過去と未来と

「な……なんでここにいるんだ! 獅子舞ッ!」
 土方トシゾーが、雄叫びを上げた。
 せっかく、ウマ子の目を盗んで、リキッドに会いに、パプワハウスへ来たというのに、そこにいるのは――獅子舞こと元特戦部隊ハーレム隊長とリキッド。
 リキッドがいるのは構わない。彼が目当てだったんだから。
 しかし。ハーレムがなんでこんなところにいるんだ?
「酒のつまみに、リッちゃんに料理を二、三種みつくろってもらってたところだよ。それより褌、おめぇこそなんでここに来た?」
「煮豆を持ってきたんだよ。リキッドには、いつもお世話になっているんでな」
「ほぉ……用事はそれだけかい」
「あ?」
「おまえ、リキッドに愛の告白するつもりだったんじゃないのか?」
「え? え?」
 リキッドはうろたえた。トシゾーが、ごほごほと咳払いをする。
「せっかくちみっ子達がいねぇんだ。大人の話をするのも悪くねぇだろ」
「そ、そんな……トシさんが俺のこと好きだなんて、冗談にも程があるっすよ」
「おまえ……結構鈍いんだな。さあ、どうするか決めやがれッ!」
 ハーレムが吼えた。
「で、でも、ここにはハーレム隊長がいるし――」
「ふん。おまえも昔から、モテる割には、腹が据わってねぇな。俺のことなんか気にするな」
「気になりますよ――」
 脳裏に浮かんだのは、ハーレムにされた色々なプレイの数々。それを思うと、リキッドは、自分が純粋ではないような気がしてきた。
「――トシさん、俺なんかに、俺なんかに!」
 そうして、トシゾーの顔を見て、狼狽の色を見せたかと思うと、リキッドは、だっと走り去った。
「リキッド!」
「まぁ、待て。俺の話も聞けや。二人きりになったことだし」
「呑兵衛と二人きりになるのは、気が進まん」
「一言多いぞ。まぁいい。俺がリキッドと会ったときは、あいつが十代の頃だった」
「そんな若いリキッドを知ってるなんて!」
「そのとき、リキッドは、バリバリのヤンキーだった。けど、あいつを見て、俺は思ったね。ああ、こいつは、蕾で、いつか花を咲かせるな、と。予想が当たって、今、リッちゃんは大輪の花を咲かせた、という訳だ。それを、みすみす他の男に渡したくないって気持ちは、わかるよなぁ」
「あ、ああ……確かに」
「だが、俺はもう、蕾の時分に味わい尽くしたからなぁ」
 ハーレムが笑う。
「き~さ~ま~。なんという破廉恥な真似を」
 トシゾーは、刀に手をかけた。
「物騒な真似すんな。侍。ここは、リキッドに選ばせるのも、悪いことではないと思うんだ」
「そうか……」
「行ってこい。おめぇが、あいつを、愛してるんならな」
「リキッドー! 今行くぜー!」
 パタンと、パプワハウスの扉が閉まった。
「後悔すんなよ……俺のようにな」

 島の大木の下で、リキッドは悩んでいた。
(どうしよう……好きだなんてハーレム隊長の口から言われるなんて……どうせなら、トシさんの方から――いやいや、だって、俺、男はごめんだし)
 でも、ヒーローのマウスと比べても、トシさんの方がいいかも、と思ってしまう。
 ハーレムとだったら、文句なく、トシさんの方が好意を持てるに決まっているが。
「やーほー。リキッドくん」
「やーほー」
「エグチくん、ナカムラくん」
「どうしたの? こんなところで」
「ああ、あの……ハーレム隊長、トシさんに、「リキッドに、愛の告白しに来たんだろ」て言ったんだ。それで、どうしていいかわからなくなって」
「で、ここに来たわけ?」
「ああ」
「そんなこと、もうみんな知ってたよー」
「リキッドくん、モテモテだねー」
「でも、俺には、口にするのもおぞましい過去が……」
「そんなの、関係ないよ。リキッドくんは、リキッドくんだもん」
「ぼくら、そんなリキッドくんが大好きさー」
(大好き……)
 本当に、胸キュンアニマルズは、心を癒してくれる。
「よぉ……」
「あー、トシさんだー」
「じゃ、ぼくら、他の場所に行ってるねー」
 エグチとナカムラは、去ってしまった。
「リキッド! 俺は、おまえの過去なんか気にしない!」
「えっ? えっ? 何を唐突に……」
「おまえがどんなことをされても、俺はおまえを一生守る!」
(え……っ! ええっ! これってプロポーズ?)
 だが、悪い気はしなかった。
(男なのに……変なの)
 ぷっと、リキッドが笑った。
「リキッド……おめぇ、笑ったな」
「うん。俺、男好きなわけじゃないけど――今のはちょっと、嬉しかった、かな」
「リキッド……」
 トシゾーも、感極まって、涙を浮かべているようだった。
「俺は、不埒な真似はしない。我慢する。おまえが、完全に、俺に心を開くまで。俺達には、未来があるからな」
「うん。うん……」
「士道に色恋沙汰は不要と思ってたが……こういうのも、悪くねぇもんだな」

「ちっ。この俺が身を引いてやったのに。中学生じゃねぇんだからよ。どっちも」
 ハーレムが呟いた。特戦部隊の面々は、草陰に隠れていた。
「いいじゃありませんか。ねぇ、隊長。寂しい夜は、俺があっためてあげますよ」
 ボウッ!
「邪魔なイタリアンは燃やしました」
 炎の使い手、マーカーが言った。
「ご苦労」
「それににしても、隊長としては、珍しいですね。今までは、邪魔する方に力を入れてたのに――」
 マーカーが指摘した。
「はっ! これからも邪魔するぜ! めいっぱい邪魔するぜ!」
 ハーレムは、全開で笑っていた。

後書き
はい。トシリキです。生涯でトシリキを書くことがあろうとは、夢にも思いませんでした。
はやみんさんのサイトに、影響されたかな?
おかしなところがあっても、はっきり言ってパラレルですから。
それから、ハーレムが美味しいところを持ってってますが、私の趣味です(笑)
ロッドがハーレムを口説いているのも、私の趣味です(笑)


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