ハーレムライオンStory~『拾え』~



 ここは、とある路地裏の一角――。
 オレンジのダンボール箱に、一匹のライオンが入っていた。そばには『拾え』との看板を立てて。
 なかなかかわいいライオンなのであるが、普通の人はそんなもの飼おうとする気もなく、さっさと前を通り過ぎていく。それでも、ライオンにとってはどこ吹く風。今日も今日とてきょろきょろと、道行く人を観察する。
 さて、この後、このライオンは4人の人と出会うのであるが、それがどんな様子だったか――ちょっと見てみようではありませんか?

CASE1:

 看板の前で、一人の青年が足を止めた。
 優しそうな大きな黒い目の青年だ。そう長くもない瞳と同じ色の髪は、右側で分けて、左方に流している。
 何にも疑ったことのなさそうなその男の笑顔を見た時、ライオンは何故かむかついた。
 青年はライオンを抱き上げる。ライオンは唸りながら睨む。
「かわいいなぁ」
 そう言って、青年はまた微笑む。第一印象では気に入らなかったものの、かわいいと言われればライオンも悪い気はしない。
「俺の所に来る? 俺、ジャンてんだけど、君は?」
 ライオンは返事の代わりに、ぐるるるる、と唸る。
「ああ、言いたくなかったら言わなくたっていいんだ」
 青年がひょいとライオンを肩に載せ、向かった先はペットショップ。
 ご飯でも買ってくれるというのだろうか?
「あ、これがいいかな」
 そう言って青年が手にとったのは――キャットフード。
(野郎、俺をネコと勘違いしてやがるのか?!)
 なめんじゃねぇ!とばかりに、ライオンはするりと降り立ち、ジャンのすねを思い切り蹴り上げる。
 ジャンが痛がっている間に、ライオンは逃げ出し、元のダンボールの所に帰ってきた。
 ここでまた、自分を飼うにふさわしい人間を待っているのだ。

CASE2:

 ライオンがうつらうつらしていると、長い影が差した。
「おや、こんな所にライオンが――」
 ライオンはまた抱え上げられる。今度も男だ。さっきの青年と同じ黒髪と黒い瞳、髪の長さもだいたい似ている。だが、顔立ちは全然違っていた。
 吊り上った眉に垂れ目、口元にほくろ、何かを企んでいるような表情を浮かべている。
「新薬の実験材料にちょうど良さそうですねぇ」
 身の危険を感じたライオン、すぐさま相手の顔に一発、ガリッ!
「~~~~何するんですか! 実験材料のくせに!」
「ガオウッ!!」
 死闘を繰り広げること三時間――敵は追っ払ったものの、ライオンも満身創痍であった。

CASE3:

 淡い金色の髪を真ん中で分けた長身の青年が、ライオンの前を通りかかる。青年は、およそ罪と言うものを知らないような、綺麗な顔をしていた。
 彼を見た時、ライオンは何故か総毛立ち、背筋に悪寒が走った。
 青年が気付いて、看板を見る。
「拾え……?」
 言い終わるや否や、ライオンは、スーパーダッシュで一目散に駆け出した。
「あ……あれ?」
 一人取り残された青年は、わけもわからずにライオンの消えていった方を眺めていたのであった。

CASE4

 ライオンがきょろきょろ眺め回していると、帰り道を急ぐ一人の少年が目に入った。
 長い髪は後ろで一つに束ねている。それが、さらさらの綺麗な金髪なのだ。
 顔立ちも、少々きついが、美形と呼ぶにふさわしい顔立ちだった。
「…………」
 少年はライオンの方を一瞥したが、足も止めなかった。
「…………」
 ライオン、ダンボールと看板を抱えて先回り。
「ガオ」
 少年、今度は足を止めて、振り返る。さっき来た道を振り返る。確か、このライオンはあっちで見かけたはずだったが――
 そこには誰もいないし、何もなかった。
「???」
 少年は疑問を感じはしたものの、急いでいたのでまた歩き出す。ライオン、塀をつたって先回り。
 少年が角を曲がる。
「ガオ」
 少年、今度はさすがに気がついた。
「僕の後をついてきていたのか?! お前は!」
 ライオン、ダンボールから出てくると、少年の足の上に寝そべった。
「おい……」
 ライオンはどかない。少年は蹴り上げようかと思ったが、それはさすがにしのびなかった。彼も動物が好きなのだ。
「どかないか、こら」
 言葉で言っただけでは、無駄のようだ。少年はとうとう観念した。
「変なのにつかまっちゃったなぁ」
「ガオ」
「わかった、わかったからどいてくれ」
 少年はまた改めて看板を見た。
「拾えばいいんだろう?」
「ガオ」

「あんまり吼えるなよ。近所迷惑だからな」
 ここは、ガンマ団士官学校の寮の一室。少年――サービスは、ここの寮生だったのだ。
 動物好きのガンマ団総帥の下、寮の中でも、教官の許可さえ取れば、たいていの生き物は飼うことができる。もっとも、今回はライオンということもあっててこずったが。
「無理言って飼ってもいいということにしてもらったんだ。忘れるなよ」
「ガオウッ」
「吼えるなって言ってるだろ」
「ガーッ!」
「……もう、追い出されてもしらんからな」
 サービスはベッドに寝転がる。ライオンも、近寄ってそばに寝そべる。
「……お前、あいつにそっくりだな」
 サービスが言った。
 ひねくれているかと思えば素直で、反抗するかと思えば甘えてきたり。
 何より見た目がそっくりだ。
「名前をつけなくちゃいけないな」
 サービスはライオンをなでながら言った。
「おまえの名前はハーレムだ。いいか。ハーレム」
「ガオ」
 ライオンも、その名前が気に入ったようだった。
 ようやく安住の地を見つけたかに見えるハーレムライオン。だが、気は抜けなかった。何故なら、この後地獄のシャワータイムが待っていたからだ――

後書き
藍上葵さんの描いてくださったハーレムライオンを見ていたら浮かんできた短篇。最後の方、ちょっと狙ってますね(何を?)
ジャンを青年、サービスを少年、と形容しているのは……ま、見た目の違いでしょうな(笑)
高松がモロ悪役です。ごめんね。
この話は、私が腑抜けてた時に喝を入れてくださった藍上葵さんに贈ります。


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