、世話はない。
「どうした? 不服か?」
「いえ――ただ、本来なら私がマジック様を護る方なのではないかと思いまして」
「確かに。だが武力なら私も負けんぞ」
 マジック様は凄みをきかせた笑みを湛えた。
「おまえに護ってもらいたいのは兄弟達だ」
「……はい」
「私の兄弟達のことについては知ってるだろう。ルーザーにハーレムにサービスだ」
「はい」
 実は、ハーレムには会ったことがある。くるくると大きな目をよく動かす、元気そうな男の子だった。
(へぇー。アンタ、リカードって言うのか。俺、ハーレム)
(ハーレム坊っちゃん。こんなところで何を)
(かくれんぼさ。アンタも仲間に入るか?)
(仕事がありますので)
(そうか。マジック兄貴も仕事があるってしょっちゅう言ってる。会えば話が合うかもな。じゃあな)
 なんと、そこはK国軍の基地の建物内であった。
 よくよく無鉄砲な少年だった。軍の基地を遊び場にするなど――。
 どこかで聞いた名だと思ったら、マジック様の弟だと後で知った。
 ――会えば話が合うかもな。
 確かに話が合いそうです。ハーレム坊ちゃま。

「お客様連れて来たぞ」
 マジック様と彼の邸に来た時だった。三人の男の子達がやってきた。みんなどこかマジックに似ている。――いや、クラウン総帥に似ていると言った方が正しいだろうか。
「わあ、アンタどっかで見たことあるぞ」
 ハーレム坊ちゃまが指を差す。
「んー、どこでだったっけかな。むむむ……」
「K国軍の基地の中です。ハーレム坊ちゃま」
「こら、ハーレム! 軍の基地で遊ぶなとあれほど――」
「こら、おまえ! 俺が遊んでいるところをマジック兄貴に教えるなど――ところで、おまえ、誰だっけ? あ、そうだ。リカードだ」
「宜しく。ハーレム坊ちゃま」
「おう、よろしく」
「またいたずらしたの? ハーレム」
 まるで女の子のような容貌の少年が言った。サービスだ。ハーレムの双子の弟。
 事前に聞かされていなければ私も女の子だと勘違いしたであろう。ソプラノの声を持つ凄い美少年だ。
「双子の弟として、僕は情けないよ」
「へへへ、まぁ、そういうなって。サービス」
「仕方ないね、この子は」
 サービスに似ているが、サービスよりも体を鍛えていそうな、双子の子供達より育った少年が言った。
「僕、ルーザーです。マジック兄さんの弟で、この双子達の兄です。この子達、いい子なんで何かあっても温かい目で見守ってやってください」 
 私は嬉しくなって頷いていた。この仕事は上手くいくだろう――その時はそう信じていた。

後書き
『光と闇』に出て来るリカードさんの話です。
ちょっと『光と闇』とは矛盾したところもあるかも?
これでパプワ小説のストックは一旦尽きました。アイディアはあるのですが。また書ければいいな。
2013.9.30

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