不思議な出来事3

「リキッドく~ん。今日お誕生日だって? おめでとう~」
 そう言って、リキッドの部屋に入って来たのは、今やすっかり顔なじみになったグンマ博士であった。
「なんだ……アンタか。何の用だ?」
「誕生日プレゼントにね、新作のタイムマシンに乗せようと思って」
「いつもと同じじゃねーか、……て、ちょっと待てよ」
「さぁさ、早く行こ行こ☆」
 グンマに連れられて、リキッドはタイムマシンのところに案内された。
「じゃ、乗って。時間ないから」
「て、おい、ちょっと待て」
「ボタン押せば出発するからね。それとも、乗ってくれないの?」
 グンマの目がうるうるしている。
「わぁったよ。アンタには借りがあるからな」
「リキッドくん……君っていい人だね。じゃ、押してくれる?」
「ああ」
 リキッドはボタンを押した。

 独特のトリップ感の後、リキッドは自分が公園にいることを知った。
 目の前には、ブランコに乗っているハーレム。
 リキッドが立ち上がった。ハーレムが、元気なさそうにしている。
「あ……リキッドお兄ちゃん」
「なんだ? 俺に会っても嬉しくなさそうだな」
「お兄ちゃんにはわかんないよ」
「あ、もしかして、ケンカで負けて落ち込んでるとか?」
「う……」
 図星だったらしい。
「なんだー、情けないぞ。そんなことで笑顔忘れるなんて」
「リキッドお兄ちゃん……お兄ちゃんて、ケンカ強い?」
「あたぼうよ。俺はそれが本職なんだぜ」
「じゃあ……じゃあ、ぼくにケンカ教えて」
「ああ、いいぜ」
 リキッドは、優越感にじーんと浸りながら、答えた。
 ハーレムが、俺を頼りにしている。
 少年はブランコを降りて、リキッドのところに走ってきた。
「よし。まず、親指を握るように拳を作れ」
 リキッドが手本を見せた。
「よぉし! さぁ、かかって来い!」
「わかった!」
 ハーレムの攻撃を、リキッドは紙一重でかわしていく。
 もちろん、大人になったハーレムとその部下達に苛められ、もとい、鍛えられたリキッドには児戯に等しい。だが――。
 リキッドは、この少年に眠る格闘センスを素早く見抜いた。
(さすがは隊長)
 リキッドはさすがだと、舌を巻いた。
「相手は数人だったんだな」
 喋りながらも、動きを止めない。
「ああ、そうだよ」
 ハーレムが答えた。
「いいか、ケンカには気合いも必要だ! 『自分は絶対負けない!』と心の中で念じるんだ! 大丈夫! おまえは強い!」

 太陽が夕闇に沈んでいった。
 リキッドとハーレムは、地面に寝転んだ。
「おまえ、なかなかやるじゃねぇか」
「ほんと?!」
「ああ。このまま行けば、本当に強い大人になるぜ」
 強過ぎて、俺を苛めるほどの凶暴な上司に……だが、リキッドは、それを声には出さなかった。
 でも、涙が滲むのはどうしてだろう。
 こんな従順で可愛い子が、こわーい獅子舞様になっちゃうんだもんなぁ……。
「ありがとう。リキッドお兄ちゃん」
「いいってことよ」
「ぼく、サービスをいじめたヤツに仕返ししてやるんだ」
 じゃあ、今日ケンカしたのは、自分の為じゃなく弟の……。
(なんだ、いいとこあんじゃねぇか……ハーレム隊長も)
 今では、弟にすっかり頭の上がらないハーレムも、ちゃんと弟のことを大切に思っていたのだ。
「ねぇ、リキッドお兄ちゃん。一緒に戦ってくれる?」
「わるいが、それはできねぇ相談だ。なぁ、覚えてるか? ハーレム。俺、前に言ったろ。男だったら強くなれ、と」
「うん」
「だから、これはおまえの戦いだ。おまえ一人で戦うんだ。守るものがあるならな。あと、ケンカでは頭も使え。その辺はおいおい実戦で覚えていくんだな」
「……わかった」
「じゃ、気をつけて家に帰れよ」
「リキッドお兄ちゃん……また会えるよね」
「ああ。どうしてそんなことを訊く?」
「だって、リキッドお兄ちゃん、会えるとき少ないし」
「おまえ、俺に会いたいって、思ってくれてるのか?」
「――いつも思ってるよ」
 リキッドは、その台詞にふっと笑った。
「そのうち、いやでも会えるさ」

 ハーレムを見送った後、リキッドは、現代に帰ってきた。正確には、リキッドの意識が、だが。
「ごめんね、ごめんね。リキッドくん」
「もう、その台詞は聞き飽きたぜ」
「そうですよ、グンマ様。こんな男に同情しても仕方ありません。それにしても頑丈な人ですねぇ。あの爆発でかすり傷ひとつないとは。せいぜい意識がなくなったくらいなんて、どれだけ丈夫な人なんですか。ちょっと検査させてもらえませんか?」
「いや、いいっす、いいっす」
 リキッドは慌てて手をぶんぶんと振った。
 ハーレムは、あの後、勝ったのだろうか……。
(きっと勝ったよな)
 リキッドは、ハーレムの戦いの強さと、思いの強さを信じた。

後書き
『三橋と中学時代の阿部』の焼き直しですが、元ネタはドラマ『ごくせん』だったりします。
あと、いろんなところからパクリました(汗)
一応リキッドハピバ小説です。お誕生日おめでとう!
2009.5.21


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