アラシヤマの子供達

 アラシヤマとウマ子が結婚してから、十年あまりが経った。
 アラシヤマはウマ子の実家、原田家の養子になり、『原田アラシヤマ』になった。
 ウマ子の輿入れ先が決まって、原田家の両親は泣いて喜んだという。
「アラシヤマさん、ウマ子をお願いします」
「……男顔負けに暴れん坊じゃったウマ子が結婚とは、めでたいのう」
「あんさんら、わてにウマ子はんを押し付けようとしているのとちゃいますか?」
 何はともあれ、二人は結ばれた。
 子供もできた。双子である。一人は男の子で、一人は女の子だ。原田の家はますます盛えるであろう。二人とも、二の腕に母親譲りの痣がある。
 男の子の名前は原田ウズマサ、女の子の方は原田サナ子。

 両親達がパプワハウスにいると聞いて、アラシヤマの子供達が駆け込んできた。
「こんにちはー」
 ウズマサとサナ子が飛び込んできた。
「なんどすか? 行儀の悪い」
 ウズマサとサナ子達の父親、アラシヤマがそう言った。
「まあまあ、子供は元気が一番じゃけえ」
「せやけど、ウマ子はん……」
 アラシヤマは、子供達の母親にして妻、ウマ子の方を振り返った。
「ここは、シンタローさんのお宅どすえ」
「アラシヤマ様……ここはパプワ様と私達のおうちですが」
 パプワの奥さん、くり子がツッコんだ。
「誰のでもいいけん、こんにちは。パプワ殿、くり子殿、シンタロー殿、伯父上殿」
「おお、立派な挨拶じゃ。ウズマサ」
 彼らの伯父、遊びに来ていたコージがウズマサの頭を撫でた。
 ちなみに、ウズマサはウマ子に似た逞しい体を持っている。母親似だ。
 サナ子は……あれがアラシヤマとウマ子の娘かと思うほど、可憐で可愛い。
 サナ子の名は龍馬の恋人と言われている『千葉さな子』からとった。
 新撰組(心戦組ではない)の敵の恋人の名を自分の娘につけていいのか、と土方トシゾーに訊かれた時、ウマ子は、
「わし、坂本龍馬も好きじゃけえ」
 と言ってのけた。
 それはともあれ、サナ子は、シンタロー達に可愛がられている。
「んー、サナ子ちゃん、大きくなったなあ」
「それ、前にも聞いたよ!シンタローさん」
「よし、シンタローおじさんが遊んでやる」
 シンタローは、サナ子の体を高々と上げ、回し始めた。サナ子は、きゃっきゃっとはしゃいでいる。
「サナ子!わてのところに来なはれ!」
「ははは、焼いとるのぉ、アラシヤマ」
 コージの言葉に、
「そうじゃな……サナ子に」
 ウズマサは溜め息混じりに答えた。
「サナ子、シンタローはんはわての心友どす。近づいたらあきまへんえ」
「はーい……シンタローさん、下ろしてくれる?」
「ちっ。アラシヤマ、余計なこと言うんじゃねぇよ」
そう言いながらも、シンタローはサナ子を下ろした。サナ子はアラシヤマに向かって抱きつく。
「サナ子ちゃんは、一体誰に似たんだろうなあ」
 シンタローの感慨に、
「わての娘ですよってに」
「わしの娘でもあるけん」
 ウマ子が笑いながら割って入った。
「サナ子はわしのこまい頃にそっくりじゃけえの」
 じゃあ、サナ子が大きくなったら……ウズマサ顔負けのムキムキに……。
「いっ、嫌だっ!そんなの嫌だっ!」
 シンタローが頭を抱えた。
「確かに、見たくはない未来予想図どすな」
 アラシヤマの目が虚ろになっている。
「サナ子は将来、ウマ子みたいになるのか……楽しみじゃのう」
 コージだけがうきうきしていた。
「この筋肉マニアが……!」
「ははは、まあまあ」
 パプワがシンタローをたしなめる。
「パプワ、おまえはどう思う?」
「サナ子の未来か。サナ子はウマ子のようにはならんと思うぞ。なっ、ウマ子」
「そうじゃな」
「な、何で……?」
「何故なら、サナ子にはウズマサがいるからじゃあ。わしのように一人で体を鍛える理由がない」
「ウマ子……そばにいて守ってやれなくてすまんのぉ……」
「ニーニ……別にニーニのせいだけではないけん」
 ウマ子が、今にも泣き出しそうなコージを慰めた。仲のいい兄妹である。ウズマサとサナ子のように……。
「飲み物持ってまいりましたわ~」
「おお、すまんの。くり子殿」
 それは、くり子が作った、暑さにも強いハーブのきんきんに冷えたお茶であった。
「おいしーい」
「うむ」
 サナ子とウズマサは、夢中で飲み干した。
「ときにパプワさん、息子さんはどちらに?」
「ああ、リキッドと一緒に木の実を取りに。サナ子達が遊びに行けば、喜ぶよ」
「ようし!それじゃ、わしらも行くか?」
「さんせーい」
 ウズマサとサナ子は出て行った。それを見送ったアラシヤマは、ほうっと息をつきながら呟いた。
「わて、子供があんなに可愛いとは思いまへんでしたわ。ウマ子はんと結婚するまで」
「イヤじゃのう。アラシヤマ」
 筋骨隆々の嫁が、恥じらいながら身をくねらせる。はっきり言って、あまり見たい光景ではない。
「アラシヤマ……子供がいるってことは、これとやったんだろ?」
 シンタローは親指で、もじもじしているウマ子を指す。
「……よくできたな」
「ははは、初夜はほとんどゴーカンか思いましたわ」
 それも、今となっては笑い話である。
「でも、結果的には、ウマ子はアラシヤマと結婚して良かったのぉ」
 コージがくり子のくれたお茶のお代わりをジョッキで飲み下しながら、慈愛溢れる顔をした。
 ウマ子がこう締めくくった。
「ニーニの言う通りじゃ。愛する夫がいて、二人の子宝にも恵まれ、毎日が楽しいのう」

