俺の周りは変なヤツらばかり

「レックスくーん。どこー?」
 ふふっ。俺はグンマなんかには見つからないもんねーだ。
 俺は今、グンマと一緒にかくれんぼをしている。物陰に隠れるのは得意なんだ。
 あ、台所からいい匂いがする。夕飯はマジック伯父さんが作っているのだ。今夜はカレーかな。
 ――と。
 あそこにいるのは、ジャン――と、高松? うー、高松は苦手なんだよな。触らぬ神になんとやら。抜き足差し足忍び足……。
「なぁ、レックスって本当に青の一族なんだよなぁ」
 ――え?
 俺は足を止めた。
「ハーレムの息子だってことを疑っているんですか? あの顔はハーレム似ですよ。あの跳ねた髪といい。第一貴方はレックスの出生についてはハーレムの息子だと信じてらっしゃったでしょう?」
「疑っている訳じゃない。でも、あの髪オレンジ色だしなぁ。ほんとは少し、気になってたんだよなぁ、やっぱり。……アスが銀髪になってたから気になっただけかもしれねぇけど」
「アスって、アンタ――アスに会ったんですか?」
「ああ、まぁ……夢の中でだけど」
「何本気で答え返して来るんですか。冗談のつもりで言ったのに」
「でも、俺――ずっと昔パプワ島でもアスの気配が感じられて不思議だったんだ」
「それは第一の? 第二の?」
「第二の方――ってそんなことはどうでもいいんだ。……確かにあのレックスの目は青の一族の瞳だけど……でも、ま、アスだって髪の色変えられたんだ。かえって青の一族という証拠になるかもしれない」
「時が来たらサービスに預けてみます?」
「それも手だが、それはマジック総帥……いや、マジック元総帥にも相談しないと――」
 俺はその場を離れた。ジャン達が俺の出生のことをあーだこーだ言っていることは知ってたけれど――。
 それに――何だ? 秘石眼てーの。俺はそれなんだって。まぁ、俺は昔から軽いオッドアイでそれがコンプレックスでもあったんだけど。
「みんなー、ご飯だよー」
 マジック伯父さんのご機嫌な声が聞こえた。難しいことはおいといて。俺はカレーとかくれんぼのことだけを考えることにした。

