俺の前世は…?

「第二惑星グレイは生きることを選んだ」
 ――はい?
 急にSF的になられても困るんだけど――。俺、確か授業中……だったよな。
 そんで、長い髪の男が言った。どこかで見たことのあるような顔の男だ。
「光……お前をマスターに選んで良かった」
 え? え? 光? マスター? 何者?
「紅兄さーん。ご飯ですよー」
「今行く。それからそのう……今のことは忘れてくれ」
 忘れてくれって言われても――。でも、紅とかいう男の感謝の気持ちは伝わって来た。俺は何にもしていないけど。
 いつか、どんな形でか、使命を果たさないといけねぇんだ。
 宇宙で――。

「レックス、レックス……」
「んにゃ……紅……?」
 クラスメート達がくすくすと笑っている。そうだ。俺は、レックスだ。ハーレムと言う男の息子だ。そして、目の前の先生はフルミ先生。
「そんなに廊下に立ちたいか? お前……」
「ノンノン。悪気はないんです。俺」
「そうだな。先生も知ってる。だが、授業中寝ていた罰は重い。廊下に立ってなさい!」
「はーい……」
「あ、そうだ。レックス。――忘れ物」
 それは水の入ったバケツだった。暑かったので、レックスはバケツの水を引っくり返した。
「こらー! レックスー! 逃げるんじゃなーい!」
 レックスは笑われても何のその。必死で逃げ回る。それが楽しいのだ。それが――充実した毎日なのだ。
 レックスはふるふると頭を振る。滴が飛び散った。レックスは満面の笑顔だった。

「しっかし、君もやるもんだねー」
 昼食時間、屋上で、レックスの親友バリーが言った。
「だろう? 学校生活は楽しまなきゃ損だぜ」
 レックスが答えた。二人に共通の友人、リズがくすっと笑った。
「でも、バケツをひっくり返したのはやり過ぎだと思うの」
「えー? だって、暑かったんだもん」
「それはいいんだけどさ……ねぇ、紅って誰?」
 リズがずいっと、レックスに顔を近づける。
「知らね」
「まぁ、とぼける気?」
「ほんとに知らねんだって」
「リズ。レックスくんは嘘をつくようなヤツじゃない。というか、嘘をつく頭を持ち合わせていない」
 ――バリーは時に辛辣だ。
「それもそうねー」
 リズは笑った。バリーもつられて笑う。
「何だよぅ……人をアホみたいに……」
 けれど、確かに覚えていないので、思うように反論できないレックスであった。
「今日はね、たこ焼き作って来たの」
「たこ焼き! 俺の大好物!」
 レックスが瞳をきらきらさせた。
「ほー、これは旨そうだ」
 そう言って、バリーが一個たこ焼きを食べる。
「――旨い」
「あったかけりゃもっと旨いんだろうけどな……」
「じゃあ、私、レックスくんとバリーくんの為にたこ焼き作る。だから、今度うちに来て!」
「そのうちな……」
 レックスは噛み締めながら言った。
 リズがオレ達の為に料理を作ってくれる――それが、レックスの喜びであった。多分、バリーもそうであろう。
「この幸せな時間が、ずっと続くといいのにな……」
「続くよ」
 レックスは断言した。リズは笑ってこう言った。
「ありがとう。レックスくん。レックスくんが言うと、なんか、ずーっとこの幸せが続くような気がして来たわ」
「そうなのか? よくわからないけれど……」
「レックスくんの言葉には力があるんだよ」
「そっか……力が……」
 レックスは手をにぎにぎした。何だか力が溢れてくるような気がする。
(グレイ……)
 確か、そんな星があったような気がする。そして、その星は生きることを選んだ。
 星光の意識が、そのまま、レックスの中にもあった。それは時と共に薄らいでいくけれど――。
(俺は、将来、あの子になるんだ――)
 何の根拠もなく、レックスはそう思った。ということは、レックスは来世の夢を見た、ということになる。
(フルミのアホに構わずに、もっと夢の中を研究すれば良かったな……)
 ――でも、今は今で幸せだから構わなかった。
 ああ、このたこ焼きのとろけ具合。香ばしい匂い。美味しい……。
 レックスは幸福に浸っていた。なんとも安上がりな幸福である。
 けれど、食生活も生きていく上では大事だ。そして、リズはとても料理が上手な女の子だった。ずっとずーっと、リズのご飯を食べて生きていけたら幸せだろーなー……。
 レックスに深い考えはない。
「おい、リズ」
「やぁね。エリザベスって呼んでよ。――何?」
「これからも俺とバリーの為に飯を作れ」
「えっ……えええええええっ?!」
「何だ? そんなに嫌か?」
「あのねぇ。レックスくん」
 バリーが呆れたようなふかぁい溜息を吐いた。
「俺の為に味噌汁を作ってくれないか――そんなプロポーズの言葉が世の中にはあるんだよ」
「えー。もうプロポーズの言葉に使われてんのか。へぇー。流石大人は一味違うな」
「僕に言わせりゃ、レックスくんが考えなしなんだと思うんだけどね」
「何だよー。俺にだって、必要としてくれるヤツがいるんだぜ。えーと、くれな……くれは? いや違うな。くれない……そうだ。紅だ。何にもくれないって覚えてたから」
「何それ」
「俺のこと、ます、マスター? そう、マスターで良かったって言ってたぜ」
「どこで?」
「――夢の中で」
 バリーとリズはどっと笑った。
「あんだよー」
「だって、現実と夢をごっちゃにしてるんだもん。レックスくん」
 リズが可憐な声で笑う。バカにしてんのか、と、レックスは膨れた。
「……あ、別におかしくて笑った訳じゃ……いや、おかしかったんだけど……」
「いいや。おかしいね。レックスくん、君はおかしい」
「ちぇっ」
 レックスは舌打ちした。
「けれど、いい夢見たのね。レックスくん」
 ――やはりリズはわかってくれた。レックスの顔がぱあっと輝いた。
「いいな。僕も本当は……レックスくんみたいな夢。見たいよ」
(そうだろうそうだろう。けれど、これは俺だけの夢だからな――)
 レックスはちょっと落ち込み気味だったのも何のその。今度は得意げに胸を張った。いつか、星々を巡る仲間達に会えるのを信じて――。

後書き
レックスくんシリーズです。
C5の要素も入ってます。好きですね。C5。
でも、グリーン編はまだ読んでいないのだ(笑)。
私の中では、星光の前世はレックスということになってます。
2019.09.01

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