アルスとユナの結婚式

「ねぇ、アルス。あたし達、大きくなったら結婚するんだって」
「へぇ~、誰から聞いたの? ユナ」
「ヨッパライダーのおじちゃまからよ。でも、あたし、アルスとだったら結婚してもいいよ」
「ああ。僕も相手がユナだったらいいよ」
 それは、子供の頃の他愛のない会話。

 そして数十年後――
 ベルが鳴り、ライスシャワーが飛ぶ。アルスとユナはそれぞれ純白のタキシードとドレスに身を包んでいる。
「きゃーっ」
 ユナは喜んで叫ぶ。テントウ虫もしゃしゃり出て、サンバを踊り出す。
「ねぇ、イトウちゃん、あたし達も素敵な殿方と結婚できるといいわね!」
 イトウはピンクの巨大カタツムリである。
「あったりまえでしょ! タンノちゃん! あたし達いい女だもんねぇー」
 網タイツからすね毛をはみ出させている鯛魚人族のタンノが言った。
 イトウとタンノは、「ねぇー」と頷き合う。
 ブーケが飛んで、イトウとタンノはぶつかり合う。
「あーら、イトウちゃん、譲ってくれないのかしら」
「タンノちゃんこそ」
 女――いや、オカマ(?)二人は火花を散らしていた。
「もう、タンノくんもイトウくんも相変わらずなんだから」
 ユナがくすくすと笑った。
「アルスさん、ユナさん、おめでとう。これ、ぼく達から」
 カンガルーネズミのエグチとアライグマのナカムラが花飾りを贈ってくれた。
「まぁ素敵。ありがとう。エグチくん、ナカムラくん」
「えへへー」
 ユナが花輪を頭に乗せて飾ると、わっと会場が盛り上がった。
「素晴らしい結婚式じゃのお。ヨッパライダー」
 紫のマントの梟が喋る。
「そうじゃな。カムイ」
 ピンク色のお花見怪獣ヨッパライダーが答える。
「まだ呑んでおるのか?」
「このめでたい日に呑んで何が悪い」
「しかし、おまえさんは、二日酔いがひどいからのぉ」
「黙っとれ、カムイ」
「それにしても、アルスのかっこいいこと。ユナの綺麗なこと」
「おお。そうじゃな」
 ヨッパライダーは鼻を啜り、涙を引っ込めようとした。
「いいんじゃよ。ヨッパライダー。泣きたい時は泣いても」
「……あの小さかったアルスとユナが結婚とはなぁ……決まっていることと知ってはいても、感無量じゃ」
「仕方ないのぉ……今日は無礼講じゃ。ヨッパライダー、おまえさんもたんと呑め」
「すまないなぁ……カムイ。年のせいか涙腺が緩んでのぉ」
「おまえさんは、人間よりずっとずっと長い間生きてるからのぉ」
「ああ」
 ヨッパライダーは酒瓶を傾けた。そして、ぷはーっと酒臭い息を吐く。
「後は、ユナが後継ぎを産んでくれたら、言うことはないんじゃがのぉ」
「ま、そればっかりは、わしにもわからんことじゃて。神に祈るしかないのぉ」
「そうか……そうじゃな」
 ヨッパライダーはまた鼻を啜る。
「ところで……また島が沈んだんじゃと?」
「ヨッパライダー……そういう話題は、今日の式にはちょっと合わんのじゃないかな」
「おお、そうじゃな。すまんすまん」
 ヨッパライダーは、扇子を開いた。
「さぁ! 皆の者! 今日はめでたい婚礼の日じゃ! 精一杯祝おうではないか」
「ヨッパライダーも張り切ってるな」
 アルスの言葉に、ユナも微笑んだ。
「俺達に子供が出来たら、一体どんな子かな」
「そこまでは考えてないわ」
 アルスの言葉に、ユナがはにかんだ。
「でもね……もし男の子だったら……名前だけは決めてあるの」
「へぇ……どんな名だい?」
「『パプワ』って言うの」
「へぇ……俺の父さんの名前か。いいね」
「それに、この島の名前でもあるし」
「いい名前だ。うん、いい名前だ」
 アルスは何度も頷く。
「ねぇ、アルスさん、ユナさん。二人でキスしてよ、キス」
 エグチがせがむ。
「ええっ?! 式の時にやったろ?!」
「こういうのはね、何度やってもいいものなんだよ」
 ナカムラが可愛くお願いをする。
「ねっ?」
「ぼく達も見たいな」
 巨大ミミズのシミズくんがねだる。
「アルス……あたしもキスしたいな」
「ユナ……」
 いつもと違う、大胆なユナに、アルスもどぎまぎしている。
「んじゃ、ちょっと目をつぶって」
「ん……」
 アルスとユナの唇が重なる。皆も騒ぎ出し、パチパチと拍手をした。
「ありがとう。ありがとう。みんな」
「これからもよろしくね」
 皆は温かい目で、新婚夫婦となったアルスとユナを祝った。
「よっ、アルス!」
「ユナちゃん、可愛いわよ!」
 アルスとユナは、嬉しそうに顔を見かわす。
「アルス達の子供の結婚式も見てみたいもんじゃのぉ」
 ヨッパライダーはまた泣いた。
「ヨッパライダー……それは必ず叶う。だから、泣くんじゃないぞ」
「カムイ……わかるのか? おぬしには」
「ああ。長老じゃからな」
「しかし、赤の一族はもう……」
「赤の一族にこだわらなくてもいいんじゃよ」
 カムイが羽根でヨッパライダーの頭を撫でた。
「アルスさん、ユナさん。おめでとうございます」
 ソネと、カイトとその息子イリエが、アルス達のお祝いに駆けつけてきてくれた。
「おお、ありがとう。ソネ、カイト、イリエ」
 アルスが喜んでそれぞれを抱きしめ合った。ユナもそれを見て、にこにこと笑みを浮かべていた。
「わーう」
「チャッピーも祝福してくれる?」
 ユナがチャッピーを抱き上げてそう言ったのに対して、チャッピーは、もちろん、というかのように明るく吠えた。

後書き
赤ん坊が産まれた後、アルス夫妻は『パプワ』という名前をカムイに申請します。
原作ではパプワの名付け親はリキッドです。
2011.7.15

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