ラストダンスは私と

 アスの体がかっと光った。
「うわっ、目が、目がー!」
 シンタローが目を瞑った。瞼を開くと、そこにジャンとアスの姿はなかった。
「ジャンさん……アスさん……?」
 ソージの声に心細さが混じる。シンタローにもジャンとアスがどこへ行ったのかわからない。
「畜生! どこ行ったんだ! あいつら」

「……うっ」
 ジャンが呻く。彼の推察が正しければ、ここは異次元。ジャンとアスしか来られない場所である。
「気が付いたか」
「――アス……」
 ジャンの声は掠れている。何だろう。頭がくらくらする。どこか打ったらしい。
「ふん……ひ弱になったな」
「違う! 俺は強くなった! ……強くなれた」
「サービスのおかげか」
「それもあるけど……」
「あの男を愛してるなんて言うなよ」
「愛してるよ! でも、それだけじゃなく……お前のことも愛してる」
 アスが複雑な色をその瞳に浮かべた。
「一番の悪党は一番悪党らしくないものなのだな」
「お前だって悪党じゃないか!」
「……違いない」
 アスは自嘲するような笑みを浮かべた。
「俺を愛していると言うのなら……証拠を見せてくれ」
「証拠……」
 ジャンはアスに近寄る。そして、己の唇をアスの唇に重ねた。

 貴方に愛の口づけを――。

「……うおっ!」
 黒い靄がアスから出て行って――空の彼方へと消えて行った。ジャンが唇を離す。
「ジャン……」
 アスが、ジャンの口づけに酔ったようだった。
「大丈夫か? アス」
「ああ……頭の中の靄が晴れたらしい……」
「アス、俺はお前を――」
「いいんだ、ジャン。いいんだ――お前はサービスのところへ行け」
「お前は?」
「俺はここに残る。……ジャン。サービスはお前より早く死ぬぞ」
「――わかっている。だから、死なせないようにする」
「俺は、期待するだけ無駄だということだな」
「そんなことない!」
 ジャンが強調するように叫んだ。
「お前も――愛する者を見つけるんだ」
「お前以外に愛する者など……」
「絶対いるはずだ」
「だといいがな……」
 アスは力なく笑った。
「やってみるがいい。ジャン。サービスを永遠に生かすことを。けれど、何らかの手違いでサービスが亡くなったその時には……俺とラストダンスを踊ってくれ。未来永劫」
「――わかった」
 ジャンは、昔のアスが戻ったことを心の底から喜んだ。
「さぁ、元の世界に帰れ」
「……ありがとう!」
 ジャンの体は透明になり……異世界から元いた世界にワープした。

「ジャン、ジャン……」
 体を揺さぶられる感覚がする。ジャンは薄く目を開ける。そこには長髪を一つに結んだ、見慣れた男がいた。沖田ソージもこちらを覗き込んでいる。
「シンタロー、ソージ、無事か……?」
「ああ。――お前が消えた時はびっくりしたぜ」
 シンタロー……アスの、影だった男。しかし、性格は全然違う。シンタローは彼なりの道を歩み始めた。そして、ジャンも――。
「行こうか。もう、全て終わったよ……」
「何言ってんだ。これから、始まるんだぜ」
 終わりの始まりか――ジャンは眩しそうに目を眇めた。確かにそう宣言したシンタローは眩しかった。
「シンタロー!」
 ミヤギ、トットリ、アラシヤマ、コージの声がする。彼らはシンタローに駆け寄って行った。
「無事じゃったか!」
「――お前らもな」
「特大スワン号が暴れ出した時はどうしようかと思ったべけどな」
「だっちゃ。でも、パプワくんが助けてくれたっちゃ。皆とも力を合わせてくれたっちゃ」
「お前ら……」
 シンタロー達はそれぞれに抱き合った。アラシヤマなんか感激でおんおん泣いている。
「――結構いい場面じゃないですか」
「だな」
 ソージの言葉にジャンが頷く。
「あの馬鹿局長、死んでないといいですけどね」
「近藤さんか。……それはないんじゃないの?」
 ああいうタイプ程、案外しぶとく生き残るものだ。ジャンはそう思った。

「シンちゃん、シンちゃーん!」
「シンタロー!」
 グンマとキンタローも駆けて来る。その後から、ハーレムと近藤イサミが。ロッド、マーカー、Gも――リキッドまでいる。近藤とソージ以外の心戦組の面々も。――それから、パプワやチャッピーも。
「ご無事なようっすね。シンタローさん」
「貴方に何かあったら馬鹿弟子が煩いところでしたよ」
 ロッドとマーカーが言った。寡黙なGも微笑んでいる。だが、ミヤギが今までの経緯を詳しく語ると、シンタローの表情がみるみる険しくなった。
「おら、グンマ! てめぇのせいでこっちも死人が出るとこだったんだって?!」
「ごめんってば、シンちゃ~ん」
「グンマのせいばかりではない。俺のメンテナンスも甘かったんだ。それに、俺達は素早く避難したからな」
「ほう……キンタロー、グンマを庇うのか。お前ら、いい感じじゃねぇか」
「な……何を馬鹿な……俺には心に決めた相手が……」
 キンタローはハーレムの方を見た。ハーレムはきょとんとしている。ハーレムがキンタローの気持ちに気付くのは、ずっと先になりそうだ。
「シンタローさん、ジャンさん、ソージさんも、大丈夫っスか? 役に立てなくてすいません」
 リキッドが済まながる。責任感の強い彼のことだ。これでも赤の番人か!と、自分を責めたりもしただろう。
「いやぁ、俺はおめぇなんか最初からあてにしてねぇし」
「シンタローさん!」
 リキッドが笑いながらシンタローにつっかかる。わははははは、と明るい哄笑が響いた。遅れてマジック、サービス、高松もやって来た。皆は喜びながら城を後にした。

 その後――壬生の将軍職は、殺された前将軍の甥が引き継いだ。後の世に、彼は名君と呼ばれた。壬生はますます豊かに栄えた。
 マジックも藩主として見事に永崎を治め抜いた。シンタローもパプワやコタロー達と力を合わせて、よく頑張って永崎を外交的で満ち足りた藩にした。
 壬生と永崎は正式に平和条約を結んだ。心戦組も、永崎に協力することになった。そのことで一番踊り狂ったのが山南ケースケであろう。
 ――終わり良ければ全て良し。なべてこの世はこともなし。

後書き
永崎藩という架空の藩が舞台のなんちゃって時代劇シリーズです。
ジャンサビなんだけど、ジャンアスみたいだなー……。ジャンて結構多情なのかね。
時代劇シリーズはこれで一応一段落です。これから続き書く機会あるかどうかわかりませんが。
2018.04.22

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