IMITATION GOLD 「アンタが熱出すなんて珍しいですね」 高松の台詞に、 「うっせぇよ」 と、ハーレムがかすれ声で返した。 「ああ、あれですね。『夏風邪は馬鹿がひく』って言いますからね」 「てめえは一言多いんだよ」 ハーレムの声にも覇気がない。 「まぁいいですよ。それで……医務室に来たのはどうしてですか?」 「さあな」 ハーレムは口元を歪めた。 「何故かな」 「人体実験の材料が足りないんですが」 「アンタは本当の病人には優しいんだ。だから、手が出せない」 「本当にそう考えているんですか?」 「ああ。長い付き合いだからな」 高松は、見透かされたような気がして、ふうと息を吐いた。 本当に、この友人――いや、ライバルは、質が悪い。 「俺にはわかってるよ。アンタのことについては」 「……ルーザー様のことについてもですか」 間が空いてから、ハーレムは、 「ああ」 と、答えた。 「アンタがすごく……ルーザーが好きだったことはさ」 「アンタはルーザー様のことを憎んでましたね」 「憎んでたさ。今でも憎い。ただ、まぁ……あのことをサービスに言わなかった。その点については、見直してやってもいいかな」 「そうですか」 あの日、ルーザーは、高松を呼んで言った。 「僕は戦場へ行くよ」 高松は泣いて縋った。どうしてですか何でですか! 「ハーレムも……君と同じように泣いたよ。サービスに……僕がジャンを殺したことを言うなってね」 「ジャンを、殺した……?」 「私は罰を受けなければならない。二人の弟の分まで」 「そんな……理由はあったんでしょう?!」 「確かにあった。でも、そんなのは言い訳にしかならない」 「サービスに言ってきます。ジャンを殺したのはあなたじゃないって」 突然、高松は強い力で腕を引っ張られた。ルーザーの力は意外と強い。 高松が振り向くと、ルーザーは首を横に振った。 「兄さんに口止めされたよ。それに……僕が生きていたら、いつ口を滑らすかわからない。ハーレムとの約束もあるしね」 「約束……?」 「ああ。あの子との約束を破る訳にはいかない」 ルーザーは透明な笑みを浮かべた。それは、どこか哀しそうだった。 (ルーザー様……もしかして……) ルーザーは兄弟を大切に想っている。わけてもハーレムを。 (ルーザー様が戦場に行くのは、ハーレムのせいじゃないんですか?) 「ルーザー様にとって、兄弟は特別なのですね」 特に、ハーレムが。 「ああ。血を分けた者同士だからね」 「ハーレムのことは……」 「ああ。僕はあの子を泣かせてばかりいたからね。せめて、最後の約束は、守らないとね」 ああ、そうか――高松は思った。 ハーレムは、ルーザーにとって、特別なんだ。兄弟の中でも。 それがわかったのは――高松にとってはハーレムも特別な存在だから。 「ハーレム……」 高松はハーレムの唇にキスをした。 「な……!」 ハーレムは少なからず驚いたようだった。 「あなたは……ルーザー様のことを本当に嫌いだったんですか?」 ハーレムは立派な眉を寄せた。 「当たり前だろ。あんなヤツ」 「寝たことあるんですか?」 「……答えたくない」 「知ってるんですよ。私は」 ハーレムは瞠目した。 (ルーザー様のことなのに……私が知らないとでも思ってたのですか?) 高松の唇がひき歪んだ。 「あなた方のことなら……何でも知っています」 「何……?」 「本当はルーザー様を抱きたかったのですが……あなたで我慢します」 そして、高松はハーレムの体の上にのしかかった。 「ま……待て」 「待ったは聞きません」 高松はハーレムにディープキスを仕掛けた。ハーレムが特に何の抵抗もしなかったのは、熱でぐったりしていたからだろうか。 頭の中では、何度もルーザーを抱いた。 ハーレムの反応は、妄想の中のルーザーに似ていた。けれど、少し違う。 高松にとって、ハーレムはイミテーション。 (愛しています、ルーザー様……) 代わりに抱いたハーレムに憐憫の情すら抱く。彼だって、好きな人は別にいるのに。 サービス……。 ハーレムはサービスを愛している。 (どちらにとっても、私達はイミテーションなんですね) ハーレムは拒まない。それが、ハーレムの優しさなのだと気付いた。 彼の汗、喘ぎ声。快感を覚えている時の顔。 これを、ルーザーも知っていたのだ。 高松は嫉妬した。 ルーザーに? ハーレムに? それともその両方? 高松は考えないことにした。目の前の行為に没頭する。 「あ……あああああ!」 ハーレムが叫んだ。彼が達した後、高松も頂点に辿り着いた。 「高松……」 「……軽蔑しますか? この私を」 「いいや」 ハーレムはきっぱりと言った。 「俺も……同じだから」 「サービスに対してですか?」 「ああ。だから……アンタの気持ち、わかるよ」 「同情なんかごめんですよ」 「同情で抱かれるかってんだ」 そう言って、ハーレムは微笑んだ。 「意外とお人好しですね。あなたって」 「そうか……? けど、こんなことして、おまえに風邪がうつっても知らねぇぞ」 「いい風邪薬持ってますから」 「そうか。アンタは薬学にも詳しかったな」 寝かせてくれ、と、ハーレムは言い、そのまま眠りに落ち込んだ。 イミテーション。だけれど……愛しいイミテーション。 (私にはもう本物は残されていないから……) だから、イミテーションを抱いた記憶も、大切に心の中に閉まっておこう。たとえ、時が風化させたとしても――。 (あなたが……大好きです) 高松は心の中で思った。 それは、ルーザーに言った言葉であると同時に、ハーレムに向かって囁いた言葉でもあった。 後書き どうして私の書くキャラはどいつもこいつもハーレムラブなんでしょうか。 2011.5.5 |