十年後のエピローグ ロッドとハーレムが出会ってから、十年の月日が過ぎた。 ガンマ団がベルヒを自分達の領土としてから、ロッドはそこを離れ、いろいろな国を見て回った。その中には、イタリアのナポリもあったのだが―― (なんか、想像と違うな) と、思ったぐらいだった。まぁ、そんなものだろう。 そして今日、ロッドはガンマ団に入隊した。 しかも、ハーレムが直接の上司となる、ガンマ団特戦部隊へ。 (うーん。いい男だな、オレって。皮ジャンもよく似合うし) ロッドは、鏡の前でポーズを取った。 「おっと。こんなことをしている場合では。そろそろ行かなきゃ」 ロッドは部屋を出て行った。 「おはようございまっす」 「よう。おそよう」 「何ですか、ハーレムのオッサン。久々に人の顔見るなり嫌味ッすか?」 「誰がオッサンだ。ハーレム隊長と呼べ」 「わかりましたよ。ハーレム隊長。おっ。Gに飛龍さんもいましたか」 Gは何も言わず、頭を下げただけだった。 「飛龍? 私の父を知っているのか?」 「えっ?! じゃあ、アンタ、飛龍さんの息子? 道理で若いと思った。それにしても、飛龍さんにそっくりだなぁ」 「父とはどんな関係だ」 「子供の頃世話になったんすよ」 「隊長。この人は」 飛龍の息子が聞いた。 「ああ。ロッドと言う馬鹿者――違った、若者だ」 「なにげにひどいっすよ、ハーレム隊長」 「ふぅん。この男がか。父から話は聞いている。私は毛海龍(マオ・ハイロン)だ。コードネームはマーカー。宜しく頼む」 マーカーが手を差し出す。ロッドが何気なく握り返す。 「あちぃッ!」 ロッドの手が、マーカーによって焼かれた。 「ふ……気をつけることだな」 「あぢあぢあぢっ!」 ハーレムがバケツに入っていた水を頭からぶっかけた。 「――落ち着いたか?」 「まぁ、何とか……」 にしても、ひどいヤツだ。あの飛龍と血が繋がっているとは――外見は確かにそっくりだが――思えない。 「油断してる方が悪い」 マーカーが無表情で言った。 「ま、そりゃそうだ」 ハーレムも賛同した。 「ひどいっすよ! 言ってくれれば良かったのに! マーカーだっけ? コイツにそんな特殊能力があるなんて」 「特殊な力があるのは、おまえもだろ」 「そうだな。でなければ、特戦部隊に入れるわけないからな。ロッドとやら。おまえは何ができるんだ?」 人を小馬鹿にしたような薄笑いを浮かべながら、マーカーが言った。 「オレは風を操れる」 「ほう。是非見たいもんだな」 「そうか……いいか、見てろよ」 ロッドの周りから、冷たい風が起きた。 バサバサっと、壁に貼ってあった書類が鳴り、そこから剥がれ落ちた。 「もういいだろ。ロッド」 ハーレムがパン!と手を叩いた。 「いやいや。なかなか面白かった」 マーカーが皮肉っぽく手を叩く。 「ふっ、どうだ。オレの実力。まだまだこんなモンじゃないぜ」 「だろうな。でなければ、特戦部隊に入れるわけがない」 「おや。いやに素直じゃないの。マーカーちゃん」 「ちゃんづけは止めろ」 一触即発の空気が醸し出されたその時。 「止めておけ」 Gが間に入った。 「いいじゃねぇか。G」 「隊長……そう言いますが、部屋を滅茶苦茶にされたら堪ったものではありません」 Gが眉根を寄せた。 「ちっ。相変わらずお堅い奴め」 ハーレムは舌打ちした。どうやらGに頭が上がらないらしい。 それより、訊きたいことがあった。マーカーとの勝負は、一時お預けだ。 「ハーレム隊長。ギュスターヴは? 飛龍さんは?」 「飛龍は中国へ帰ったよ。代々続く山寺を継ぐんだそうだ。ギュスターヴはまだガンマ団にいるがな」 「へぇ……ギュスターヴもこの部隊なんでしょ?」 「いや、違う。ギュスターヴにはおまえらのような力はない。普通の人間だからな」 「じゃあGは?」 「ああ。こいつも能力の持ち主だ。ここではお披露目できないが」 「当たり前でしょう。そんなことをしたら、滅茶苦茶どころではすみそうにありませんよ」 (Gが能力者ねぇ……) ロッドは意外に思った。大人しく、無口で無害な男だとばかり思っていた。人を見かけで判断してはいけないということか。 尤も、強くなかったら、ハーレムに真剣に意見することなどは到底できないだろうが。 あのハーレムが素直に従ったとは……Gはどんな力を持っているのだろう。 「Gの力、見せてもらえませんか?」 「――外に出てみるか? いいか? G」 「いいでしょう」 「地爆波!」 Gの必殺技で、地面が割れた。 ロッドは口笛を鳴らした。 