ナポリを見て死ね
12
 いや、正確には――ハーレム達が軍の男達を相手に大立ち回りをしていたのだ。ギュスターヴやG、ジャスティンなどもいる。
 ロッドの縄は、飛龍が解いてくれた。
「あんがと。飛龍さん」
「いえいえ。来るのが遅くなったみたいで」
 書き忘れていたが、処刑場にはロッドが連れて来られた時、既に何人かの男達が待機していた。
 ハーレム達の乱入を予期したわけではなさそうだったが、やはりいろいろと理由はあったのであろう。たとえば、こんなアクシデントが起こった時に対応するように――。
 だが、今回に限っては、あまり効果がなかった。
 ハーレム達は、少しの時間で敵を片付けてしまった。
 本当なら、このアクションシーンをもう少し詳しく書くところであろうが、あいにく、筆者にはそれを描写する力は――ない。
 何でここがわかったんだ、と呻くピアスに、密告者がいたからな、と答えるハーレム。
 それにガンマ団独特の機動力の素晴らしさもあって、間一髪でロッドの命は助かったのだ。
「ピアス。おとなしく投降しろ。そしたら部下も、アンタの命も助けてやる」 
「はっ」
 ピアスが嘲笑うように口元を曲げると、ロッドに銃口を向けた。
「それぐらいなら、このガキを始末してやる。アンタらの目の前でな」
「くっ……」
 ハーレムは密かに呻いた。
「卑怯だぞ。ピアス少佐ともあろう者が」
 ギュスターヴが言った。
「戦争に卑怯も何もない!」
 ああ、そうだな……。
 あの力がなければ、オレはただの非力なガキだ……。
 ペンネ……アンタのところには行きたいが、オレはせっかく助けに来た仲間達のことを無駄死にはさせたくない。
 オレは……ハーレム達を助けたい。
 ここで死ぬのはイヤだ。
「ロッドくん!」
 飛龍がかばった。
「ピアス! その子を撃つなら俺を撃て!」
「ああ。いい心がけだ。どちらもあの世に送ってやる」
 ピアスが舌で、口の端をなめた。
「――飛龍さん。ちょっとどいててください」
「ロッド……くん?」
 腹の底から、足元から怒りが湧き起こる。
 オレは無力な子供なんかじゃねぇ。
 今だったら、やれそうな気がする。あの技を――。
「お……?!」
 さすがに、ピアスはロッドの変化に気付いたらしい。
 だが遅かった。
「羅刹風!」
 ロッドが必殺技を――密かに練習して編み出した技を繰り出した。
 ピアスは突風に飛ばされ、銃を手から離した。
 銃はギュスターヴの前に落ちた。彼はそれを地面から拾い上げる。
「そこまでだ!」
 隙だらけのピアスを、ハーレムが組み敷いた。
「ピアス。子供を巻き込もうとは俺に劣らず極悪非道だな。まぁ、ロッドがただのガキでなかったのが運の尽きだな」
 ハーレムは、ピアスの額に銃口を押し付けた。
「そもそも女と言うのは、子供を生み、育てるものだぞ」
「ふっ。私のじいさんもそんなことを言ってたよ」
「ほう……気が合いそうだ」
「まぁな。だが!」
 ピアスはハーレムの銃を奪い取った。
「私はそんなただの女で終わる気はない!」
 ピアスはハーレムに銃を向けた。
「何をしている! おまえら! こいつらを囲め!」
「はっ!」
 さっきの、比較的軽傷で済んだ男や、駆けつけてきた兵士などがハーレム達を取り囲む。もちろん、めいめい武器を持って。
「ハーレムのおっさん……」
「大丈夫だよ。ロッドくん。隊長は」
 何だろう。飛龍の口調に混じった、多少誇らかなニュアンスは。
「俺のこと、わかっててこいつらをけしかけるんだろうな――」
「早く撃て!」
 その刹那――。
「眼魔砲!」
 爆風が起こった。彼らは一瞬にして伸びてしまった。
「な、何と――」
「これが俺の必殺技だ。ロッドと同じように、俺も特殊能力があるんでな」
「化け物――そうだ! 忘れてた! おまえは化け物だったな。あのガキとおなじような――」
「化け物、か」
 ハーレムがぽつんと繰り返す。
「その言葉は、言われ慣れてる」
 ハーレムの横顔が、ひどく悲しいものに思われたのは、ロッドだけだろうか。
「わかった。化け物相手では仕方がない――降参しよう」
 と、ピアスは先程ハーレムからとったピストルを放り捨てた。
「それがいい」
 ハーレムは、後でマジックの部下にピアスの身柄を引き渡している。
 彼がその時、言った言葉はこうである。
「良かったな。ピアス。俺は容赦はしないが、マジックはまだ寛大だぞ」
 そう言って、手を振ってガンマ団に送った――だが、それはまた別の話である。
「ロッド」
「ハーレム隊長!」
 ロッドはハーレムの首に飛びついた。
「あーあ。妬けるねぇ」
「お前もいい人作ったらどうだ? ギュスターヴ」
 飛龍の台詞に、彼らは互いを見て、ふっと笑った。
「オレ……オレ……。ありがとう」
「ん? 何がありがとうなんだ?」
「オレ、大人になったら、ガンマ団に入ります」
「んだよ、藪から棒に。――暑苦しいな。少し離せ」
「オレ、ガンマ団が好きです」
「えっ?!」
 ハーレムが素っ頓狂な声を出す。
「何だって?! 俺達は、お前の兄貴分を殺した奴らだぞ」
「でも、誤解があったからだと思います。あなた達がどんなヤツらか知っていたらペンネ――死んだオレの友達も、好きになっていたでしょう」
 ロッドは、鼻の奥がつん、となってくるのをこらえた。
「きっと、好きになってました」
 ベルヒ軍にもいい奴はいっぱいいたが、己の特殊能力を生かせるのは、ガンマ団だと思った。
 それに――世界中を股にかけるところも気に入った。自分はいろいろなところを見て回る。
 そして、いつかナポリにも。
「じゃ、大きくなったら、よろしく頼むぜ。相棒」
 ハーレムは、抱きかかえたロッドの手を握った。

後書き
今回はいろいろと遊ばさしてもらいました。商業誌だったら罰が当たるな(笑)。
好き勝手したから、マーカーの父ちゃんや、年若きGなんてものも、登場しました。と言っても、Gはあまり変わらないけれど(笑)。
ギュスターヴは好きなキャラですが、もうあまり出て来ないでしょうね。
少年ロッド君は可愛いんじゃないかと、自分では思っています。
それから一言。作中に出てくる文句、

何もかもが美しく、傷つけないものはなかった。

これは『スローターハウス5』の中での言葉を一部変えています。本当は、
「何もかもが美しく、傷つけるものはなかった」
なのですが。これはパームシリーズの『ナッシング・ハート』の冒頭に引用された文章でもあります。
で、それを勝手にもじってみた、と。
ロッドの実感なのでしょうね、きっと。原案は数年前に考えていたのですが、もう頭にありましたもの。
わかりにくいけど、わかる人にはわかる、と思います。
後、スペースがなかった為、十数年後のロッドとかも書く予定でしたが、カットしました。
それでは、皆様が存分に楽しんで下さることを祈って!
2009.11.26


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