端書き(未完) ~南の島の歌シリーズ~
5
 空が星で埋め尽くされていた。まるで今にも降ってきそうだ。
 冬、といっても、いつもより温度が数度下がるだけだが、常夏の気温に慣れた身には、なんだか涼しく感じられる。俺は寒暖の差にはあまり左右されない方なのだが。
 新年が近づいてきていた。あと数日で、新しい年が幕を開ける。
「長老」
 長老カムイがこちらを見た。知識と知恵は、おそらく島一番であるだろう。
「ジャンか」
 長老は星空を見上げていた。ただ仰いでいるわけではない。長老は星の動きを読んで、未来を予知しているのだ。
「何か変わったことは?」
「――ある」
「変化が?」
「そうじゃ。それも、おそらくは数十年にわたる大きな変化じゃ」
「はあ……」
「ジャン。おぬしは、この島が永遠に変わらないものだと、思っておるか?」
「はっ。それは、多少の変化はあるでしょうが」
「これから来る変化は、そんななまやさしいものではない。おまえさんの常識をも、覆すものじゃぞ。きっとな」
「――どういうことでしょう? 災害が襲ってくるということでしょうか」
「災害か。或いはな。星はこう語っておった。『変化は――お前達の間から始まる。そして、それが悪しきものをもたらす』」
「えっ?」
 俺は目を見開いた。
「変化の兆しは、小さ過ぎてすぐには気付かないかもしれん。――双子に気をつけるんじゃ。ジャン」
 長老はふぅと息を吐いた。
「もう既に、水面下では物事が動いているかもしれん。人間の知ることのできん領域ではな。これだけは言える。今から何十年と経たんうちに、この島を取り巻く環境は、今とはすっかり違っていることじゃろう」
 明け方の湖畔には、ひんやりとした風が吹き渡る。
 うっすらと靄がかった木。青く、澄明な湖。時折聞こえる、小鳥の囀り。
(注:文はここで終わっている――)

後書き
これは、高校の頃の習作です。
机の中から見つかったので、懐かしく思い、お披露目した次第です。
もっと長くなるはずだったんですが。
数か所は直しておきましたが、後は、原文のママです。
矛盾点とかありますが、お目溢しを。
白亜宮の庭の花は、当時知っていた花の名前を、ずらずらと書き並べたものです。この頃の私の方が、今の私より、物知りだったみたい(笑)


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