ムッツリ侍のストーカー日記

 これは、心戦組の土方トシゾーの日記の一ページである――。

『男前土方の純愛日記』も、今日で七十ページとなる。
 今日もあいつが酷い目にあってないか見張る。
 それが俺の役目だ。
 赤の番人、リキッド。
 あいつの回りには、あいつを狙ってる奴らがうろうろしている。
 隣の獅子舞、原田、俺様気質のブラコン総帥に至るまで――。
 いつか全て俺が片付けてやる!
 俺は激しく歯ぎしりをする。
 そうしなければやっていかれないのだ。
 ああ、でも、リキッドは優しいから、あんな奴らでもいなくなると悲しむだろうな。
 俺は、リキッドを泣かせるようなことはしたくない。
 俺がリキッドを泣かせるのは嫌だ。
 そんなことをしたら、俺は切腹する。
 リキッドは、俺の……初恋の人だからな。
 今まで士道にこだわってて、色恋沙汰は邪魔なだけだと思っていた。
 けれどリキッド。おめぇによって変わった。
 だから――今日も張り込みをする。
 別に、やましいことなんてないぞ……!
 そりゃ、うっかり着替えのシーンや入浴シーンのお宝映像を見られれば目の保養にはなるが……。
 断じて、不純な動機を持ってるわけじゃないぞ。
 原田や獅子舞とは違うんだからな。
 けど、リキッドのピンクのエプロン姿はいつ見ても可愛いなぁ。
 フリフリエプロンが似合う成人男性なんてそうはいない。
 思わず食っちまいたいぐれぇだ。
 リキッドがあんな姿で、
「トシさん。お風呂にしますか? ご飯にしますか? それとも――俺?」
 と、上目遣いに訊かれた日には。
 思わず押し倒したくなるだろうが!
 それが健全な男というものだ。
 それが俺の愛だ。
 だが、今は遠くから四六時中眺めるだけで我慢する。
 リキッド……大好きだぜ……。
 でも、今はやたらパワフルな子供と犬と、ドメスティックバイオレンスな姑がいる!
 畜生!
 ブラコン総帥のシンタローめ!
 リキッドの隣は俺に決まってるだろうが。
 さっさとそこから離れろ!
 でねぇとおまえの命、保証しねぇぜ!
 ああ、俺の愛刀。
 まさか色恋沙汰で使う日が来ようとは……!
 名刀正宗だ。
 そこらへんのものとは出来が違う。
 これでシンタローの首をばっさり落としてやる。
 ――まぁ、あんな奴でも、いなくなればリキッドは泣くだろうな。
 泣いたリキッドはさぞかし可憐に違いない。
 未亡人てのも、悪くねぇよなぁ……。
 …………。
 何考えてんだ、土方トシゾー!
 相手は男だぞ。
 どんなに可愛くても、どんなに可憐でも。
 俺は衆道の道まっしぐらか?!
 ……それもいいかもなぁ。
 ああ、リキッド。
 おまえを抱けるなら、俺は本望だぜ。
 ああ、あっちでは今朝飯囲んでんな。
 羨ましいぜ。
 是非あっちへ行きたい。
 まずはブラコン総帥を倒して冥府に送ってからだけどな!
 リキッドは俺の理想の女だ。
 男ってのが間違ってるんだ。
 あんな可愛い顔して!
 ヤンキーだったことがあるなんて信じられねぇぐらいだぜ。
 ただ……ヤンキー時代の写真を見せてもらったことあるけど……。
 なぁんにも、感じねぇんだよな、俺は。
 やっぱりリキッドは今の方がいい。
 ライバルは大勢いるけど、それでも!
 今が盛りの二十歳のリキッドが好きだ!
 願わくば、ずーっとずーっと、若いままでいてくれ。
 俺が年を取ってじじいになっても、世話してくれたら俺は嬉しい。
 そして、リキッドの顔を見て天国へ旅立つんだ……。
 素晴らしい人生設計だな。
 そして、リキッドも後追い自殺なんかしてくれたら最高だな。
 そしたら、天国で俺と一緒に暮らそう。
 あ、でも、番人は死なねぇって、どっかで聞いたことあるな。
 じゃあ、俺も番人になってやる!
 待ってろ、リキッド!
 男を磨いて帰ってくるからな!
 シンタローに我慢しないで済むように、俺が守ってやる。
 適度に筋肉のついた、しなやかな体。
 あれを抱きすくめたい。
 俺は、俺は……。
 日記に書くのも恥ずかしいぐらいだが……。
 俺はおまえが欲しい。
 結婚してくれとは、まだ言えないが。
 今のこの純粋な恋心がうつろっていくのが怖い。
 ああ、でも、一晩だけでいいから、あの華奢に見えて結構いいガタイを好きにできたら――。
 男、土方トシゾー、生涯に一片の悔いなし、だぜ。
 あ、あれ?
 俺、原田や近藤さんに似てきてないか?
 原田はともかく、近藤さんに似るのは嫌だな……。
 あの男、いつもソージに貢いでいるだけだもんな。
 恥を知れ!
 そんなもん純愛ではない。
 純愛とはこう……好きな人をじいっと物陰から見るとか、何かそんな風なものだ。
 いけない妄想をしてしまうこともあるけれど、その度に俺は心の中でリキッドに百回詫びる。
 でも、いつかは――。
 いつかは後朝の別れをリキッドと体験したいというのは、叶わぬ望みなのだろうか……。
 また今日もどこかへ行くらしいから早速ついて行かねば!

 …………。

「うっわ。きもっ。土方さんてばそんなこと考えてたんだ」
「というか、よく見つけてきたね、ハジメちゃん」
「当分遊ぶネタには困りませんね」
「いたんだ。ススムちゃん」
「どうしたんだい? 斉藤くん、山崎くん、永倉くん」
「落ちてた土方さんの日記読んでたんだよ。山南さん」
「そんなものより、私はマジック先生の日記が読みたいね」
((うわっ! 出たよストーカー二号!))

2011.4.3

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