俺達、大人になったよ

 夏を目指して緑が歌い出す頃――。
 シンタローはキンタローとグンマを車に乗せて或る所へ向かっていた。
「シンちゃーん、どこ行くのー?」
 明るい声でグンマが尋ねる。金色の長い髪をリボンで止め、毛先をくりんとさせている。そして、窓外を動く景色をじっと見ている。
「んー……ちょっとな」
 シンタローは言葉を濁した。
「何かの用でもあるのか?」
「そう……俺にとってはな。せっかくだからお前らも連れて行きたかったんだ。親父は親父で忙しいようだしな」
「あ、この景色知ってる」
 グンマが窓の外を見て叫んだ。
「あまりはしゃぐな、グンマ。俺達ももういい歳なんだからな」
 キンタローが注意する。
「ごめんごめん」
 グンマがおちゃらけた声を出す。
 全く、変わんねぇな。こいつら――。
 でも、その変わらなさがシンタローを救っていた。

「着いたぞ」
 シンタローがキッ、と車を止める。
「墓場……」
 キンタローがそう言って絶句する。
「そう。……俺達が誕生日を迎えたことを母さん達に報告しようと思ってな」
「シンちゃんのお母様なら、僕のお母様でもあるよね。早く行こうよ」
「俺も行く。俺の伯母でもあるからな」
 言葉が出るようになったキンタロー。
「それにしても、この花束はその為か……」
「お前の母さんの分もあるぞ、キンタロー」
「シンちゃん、用意周到だね」
「ああ」
 キンタローの目が光って見えたのは日光のせいだろうか。
「俺も――何か用意してくれば良かったな」
「なぁに。お前らが元気で暮らしていることがわかれば、それだけで母さんは嬉しいだろうさ。そういう人だったから」
「シンタロー、お前もな」
「まぁな」
 シンタローの母の墓の前に行ったシンタローが花束を添えた。そして、祈った後にこう付け加えた。
「母さん――俺達、大人になったよ」
「僕も、大人になったよ」
「グンマは少しだけな」
「何だよー、真ちゃんのイジワル」
「この墓は墓守りさんが綺麗にしてくれてるんだ。感謝しなきゃな」
 シンタローが涙が盛り上がって来た目元を拭いた。
「そうだな。俺達は忙しいからそうはこれないが――伯母さん、いつも天国から見守ってくれてありがとう」
 キンタローも天国にいるシンタロー達の母に礼を言う。
「僕はさ、本当はシンちゃんには綺麗で優しいお母様がいて羨ましかったんだ。でも、本当は僕のお母様でもあったんだね」
 マジックはシンタローの母をそれはそれは愛していた。弟のコタローも生まれた。コタローは金髪だが、美しいところは母に似たのだと思う。
「コタローちゃんも連れてくれば良かったのに」
 グンマが言う。
「それは俺も考えたが――今日は俺達だけで来たかったからな」
「ふぅん。シンちゃんも少しはブラコンから卒業できたかな」
「うっせーぞ。グンマ」
「でも、この中ではグンマが一番年上なのだから、それなりの敬意を払うべきではないか? まぁ、グンマが俺やシンタローより年上だとは全く信じられないのだが」
「キンちゃん……言ってることが矛盾してるよ……」
 グンマがふくれた。
「こいつはそういう奴だ」
 シンタローが両手をバタ臭い仕草で上げながらそう続ける。
「一言多いのは我々の家系かな」
「一緒にしないでよぉ、キンちゃん」
「ツッコまれることばかりしているお前らが悪い」
「シンちゃん……相変わらず俺様だね」
「おい、グンマ、シンタロー。今、天国の伯母は呆れて見ていると思うぞ」
 キンタローがもっともなことを言った。
「キンちゃんの言うことが正しいね」
「キンタローはいつも正しいことしか言わねぇからな。正論の申し子だ」
「そんなこともないぞ」
 シンタローの言葉にキンタローが反論する。シンタローが続ける。
「まぁ、俺達と敵対したこともあったからな」
「ルーザー叔父様やステラ叔母様は悲しかっただろうね」
「そうだな。今度はステラ叔母さんのところ行くか」
 シンタローは足元に置いてあった薔薇の花束を抱えた。
「俺の伯母も母さんも美人だったな。思い出はないけど」
 キンタローが言う。グンマがちょっと困った顔をした。
「シンちゃん、どうしよう。僕、キンちゃんに対して何も言えない……」
「俺もさ。キンタローは或る意味俺の犠牲になったんだもんな」
「あ、そういうつもりで言った訳じゃない。すまん。でも、記憶に流れ込んで来た母の記憶は色褪せないままだ。それが思い出といえば思い出だ」
 シンタローは思った。キンタローにはシンタローを通しての母に抱かれた記憶しかない。感触はなかったに違いない。けれど――そのことでキンタローはシンタローを責めない。
「浮かない顔だな。シンタロー」
「あ? そうか……?」
 シンタローは、この聡明で優しい従兄弟キンタローにそっと同情していた。
「具合でも悪いんじゃない? そこら辺で休んでいたら」
「いや、そういう訳じゃねぇんだ」
 母さん……。俺だけじゃなく、キンタローもグンマも立派に育ったよ。ま、グンマは一見子供っぽいけど、実は誰よりも大人で……。
 そう――確かに、グンマはマジックの長男だけのことはある。
「僕ね、お母様に『今年もお誕生日おめでとう』って言って欲しかったんだ」
「それはさすがに無理だろう」
「んー、でも、霊界からメッセージを送ることのできる機械を造れば……」
「それは名案だな」
 キンタローとグンマはああでもない、こうでもないと相談する。
「全く……この機械オタク達と来たら……」
 シンタローが仕様がない、と言ったように呟く。
 でも、キンタローとグンマが仲良くなって良かった。キンタローなんて今じゃ家事もお手の物なのだから。初対面の時と印象が違い過ぎる。
 サービス叔父さん達が子供をすり替えたことも、結局は良かったのかもしれない。というか、本当に彼らの意志だったのかどうか――青の秘石が彼らの思考を操っていたのかもしれない。
 もう、秘石も遠くへ行ってしまった。この地球の為に、赤の秘石と青の秘石が戻って来ないことを願う。だって、あの二つの石はとてつもない力を持っているのだから。
 野望に燃えてた頃のマジックなら本当に世界を総べることができる、そんな、核よりも危険な力を持った秘石。
 だが、秘石がなければシンタローは生まれなかった。キンタローやグンマも。
 そして――リキッドと会うこともなかった。
 シンタローは秘石の行く末がちょっとだけ気になった。が、やがて言った。
「ほら、行くぞ。ステラ叔母さんのところにだ」
 シンタローがスタスタと歩く。
 待ってよ、シンちゃん――と言いながら、グンマもついてきた。その後ろからキンタローも。
 空は雲一つない、快晴。

後書き
シンタロー達が墓参り。相手はそれぞれのお母さん。
いや、シンタローやキンタロー達に母親がいないのは知ってます。知ってて、敢えて書きました。
シンタローやキンタロー達のお母さんはオリキャラにならざるを得ないなぁ……今思えばそれで良かったかもしれないけれど。
シンちゃん、キンちゃん、柴田先生、誕生日おめでとうございます。それからグンマやリキッドもちょっと遅れたけどおめでとう。
2016.5.24

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