ナガサキ対壬生!

「静かだな……」
 朝日を浴びて高屋敷シンタローはそう思う。チチチ……と雀が鳴いた。
 いつもと同じ朝。平凡な朝。日差しが眩しい。
「来るなら今日かな、と思ってたんだけど」
 シンタローが独り言つ。
「シンタロー様、おはようございます」
 マジックの側近――或いは小姓――のティラミスは頭を下げる。
「ん、いい朝だな」
「ハーレム様がいないんですよ」
「それじゃ、静かな訳だ」
 シンタローとティラミスはお互いの顔を見てはっはっはっと笑った。どうやらティラミスも同じことを考えていたようだ。
 ――けれど、二人とも、ハーレムが嫌いなのではない、らしい。
 そこへ。ドォォォォン、と遠くから大きな音が聞こえた。
「冗談を言ってる場合ではないな。敵さんもやって来たみたいだな」
 シンタローが呟いた。

 鯨型の飛空艇。壬生の心戦組だ。山南ケースケが言った。
「どうかね。ススムくん」
「今のところ順調に進んでいます」
「そうだろ。そうだろ。この飛空艇は私がデザインしたのだからな」
「道理で趣味が悪いと――」
「ん? 何か言ったかい? ススムくん」
「いえ……」
 山崎ススムは更に舵を取る。
『こらーっ! 心戦組!』
 ライオンの鬣みたいな頭をした男がモニターに映った。
「何だい? あの野蛮そうな男は」
「藩主マジックの実弟、ハーレムですよ。てか、アンタあんなに『マジック様マジック様』騒いでたのに知らなかったんですか?」
「マジック様以外には興味がないものでね」
 山南の台詞に呆れ、ススムは溜息を吐いた。
「だめだよぉ、ススムちゃん。山南さんに正論言ったって」
 おさげ頭の永倉シンパチがそう言う。
「えーと、それはどういう意味かね? シンパチくん」
 山南の眼鏡がきらりと光った。
「俺は暴れられればそれでいいんだけどよぉ」
 このセリフは斎藤ハジメだ。長い耳に長い舌。その人間離れした容貌に、皆からエルフと呼ばれている。
『ほう――俺と同じ意見の男がいたか』
 ハーレムが真顔で言う。
「聞こえてた! 我々のやり取りが!」
「山南さん、かなりアホまっしぐらでしたからね」
「ススムくん、私は耳はいい方なんだがね」
「構いませんよ。聞こえるように言ったんですから」
『ははっ。お前らアホだな』
「自分だって野蛮人のくせに!」
『言ったな、見てろよ』
 そして――ハーレム率いる特戦部隊の飛行船が心戦組の飛空艇に攻撃した。隠密部隊にしては行動が派手である。
「ふっ、そんなもの効きはしないね。ススムくん!」
「はい!」
 今度は心戦組の攻撃。だが、これも通用しない。
「実力は五分と五分か――」
『甘いな』
 ハーレムは飛行船を心戦組の乗り物にぶつけた。
「甘いのは君の方だ!」
 山南が勝利の雄たけびを上げた。特戦部隊の飛行船の一部が壊れた。
『くそっ、かてぇな』
「はーっはっはっ。よく見たか! 私の作り上げた飛空艇の威力を」
「今は我々は特に何もしてないんですけどね」
 ススムが冷静に山南にツッコむ。
『ハーレム叔父様をいじめたら許さないんだからぁ!』
「ん? また通信が。何だ? このマシュマロが好きそうな甘ったるい顔つきの坊ちゃんは」
「だから、それは藩主マジックの実子――いや、もういいです」
 ススムは匙を投げたようだった。

「やれ、グンマ」
「うん、キンちゃん」
 巨大スワン号の中では、こんなやり取りが交わされていた。
「ハーレム――お前の弔い合戦だ!」
 まだ死んでねぇぞ、とハーレムだったら言うであろう。
 グンマがボタンを押すと、爆弾が鯨型の飛空艇へ向かう。外装を貫通して爆発する。
「やったぁ!」
「グンマ様、キンタロー様……ご立派になられて」
 同乗していたグンマ達の世話係、徳田高松がほろりと涙を流す。
「グンマ……敵はまだ生きている」
『ふふふ……我々もそのアホな外見の乗り物にすっかり騙され油断したが、今度はそうはいかんぞ』
「キンちゃん、逃げて!」
「逃げろと言われても……」
「あ、あれは……」
 山の頂にマジックとコタローの姿が見える。
「何やってんの? お父様、コタローちゃん! 早く逃げて!」

「ねぇ、父さん――僕もこの永崎を守る為に戦うよ。この永崎は僕が守る! パプワくんと約束したもの!」
「ああ。……成長したな。コタロー」
「いつまでも守られている訳には行かないからね。力を合わせるよ。父さん」
「頼むぞ、コタロー」
 親子の秘石眼がかっと見開かれた。

 ダブル眼魔砲!

 マジックとコタローの眼魔砲が、心戦組の飛空艇を貫く。
 今度こそ終わりだ――マジックの眼が飛空艇から飛び出して行く四つの人影を認めた。
「マジック様ー! また来ますからねー!」
 落下傘を開いて叫ぶのは山南ケースケ。
「はいはい。いつでも待ってるよ。山南君」
「僕はあんまり来て欲しくないけどね」

「うー、マジック様の勇姿を見れたのは幸いだったが、負けたのは悔しいね……」
「アンタ、まだそんなこと言ってるんですか」
 山南ケースケのマジック好きに呆れるツッコミ担当山崎ススム。山南、山崎、永倉、斎藤の四人は伊東カシタローに呼ばれたのだ。
「入ります。伊東くん」
「来たか――それにしても情けない。あんな奴らにむざむざやられるなんてな……これからは、俺が指揮を執る!」

後書き
永崎藩という架空の藩が舞台のなんちゃって時代劇シリーズです。
『ナガサキ対壬生!』の壬生というのは、壬生の心戦組という意味です。
けれど、カッシー(アス)は何を企んでいるのでしょうかねぇ……。
2018.02.21

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