「すっげーじゃん。G」 「ああ。俺も初めて見た時は驚いたよ」 ハーレムが懐かしそうな目になるのを、ロッドは見逃さなかった。 「隊長とGって、長い付き合いなんすよね」 「そうだが」 「一体いつからなんですか?」 「――俺が学生だった頃からだ」 「うっわー。大昔じゃん」 「うるさい」 ハーレムは俊足でロッドの後ろに移動し、頭を小突いた。 「ねぇねぇ、その頃からイイ仲だったの?」 「――おまえもギュスターヴに似て来たな」 「後であの人にも会わせてくださいよ――でも、カマ掘られんのはイヤだな。オレ、十年前より更にイイ男になっちゃったもんね」 「十年前にもそんな下品な軽口叩いていたのか?」 「何だよ。絡むねぇ、マーカーちゃん」 「ふん。ちょっと父上と親しかったとはいえ」 「あ、マーカーちゃんてファザコン?」 「馬鹿言え」 「早速仲良くなったな」 「どこが仲いいんですか! ハーレム隊長!」 マーカーが抗議の声を上げた。 「オレは、マーカーちゃんと友達になれて嬉しいな。飛龍さんには助けてもらったから」 「私は友達なぞいらん!」 「孤高の人ってわけか。かっこいい!」 「いい加減にしろ」 ロッドとマーカーのやりとりを聞いて、ハーレムはニヤニヤ笑っている。Gは、黙ったまま突っ立っている。 「話は変わるけどさ」 ロッドがハーレムに向き直った。 「俺のコードネームも決めてくれない?」 「ロッドでいいだろ」 「えー。そのまんまじゃんか」 「文句があるなら、もっと面白い名前つけてやる」 「――やっぱロッドでいいや」 『ハーレム』という名をつけた親を持った隊長である。どんな珍妙なネーミングをされるかわからない。ロッドは引き下がった。 風が肌寒い。マーカーとGが帰った後だった。 ハーレムは、ロッドだけを話があると言って引き止めた。 「なんすか~? 告白っすか~? オレ、男でもいいけど。させてくれるんなら」 ロッドはへらへら笑っている。 「アホぬかせ」 ハーレムが厳しい表情になった。 これは真面目な話のようだ。ロッドの顔も引き締まる。 「おまえの兄貴分だった男、覚えてるな」 「ペンネのことっすね」 「そのペンネの墓参りには行ったか?」 「この間行ってきましたよ」 「どうだった?」 「どうだったって……普通の墓でしたよ。土の中からぼこっと手が出たわけでもないし」 「俺が聞きたいのは、そんなことじゃない。おまえはどうだったんだ?」 「どうって別に……墓前に花添えるついでに、ガンマ団に行くこと報告しましたよ」 「俺がペンネだったら、反対したろうな」 「ええ。でも、死人は静かなもんですから」 死者は語らない。語れたとしても、生きている者に対して文句は言えない。ロッドはそう思っている。 「それに……ペンネは、アンタ達とも馬が合いそうだから」 「――そうか。俺より、おまえの方がペンネのことについて詳しいから、きっとそうなんだろう」 「ゴンじいも死んだから、オレ、ゴンじいの墓にも行ってきましたよ」 「ゴンじい? そういえば、おまえの親代わりと言ったな。詳しくは聞いてなかったが。どんな男だ」 ロッドは、ハーレムに語らなければならないことがたくさんあるのを感じた。 それは、一日では終わらないだろう。 「ゴンじいというのはね――」 ロッドが話を始めた。 彼らはいろんな話をした。長いので、ピアスのその後についてだけ、かいつまんで書いて、キーボードを打つ手を止めることにしよう。 ピアスはイタリア軍に戻り、ポートの策略も何のそので、大佐に昇進したらしい。 そして――ハーレムとは手紙をやり取りする仲なんだそうな。 ピアスのどこが気に入ったか。そう問われたハーレム曰く、 「子供だったおまえを人質にする卑劣なところ。俺を化け物呼ばわりした正直さ。そして、部下の為なら敵に降伏するのも厭わないところだ」 それを聞いたロッドが噴き出した。 「ハーレム隊長って、イカもの食らいなんですね」 「やかましい」 ハーレムは睨んだが、ロッドはこたえなかった。 後書き 『ナポリを見て死ね』の後日談です。そちらの方も合わせてどうぞ。なんて、宣伝しちゃった(笑)。 マーカーの、毛海龍という名前はねぇ……炎使いのくせに、そして、父親が水苦手なくせに、何でこんな名前にしたかと言うと……かっこいいから(笑)。あ、いやいや。ちゃんと理由はあるんですよ。一族の長老がつけたとか。しかし、これはオリジナル設定なんだぁ。 でも、こんなに長くなるとは……やっぱり、他の話と独立させて良かった。 2009.12.4 |