ナガサキ藩主

 ハーレムはそこら辺をぶらついていた。永崎の街はいつ来ても活気に溢れている。
 九州のあちこちからマジックの祖先が攻め取った貿易の街――それが永崎藩である。
 ハーレムはそこで見知った顔を見つけた。
「パプワ」
「おお、ハーレムじゃないか」
 茶色の犬と一緒に歩いていた少年、パプワである。
 パプワは弱冠十歳の子供である。しかし、永崎藩主マジックの息子シンタローを召使いとして扱っている。シンタローの弟コタローとは親友同士である。どうやらウマが合うらしい。
「チャッピーもは元気か?」
「あおん」
「よーしよし」
 ハーレムがチャッピーの頭を撫でる。
「しっかしわかんねぇな。パプワは本当は永崎藩主のマジック兄貴より偉いだろ? それなのにそんな素振りひとつも見せねぇ」
「権力には興味ないからな」
「面白れぇヤツだ。だが、俺にはあるぞ。権力欲と言うヤツが――人並にな」
「人並以上だろ?」
「言われちまったなぁ」
 ハーレムはポルトガルから伝来されてきたとされる煙草をくわえる。
 パプワはマジックより位が高い。だが、それとは別にパプワには人を惹きつけてしまう妙なところがある。頭の回転も速い。
(初めて会った時は敵同士だったのにな――)
 いつの間にかハーレムはパプワに魅了されていた。今は甥っ子達と同じくらいに可愛い。
「シンタローは使えるか?」
「料理の腕が上がったぞ」
「それは良かった。バシバシ鍛えてやってくれ」
「わかったぞ。どこへ行く、ハーレム」
「キンタローとグンマのところへだよ。近々壬生の心戦組と戦争があるかもしれんからな」
 パプワは不思議そうな顔でじーっと見つめている。
「どうした?」
「ハーレムは戦争が好きなのか?」
「ああ、大好きだ。好きなだけ人殺しても、眼魔砲を撃っても文句言われねぇ」
「変だな。戦争するより、仲よくする方がよっぽど簡単なのに」
「――そりゃ、おめーにとってはそうだろうよ。だが、マジックと覇権争いもしたことのある俺は、血の匂いを感じるとうきうきしてしまう質でな」
「――マジックと戦ったのか?」
「昔な」
 陰謀渦巻く永崎藩。そこにハーレムも参戦していたことがある。まだ若かった。シンタロー達が生まれる少し前のことだ。
 あんな戦いがなければルーザーも――。
 ハーレムが苦く笑った。
 よそう。詮無い繰り言だ。
「パプワはどこか行くのか?」
「僕はチャッピーと散歩だ」
「んじゃ、久しぶりに寄ってみねぇか? グンマとキンタローのところによ」
「構わんぞ」
「じゃ、行くか。そうだ」
 ハーレムは屋台に近付きりんご飴を買った。
「ほれ。お前の大好物だろ?」
「おう、ありがとう」
「後でコタローにも買ってやるって言っといてくれ。俺はおじさんだから忘れるのが早いけどよ」
「わかったぞ」
 パプワはリンゴ飴を美味しそうに舐める。目的地はすぐそこだった。

 ドンドンドン。ハーレムが長屋の扉を叩いた。
「おい、いるんだろ。グンマ、キンタ……」
 皆まで言わないうちにキンタローががらりと扉を開けた。
「ハーレム叔父貴!」
 その名前を呼ぶキンタローの声には嬉しさが点っていた。
「キンちゃん。少し静かに――ハーレム叔父様が来たの?」
「ああ」
「グンマ、キンタロー、手を貸してもらいたい」
「喜んで」
 キンタローが笑み崩れた。
「あー、パプワくんりんご飴持ってる。いいなぁ」
 と、グンマが羨ましそうに言う。
「ハーレムにおごってもらったぞー」
「えー? 僕らにはお年玉もくれない叔父さんなのにー?」
「ばーろー。大人になったんだから一人で稼げ」
「ちょうど良かった。新しいからくりが完成したところだよ。見に来る?」
 グンマはハーレムを無視してパプワに言う。
「楽しみだな、チャッピー」
「あおん」
「お前らしょーもないからくりの研究してるから貧乏なんだぜ」
「貧しくても楽しい我が家。行こう、パプワくん」
「おう」
「でも、そのお前らのくっだらねぇ発明品とやらが、どうやら必要みたいなんでな」
「下らないとは失礼な」
 ハーレムの言葉に、グンマは不満そうに膨れる。
 心戦組には、ブレーン山南がいる。熱狂的なマジックファンだが。マジック愛好会は最早宗教と言ってもいい。
 一体兄貴のどこがそんなにいいのかねぇ……。
 ハーレムはぼんやり考える。
「叔父様も見て見てー」
「わかってるよ」
 ハーレムはくわえ煙草で答える。
 この無邪気なグンマがマジックの正妻から産まれてきた子供であるのだから、血というものはわからない。グンマは一見女の子みたいだ。
 からくりが好きで、蘭学に興味を持っているらしいキンタローと一緒に住んでいる。従兄弟同士で仲も良い。
 グンマとキンタローも、昔は犬猿の仲だった。仲裁していたのはシンタローである。ついでに言うと、キンタローはルーザーの息子だ。
「俺も、叔父貴には見て欲しい」
「そうかそうか。で、あのシュミの悪いのが発明品か」
 きらきらおめめの白鳥のおまるみたいなものが外に置いてある。長屋には入りきらなかったのだろう。
「俺は手伝っただけだが」
 キンタローは何故か機嫌悪そうにそう言う。
「僕がデザインしたんだよー」
「そうだろうと思った。お前、美的センスねぇな」
「ふんだ。叔父様の意地悪」
 グンマが拗ねている。こんな表情を高松に見せたら、大量の鼻血の雨が降ること間違いなしである。
「けれど――最新のからくりだぞ。これは」
 キンタローが弁護する。
「わぁってるよ。んなこたぁ」
 こう見えて、グンマもキンタローも天才である。グンマは天才ゆえに欠落もいろいろ多いが、キンタローがサポートしている。キンタローに世話女房の役が務まるなど、ハーレムには思ってもみなかった。
 兄貴達よぉ……こう見えても、アンタらのガキはそれなりに立派に育っているぜ。
 ハーレムが心の中で呼びかけた。特に、ルーザーに対して。
 永崎藩主のマジックも、次期藩主のシンタローも重い物を持っている。できることなら代わってやりたいとハーレムは思う。
 ハーレムには少し、パプワの言っていたことがわかるような気がした。自分は血なまぐささを纏っている男だが。

後書き
永崎藩という架空の藩が舞台のなんちゃって時代劇シリーズです。今回は永崎藩の秘密が――少しだけ明らかになったかな。
ハーレムが主人公なので、書いてて楽しかったです。
でも、戦争するより仲良くする方が簡単ですよね……。
2018.01.04

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