キンタローの初恋 11

 ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ……。
 卑猥な水音が辺りに響く。――ハーレムが言った。
「はい、おしまい」
 はい、おしまいって――。
「おい、ハーレム……それはないだろ?」
 俺が文句を言うと、ハーレムが艶めかしく笑って答えた。
「冗談に決まってるだろ? ――お前は俺を……兄貴との夢の中から救ってくれたんだからな」
「わかってりゃ、いい……」
 ドサッ。
 俺はハーレムに口づけた勢いのまま、ハーレムをベッドに押し倒した。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
 ハーレムの息が荒い。乱れた着服がセクシーで、俺もどうにかなりそうだ。俺はハーレムの下着に手を入れる。そこはもうぐちゃぐちゃになっていた。
「濡れてる……」
「言うのはよせ……」
 ――事実を言ったまでなのにな。今、ハーレムの機嫌を損ねて、寂しく一人寝なんてことになったら残念だから、もうその話題には触れないことにした。その代わり、ハーレムのペニスを愛することにした。
「は……はぁん……」
 ハーレム。お前は気付いていないかもしれないが、その声は雄を昂らせるぞ。
 ああ、だからか。ハーレムがやたらとモテるのは。リキッドという男には抱かれたんだろうか。それとも――ハーレムの方が抱いたんだろうか。気になる。俺は嫉妬の虜となった。
 それから、シンタローと寝たと言うことも、面白くない。今だって、俺は、シンタローにそのことで恨んでもいる。他のことは、もう水に流したが。
 ハーレムがシンタローに対して憎からず思っているのも、気に入らない。
 ――それよりも、せっかく、ハーレムが俺に抱かれるのを許可してくれたんだ。味わわなくては勿体ない。
 ずるり、とズボンごと下着をずらした。
「はぁっ、キンタロー……」
 ん。ようやく俺の名前を呼んでくれたか。嬉しくなって俺は、とろとろに溶けているハーレムのペニスを口に咥えた。ハーレムの喘ぎ声が漏れる。
 青い芳香。ハーレムのは俺を酔わせる匂いだ。味も思ったより美味しい……。
 数々の男どもがハーレムに夢中になるのも、わかるな……。
「あ……あん……」
 ――そうだ。あそこはどうなっているんだろう。俺はハーレムの脚を己の肩にかけた。辛いかな。我慢してくれ。ハーレム。
 そこは、綺麗なピンク色だった。俺が夢に見ていた通りだ。ここから排泄物が出て来るなんて、到底信じられん。俺の初めてがお前で良かった。ハーレムの初めてが俺でなくとも。
 ハーレムを四つん這いにして、俺はそこをぺろっと舐めた。
「なっ、キンタロー! てめぇ、舐めるな……汚ねぇだろうが!」
「俺にとっては全然汚くないがな」
「そうか……まぁ、そう言う、俺の穴を舐めたがる男は結構いたからな」
 ハーレムの言葉に俺はムッとする。誰なんだ。そいつは――! わかったら残らず殺してやるのに……。いや、そんな男どもを忘れるぐらいにハーレムを俺に夢中にさせるのが先か……。
 俺は丁寧に舌でアナルを清める。ハーレムが荒い息と共に嬌声を上げる。
 指を入れなくても、ほぐれて行くようだな……。
 俺は、ハーレムのアナルにペニスを入れようとした。……やはりきつい。少し早過ぎたか……。
 俺はペニスの先でハーレムのアナルを愛撫する。ほんの少しずつ、ハーレムの穴は解けていった。
 そろそろ、いいだろうか……。
 俺は用意していたコンドームをつけた。精液は、お腹を壊す原因にもなるみたいだ。ハーレムなんてもう年だから……。
 ずっ、ずずっ……。
 俺はハーレムのアナルに出し入れする。抽挿って言うんだっけか。……ジャンが貸してくれた本で見た言葉だ。ジャン……あの男もなかなか変なことを知っている。
(俺さぁ、昔はもっと清らかだったんだぜ。……サービスに作り替えられたのかな)
 はっきり言おう。ジャン。それはサービス叔父貴のせいではない。お前にも素質があったんだ。
 そして、俺も――。
「ひゃっ……はぁっ……ん……!」
 ハーレムが達すると、俺も中で弾けた。俺はハーレムの体を仰向けにし、愛しい男が出したものを舐め取る。その時、ハーレムが妙なことを言った。
「キンタロー……お前の愛撫は、ルーザー兄貴のに似てるな……」
 ハーレムはずっと、父さんと俺の愛し方を比べてたんだろうか。それも、面白くない……。
「ハーレム……言うな……」
「まぁな。野暮だった。――だけど、お前の方がずっと優しい……」
 今度は俺はつい、にやけてしまった。ハーレムが俺の愛撫を気に入ってくれたなら、俺も嬉しい。
 ――俺は、コンドームを外して、捨てた。もっとハーレムを愛したかったが、コンドームがもうない。ハーレムの喘ぎ声や、汗や精液の匂い、そして、色っぽい顔を思い出しながら、己を慰めることにしよう。
