ナガサキ対壬生! part2

「ポチは無事かな……」
 窓から外を見遣ってハーレムが呟いた。
「ポチとは何のことですか?」
 近藤イサミが訊いた。
「ああ――さっきの伝書鳩のことだよ」
「ポチ? ポチとは普通犬の名前では」
「別に伝書鳩につけたっていいじゃねぇか」
「それもそうですな。しかし、それでは名前のセンスがあまりにも……」
「文句でもあんのか?」
「いいえ。ハーレム殿のペットみたいなものでしょうからな。――ポチは。しかし、私は永崎のソージが心配ですよ」
「俺も兄貴やサービスや――永崎のヤツらのことが心配だ。知ってるか? 近藤。南蛮のキリシタンの書物には鳩がオリーブの枝を持ってきてノアとかいうじいさんのところに帰ってきたんだぜ」
「儂は知りませんでしたな。ここでもキリシタンは罰せられますからな」
 ポチが帰って来た。
「おっ、お帰り。ポチ」
「よく懐いている鳩ですな」
「だろう? 可愛がってやってるからな。む、何かついてるな。――兄貴からの手紙だ。何々――『すぐ助けに行く』とな」
 その時――ドカーンと音がして石牢の壁が崩れた。
「はぁい。ハーレム叔父様。近藤さん」
「――無事か。ハーレム叔父貴」
 グンマとキンタローがアヒル型のロボットから出て来た。グンマはスワンだと言い張るだろうが、どこをどう見てもアヒルにしか見えない。
「本当にすぐに来ましたな」
「――早過ぎだろ」
「怪我はないか。ハーレム」
 キンタローが尋ねた。
「おかげさんで。悪運が強いからな。俺は。ところで、ここにはお前達だけか?」
「シンタローとジャンがアスの元へ向かっている。それから、マジック伯父貴と、ハーレム叔父貴――アンタの部下や心戦組がこの城の雑兵どもと戦っている。マジック伯父貴とサービス叔父貴はしんがりを務めている。高松もだ。パプワ達も駆けつけてくれた。コタローは城で護られている」
「そうか――よくやった。キンタロー。最早ここまでかもな、と思ってもいたんだが」
「ハーレム叔父貴……そんな弱気なんてらしくないぞ。年のせいか」
「ははっ。バーロー」
 ハーレムは目頭をそっと押さえた。
「いちゃついてる場合じゃないよ。キンちゃん。ハーレム叔父様も近藤さんも早く乗って」
「あいつらは――? 俺達の部下は?」
「城で戦ってるようだ」
「そっか、じゃあ早く行ってやらんとな」
「儂も連れてってください。協力ぐらいは出来るでしょう」
「あ、そうだ。ソージくんもアスのところに行ってるよ。何でも、『アスさんのことは他人事でないからね』だって」
「ソージがアスのことを? あの子はアスの知り合いかい?」
 ハーレムと近藤が互いに顔を見合わせた。

 ギャリーン!
 シンタローと武士が刀を合わせる。
「くそっ、これじゃきりねぇな」
「シンタロー、きっとこいつら操られてるんだべ!」
「だっちゃ!」
「ほう、ぬし達そんなことまでわかるんか」
 コージがミヤギとトットリの予想に感心する。
「当たり前だべ! オラ達だって伊達に間者勤めている訳じゃねぇべ!」
「だっちゃわいや!」
 普段は顔だけ阿呆のミヤギとその下僕……否、親友の忍者トットリ。強いのか弱いのかいまいち判断出来なかったが、実は相当強いらしいコージ。
 心強い仲間を持ったとシンタローは思う。その時に隙が出来た。
「しまっ……!」
「平等院鳳凰堂極楽鳥の舞い!」
 長崎では相当の炎の使い手とされるアラシヤマの秘技が炸裂し、敵が丸焦げになった。
「シンタローはん、はよう」
「ここは任せてくれ!」
「ありがとよ! アラシヤマにリキッド!」
 シンタローはジャンとソージと共に血路を開く。
「ふん、やるようになったじゃないか! リキッドに馬鹿弟子!」
 マーカーが認める。敵の血飛沫を浴びながら。ロッドやGも戦っている。
「馬鹿弟子とは何や!」
 だが、アラシヤマもそれどころではない。近藤が不在の為、今は山南が率いている心戦組やハーレムのいない特戦部隊と協力しながらシンタロー達を行かせた。

 アスのいる部屋――。敵をなぎ倒しながら、シンタロー達はそこにたどり着いた。
「ここだよ」
 ソージの声に、シンタローは、「おらぁっ!」と扉に体当たりした。
 シンタロー、ソージ、ジャンがアスの姿を同時に見つける。
「ふふふ……来たか」
「ふふふ、じゃねぇ。お前、何しに壬生に来た」
「足りない頭で考えるといい。――ジャン」
「ああ?!」
 アスはシンタローを無視する。ジャンしか相手にしていないようだった。シンタローが嚇怒する。
「俺らもいるんだがなぁ。アスさんよぉ。ジャンばかりでなく、こちらも見ろぃ!」
「――私の表の部下どもは全員倒されたらしいな」
「何故わかる」
「……私も秘石の番人だ。まぁ、今回のは事故のようなものだがな」
「?」
 実はグンマ達の乗っている特大スワン号が城の中で暴走したのである。ハーレムと近藤もそれに乗っていた。だが、そのことをシンタローは知らない。
「アスさん。まさか世界征服なんて面倒なことを考えてるんじゃないでしょうね」
 ソージが細い目を開いた。
「ソージ……誰に向かって口をきいている。役立たずのお前を青の番人に引き立ててやったのはこの俺だ」
「えっ……?!」
「ソージが……青の番人!」
 シンタローとジャンが驚いてソージに注目する。
「ええ。でも、今回は僕はシンタローさんの味方になりますよ。――馬鹿局長のこともあるしね」
 馬鹿局長……そう言ったソージには信頼の響きが混じっていた。
「おお、そうだ! ハーレム叔父さんは無事か! 近藤も巻き込まれたんじゃねぇだろうな!」
「一応無事だ。裏で工作していたらしいがな」
「あの鳩のことか……」
 シンタローは小さく呟いた。
「アス。昔はそんな性格じゃなかったろう。昔のお前に戻ってくれ」
 ジャンが説得を試みる。
「ふふ……お前はいつまでいい子でいるつもりだ、ジャン。俺とお前は同じなのだ」
「違う!」
「違わん!」
「俺には――愛する者がいる」
「サービスという男か」
「――え?」
 シンタローが今度はジャンの方を見遣る。そして、ちっと舌打ちをする。
 ジャン! サービス叔父さんはお前なんかには渡さねぇ! 俺は認めん!
「さぁ……ラストダンスの始まりだ」――アスが言った。

後書き
永崎藩という架空の藩が舞台のなんちゃって時代劇シリーズです。
ソージがシンタロー側に寝返りました。
アラシヤマが美味しいとこ持って行ってますね。それにしても、ハーレムはネーミングセンスがいまいち……(笑)。
2018.04.12

BACK/HOME