 マンモス校のガンマ学園に学食が出来た。しかもタダ。
 因みにガンマ学園の理事長はマジック伯父さんだった。だが、訳あって辞めたらしい。――どうでもいいけど。
 ガンマ学園の前身はガンマ団士官学校と言って、人殺しや戦争のノウハウを教えているところだったらしい。今も体育会系なのは変わっていないようだけど――もっと平和な雰囲気になっているそうだ。
 俺達のクラスも、学食の話題でもちきりだった。
「あそこの学食の料理人みんな超イケメンー」
「金髪の人、若くはないんだけど、そこがいいのよねー。ナイスミドル。尊い……」
「それに料理もおいしいんだよねー」
 ふうん……行ったことないけど、飯が旨いなら行ってみるかな。
「おい、リズ、バリー。学食行こうぜ」
 そしたら二人とも目を輝かせて、
「うん!」
と、同時にうなずいた。
 ――学食は盛況だった。
「何だよ。どこにすわりゃいいんだよ……」
「あ、あそこの席が空いてる!」
 バリーが素早く指差した。――この学食はマジック伯父さんの権限で作られたのだという。おしゃれなレストランと言った感じだ。
「僕も一度来たかったんだよね。レックスくんが行きたいと言うんで、ラッキー、って思っちゃった」
「あ、私もー」
 と、バリーとリズ。こいつら、意外と好奇心旺盛だな――人のことは言えねぇけど。
「おいしいって評判だもんねー。楽しみー」
 リズが言った。
「お前……イケメンな料理人が好みじゃなかったのかよ」
「それもあるけどぉ……」
 ふん、ミーハーめ。
「こっちで注文受け付けているみたいだよ」
 バリーが手招きする。女子の数が多いような――てか、女子がひしめいているみたいだぜ。ちょっと俺も言ってくるか。
「あ、レックス」
 聞き慣れたその声は――
「マジック伯父さん!」
「やぁ。君も食べに来たのかい?」
「評判を聞いてね。伯父さんは何のつもり?」
「ああ、私は学食のおばさんだよ。憧れてたんだよね。『お残しは許しまへんでー』と言うやつ」
 マジック伯父さんは笑顔で言う。俺はちょっと頭が痛くなった。ガンマ学園の理事長まで勤めた男が学食のおばさん……。てか、おじさんじゃね?
「パスタ茹で上がりました~」
「ご苦労」
 マジック伯父さんが相手に対して言った。
 眼鏡をかけた、黒髪を高く結い上げている着物の上に割烹着を着ているその相手は――。
「山南さん!」
「はーい! 学食のおばさんその2で~す。マジック先生の隣で働けて嬉しい限り……」
 山南ケースケがほうっとため息をついた。本当にマジック伯父さんのことが好きなんだね……。
「ほらほら、山南くん、手を休めない!」
「はーい!」
 語尾にハートマークがいくつもつくような甘ったるい声で山南が答える。
「なぁ、レックスくん、君のまわりって……」
「言うな」
 バリーの言いたいこと、本当は俺が一番よくわかっている。
 ――俺のまわりは変人だらけであることを。
 ……一見まともに見えるサービス叔父さんもやっぱりちょっと変わってるし……。
 その中でガンマ団現総帥として働くシンタローがまともに思えた。
 ……あの人もまともじゃないか……。コタローが絡むと鼻血出したりするし。確かにコタローは美青年だけど。
「レックスくん、早く注文しなよ」
 リズの声に俺は我に返った。
「じゃあ、ナポリタンを……」
「えー、あれ、口の周りにケチャップつかないかい? チャレンジャーだね、君も……」
 うるせぇ、バリー! 俺はナポリタンが好きなの!
「私はマカロニサラダがいいかな。それとスープと……後は……」
「んないっぱい食って――太るぞ」
 俺はわざと言ってやる。
「私太らない体質だもーん」
「そうそう。リズちゃんはもっと太らないとだめだぞ」
「あ、私の名前……」
「レックスから話は聞いてるんでね」
「スープあがりましたー」
「はーい。――じゃあ、また後でね。リズちゃんにバリーくん」
 マジック伯父さんがウィンクした。リズがほわほわとした表情になった。あのバリーまで……。
 ――俺達は夢中で飯を食ってしまった。流石はマジック伯父さん。料理相変わらず上手いぜ。人を使いこなすのも上手と見えて、タダの学食の割に、味のレベルが高い。
 けどなぁ……あのフリフリエプロンはどうにかならないかな。マジック伯父さん。
 尤も、リキッドだってフリフリエプロンは着ているけどな。ヤンキーだっていう話だけど、俺にはオカマに見える。ヤンキー主夫かい。
 やっぱり俺のまわり、変り者が多い……。
 親父も変り者だったらしいから、似たヤツが集まるんだな。

 帰って来た後、シンタローのところに行ってその話をしたら、シンタローは笑っていた。
「はっはっはっ。やっぱり俺の家族って変だろ? 俺も苦労したぜ」
 ――アンタもその一員だよとは流石に言えなかった。部下も変なヤツらばかりだし。
「でも、みんな何かこう……要するに、憎めないんだよな」
 俺は笑顔で首を縦に振ってやる。その時、コタローがノックをしてシンタローの執務室に入って来た。――歓迎しながらシンタローは鼻血を流していた。

後書き
レックスの秘密については、実は何も考えてなかったりします。何でレックスの髪はオレンジ色かね。……描いたイラストがオレンジ色だったからかもしれない。
学食のおばちゃんなマジックと山南。結構好きです。
シンタローは一生コタローにメロメロなんだろうなぁ……。

2019.03.13

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