 ピロートークの時、ハーレムは俺に訊いた。
「キンタロー……お前、初めてか?」
「そうだが?」
 ハーレムは俺が浮気したことがあると勘繰っているのだろうか。ちょっと心外だな。
「俺を疑うのか? ハーレム」
 俺がそう言うと、ハーレムがくくっと笑った。
「いや、あんまり上手かったから、ちょっとな……」
 ハーレムが俺の性技を上手いと思えたなら、それは、ハーレムへの愛の結果だ。ハーレムは何も言わないが、彼を無理矢理に犯したヤツもいたそうだからな。――高松によると。
 そんな輩よりは確かに気持ち良くさせられただろう。高松は言っていた。
(ハーレムはね……あれでもセックスには苦労させられているんですから、もし、キンタロー様があの男を愛していると言うのなら、優しく満足させてあげてください。私もキンタロー様は好きですが……ハーレムとは長い付き合いなんでね。一応、彼の幸せを祈っているんですよ)
 高松は知らないのだろうか。シンタローがハーレムに恋していることを。
 いや。高松は絶対に知っている。知った上で、俺をけしかけているのだ。きっと――。でも、高松がハーレムの幸せを望んでいるのは疑うべくもない。高松は、自分でそう見せたがっている姿より、ずっとずっと優しいから――。
(それに、私はね――キンタロー様の幸せも祈っているんですよ……)
「ハーレム……疲れてないか?」
「そうだな。ちょっとな……年だぜ」
「それにしては若く見えるが……若作りか?」
 このやろ、とハーレムは俺の頭を軽く小突く。
「いい男だな。キンタロー。……お前がモテる訳がわかったぜ」
「ハーレムだってモテてるじゃないか!」
 ちょっとムキになって俺が怒鳴った。おー、こわこわ、とハーレムが耳を塞ぐ。
「あ、すまん……だが、アンタが自分のことあんまり知らなさ過ぎるから……」
「俺がモテてることは、自分でも知ってるぜ」
「だろうな。アンタは食わせ物だから……俺のことも一目惚れに陥らせるし」
「お前は、俺に一目惚れしたのか? へぇ……」
 ハーレムは意外そうに目を瞠った。ほうら、ハーレム。やっぱりお前はわかっていない。その一顰一笑が俺や、他の男や女を虜にしていることも。――俺だって自分のことを知ってはいないのかもしれないが。
「そりゃ、刷り込みっていうヤツじゃねぇのかね。――モク、吸っていいか?」
「いいけど……あまり喫煙し過ぎるなよ。ニコチンは体に毒だ」
「こう言う口うるさいところは、マジック兄貴に似て来たよな。お前。――血かな」
「アンタと同じ血も流れているんだがな……」
「そしてルーザーのもな。何だい。お前。日に日にルーザー兄貴に似て来やがって。だけど、お前の方が可愛いぜ」
 ハーレムは空いた手で俺の頭をぐしゃぐしゃにする。でも、可愛いと言うのが気に入らない。俺の方が精神年齢は上だと思うからな。
 ――ハーレムもたまには叔父らしいことも言う。だけど、俺は、父さんが羨ましいと思った。ハーレムより年上で、そして多分、ハーレムの初めての相手で……死に際も見事だった、父さん……。
 本当に俺は、父さんみたいになりたかった。あまり父さんに似過ぎていると、高松は涙と鼻血を流していたが。
 でも、俺はまだまだ父さんには及ばない。優しくなることも、非情になりきることも出来ない。けれど、俺の、ハーレムへの愛は真実だと思うから――。
「ハーレム……また抱いて、いいか?」
「今日か? まぁ、別にいいが――」
「いや、今日はもう終わりだ。いつか、さ――」
「そうか。……もうこんな時間か。朝だな。俺らはこんな時間まで愛し合っていたのか……」
 そういえば、外が明るんでいる。白っぽい光が窓から差し込んでくる。俺は、ハーレムの煙草の匂いまで愛しく思えた。
「ハーレム」
 俺はハーレムから煙草を取り上げて、口にした。こんなもの、旨くはないが、ハーレムが今まで口にしていた物だと思うと、甘く感じる。――間接キスってことになるんだろうな。それは、案外嫌いじゃない。
「返せよ」
「ハーレムが肺がんにならないように、俺が代わりに吸ってやるんだ」
 ハーレムが、「この野郎」と笑いながらまた俺の頭を撫でる。俺だって、こう言う屁理屈ぐらいはこねくるようになったんだ。成長したろ? なぁ、ハーレム……。あの頃――初めて会った時から。
 俺は、初対面の時のハーレムの言葉を思い出していた。
『俺はハーレムだ。お前の叔父で味方だ。宜しく頼む』

後書き
いやぁ、本懐を遂げられて良かったね、キンタロー。
ここまで辿り着けて、私もほっとしました。
でもキンタロー……ハーレム隊長は多分胃腸は丈夫よ(笑)。
2020.03.19

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