 途中、特戦部隊やウマ子以外の心戦組の面々に会ったが、この島では日常茶飯事である。
 怪しげな生物にも会ったが、この島では日常茶飯事である。
 ウズマサとサナ子は、ようやく森へとたどり着いた。
「あ、いたいた。リキッドさーん」
 サナ子が金と黒の髪の毛を持つ青年に、手を振った。パプワの息子も一緒である。
「ジュニア、一緒に遊ぼう!」
「うん!」
 ウズマサとジュニア(パプワの息子)は、二人して行ってしまった。
「サナ子ちゃんも行かなくていいのかい?」
「だって、サナ子……リキッドさんに言いたいことがあるから」
「なんだい?」
「あのね……サナ子大きくなったら……リキッドさんのお嫁さんにして欲しいの」
「え……?」
 リキッドは絶句した。ウマ子をアラシヤマに押しつけることに成功したと思ったら、今度はその娘に言い寄られるなんて。
 しかし、確かにサナ子は可愛い。上手く行けば、大変な美少女になるかもしれない。ウマ子みたく、途中で道を踏み外さなければ。
「それは、サナ子ちゃんがもっと大きくなってから考えるよ」
「うん!待ってる」
 木漏れ日に光ったサナ子の笑顔が眩しい。どうぞこのまま育ってほしい……リキッドは見惚れながら、そう思わずにはいられなかった。
 だが、永遠に生きる赤の番人が、嫁を娶るなんてことをしてもいいのだろうか。もっと他に、いい相手があるのではないか。
 ――それもいずれは考えなければならないかもしれない。
「サナ子ちゃん。良かったら木の実取り、手伝ってくれないかい?」
「了解!」

後書き
パプワ島の次世代の話です。主人公はアラシヤマとウマ子の双子の子供達ですが、サナ子の方が目立ってますね。サナ子が主役と言ってもいいほど。
標準語と方言がちゃんぽんですね……サナ子は標準語を使うことを、前から決めてました。けれども、家族の間では、方言なんでしょうね。
ウズマサは京都の太秦から取りました。高校の頃、初めて見た時、『うずまさ』って、読めなかったんですけどね。
サナ子の名前は、ウマ子が作中で説明した通り、『千葉さな子』です。
千葉さな子の名前を知ったのは、るろ剣のコミックスの人物制作秘話から。勉強になりますね。あれ。
特戦部隊や心戦組がモブ扱い……すみません。
ジュニアは、正確には、『パプワ・ジュニア』です。
2010.6.13

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